「アニメ」と「アニメーション」が異なる件 後編

前回、海外では、「アニメ(Anime)」が日本アニメを指す言葉として定着しているというお話をしましたが、日本製のアニメは「ジャパニメーション(Japanimation)」ではないのか、と思う方もいるかもしれません。

「ジャパニメーション」という言葉は、説明するまでもなく、「ジャパン」と「アニメーション」を掛け合わせた造語ですが、いつ誰によって作られたものかは定かではありません。
記録上はっきりしている使用例としては1980年代の北米に見られ、ディズニーのアニメ映画やカートゥーンと区別する用語として使用されていたようです。
しかし、1990年代には「Anime Expo」の名称に見られるように、「アニメ(Anime)」という言葉が普及したため、「ジャパニメーション(Japanimation)」は急速に使われなくなっていきます。

ところがその一方で、日本では1990年代にこの「ジャパニメーション」が積極的に使われるおかしな現象が起こります。「キネマ旬報」や「ユリイカ」などの各雑誌で「ジャパニメーション」を冠した特集記事が掲載され、テレビなどの報道でもよく「ジャパニメーション」の言葉を聞くようになっていきました。
特に政府が推し進めるクールジャパン政策関連の報道や特集記事、関連記事などで多く使用されていた印象があります。
海外ではすでに「ジャパニメーション」が使われなくなっているのに、その海外への発信を意図する政策やメディア上で、日本だけが「ジャパニメーション」を使い続けるという珍妙な状況が2000年代になっても続きました。
2018年には電通が、アニメ制作会社と連携して日本の有力な輸出コンテンツであるアニメを活用するための組織「Dentsu Japanimation Studio(電通ジャパニメーションスタジオ)」を設立しており、近年でもまだ使用している例が見られます。
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/1022-009626.html(リンク切れ)
https://dentsu-js.jp/(リンク切れ)

現在では、日本国内でも海外においても、アニメファンの間で「ジャパニメーション」を使う例はほとんど見られません。
特に海外で使用されなくなった背景には、「Japanimation」を「Japan+Animation」から生まれたことを知らない人にとっては「Jap+Animation」の造語だと捉えてしまう向きがあり、差別用語的な印象があることから、日本アニメにリスペクトがある人ほど使用を避ける傾向があるようです。
また、カートゥーンやディズニーアニメとの対比で、日本アニメには、卑猥なシーンや残虐でグロテスクなシーンなども多いことから、このような教育上よろしくないような作風というネガティブイメージが「Japanimation」という言葉と結びついていたこと、さらには、単純に言葉自体が古臭いと感じるなどの理由も挙げられるようです。
日本の場合、こうしたネガティブなイメージがなく、海外市場でも勝負ができる日本の有力コンテンツというポジティブなイメージをもって「ジャパニメーション」を認識しているため、メディアによる報道では、国内市場におけるアニメではなく、海外への日本コンテンツ発信の文脈で語る際に、イメージしやすい便利な用語として活用されるケースが多いわけです。

完全にガラパゴス化して、日本人にしか通じないこの「ジャパニメーション」という言葉を今後も使い続けるのか、世界標準である「アニメ(Anime)」に切り替えていくかは、メディアの判断に委ねるしかありませんが、「ジャパニメーション」が海外はおろか、日本国内のアニメファンの間ですら完全に死語ともなっており、報道用語のようになってしまっている現状は留意していただきたいところです。


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