アニソンのアーカイブ事業の可能性について考えてみた件

アニメの解説書

先のコラムで、アニメソングのアーカイブ化が遅れている状況に触れましたが、アニメはテレビアニメ、劇場版、OVA、WEBアニメと合わせて累計1万2000作品以上もあり、全ての作品にオープニングとエンディング曲があると仮定すると、単純計算で2万4000曲以上はあるはずです。
実際には、1作品で複数曲あるものもあり、挿入歌やイメージソング、キャラクターソングもあるので、実際にはもっと多いかもしれません(もちろん、逆に主題歌のない作品や、オープニング、エンディングの片方しかない作品もあります)。
日本アニメの歴史はすでに100年を超えており※1、日本初の劇中歌が登場したアニメは『月の宮の王女様』(1934年)と言われていることから、アニメソングの歴史もすでに90年近くあると考えると、作品のボリューム的にも、年期的にも充分に文化として収集対象たり得るはずです。

問題は、聞きたいと思っても、レコードやCDは絶版で、配信もされていないものも多く、聞きたいと思っても現在では聞けない楽曲が多数存在していることです。
昭和のアナログレコードなどは、北海道新冠町のレ・コード館や、東京都千代田区の昭和館/映像・音響室、石川県金沢市の金沢蓄音器館などの収蔵施設があり、初期のアニメソングのレコード盤なども収蔵されていますが、CDはまだ歴史が浅く現在も流通しているためか、アニメソングのCDを多く収蔵するような博物館は見られません

実は、音楽関連のアーカイブ事業は、公益財団法人日本伝統文化振興財団が、2007年に歴史的音盤アーカイブ推進協議会(HiRAC)を設立し、国立国会図書館の資料として収集を進めています。

国立国会図書館の収蔵物を見てみると、『機動戦士ガンダム』オリジナル・サウンドトラックのCDや、『鬼滅の刃』の主題歌「紅蓮華」のCDなど、古いものから新しいものまでかなり広範囲に収蔵されています。
著作権切れの音源は、国立国会図書館のWebサイト「れきおん」で試聴できますが、当面アニメソングの著作権が切れることはないので、ここで視聴できるようになるのは、まだまだ先のこととなるでしょう※2

先のコラムで、配信にない楽曲として取り上げた『ときめきトゥナイト』のED「Super Love Lotion」、『天空戦記シュラト』のOP「SHINING SOUL」、『EAT-MAN』のED「WALK THIS WAY」、『SHADOW SKILL -影技-』のOP「born Legend」などもちゃんと収蔵されており、マイナーなアニメソングなどもカバーされている様子が伺えます。

保存の面では良くとも、試聴の方はどうでしょう。
CDなどの視聴覚資料は基本的に相互貸借(他の区域の図書館から取り寄せて借りるサービス)の対象外なので、国立国会図書館内の音楽・映像資料室で聴く必要があり、都内在住ならまだしも、地方在住の方の利用は難しいでしょう。

地域の図書館では、基本的に大多数を占めるのはJ-POPやロックなどのポピュラー音楽で、次いでクラッシック音楽、アニメソングやゲームミュージックなどサブカル系の音楽は、民謡や童謡、民族音楽などの音楽、落語や朗読などの音楽以外のものなどと同じくらいで数がそれ程多くないというのが一般的なラインナップかと思われます。

とすると、やはり対価の問題は別としても※3、あらゆるアニメソングを自由に聴けるとは程遠い状況なわけです。
筆者は個人的に収集したアニメ関連CDを1000枚程所有していますが、それでも入手が叶わず、現在も聴けずにいる楽曲があります。
生れた時にはすでに多くの楽曲が絶版になっていた若い世代や、海外のアニメファンなどは、筆者が所有しているものすら入手が困難でしょう。

全てがそうだとは言わないまでも、クリエイターは過去の作品に学んで新しいものを生み出していくのが常のはずで、過去の作品に容易に触れられない状況というのは、現在の若きクリエイターにとっては不幸と言えるでしょう。
過去の名作に触れることで、それに触発され、より良い作品を生み出していってもらうためにも、過去の作品の保存・試聴のインフラ整備は必須かと思われます。

アニメソングはいろんな音楽会社の権利が絡んできて民間企業では成立し難いので、音楽会社などの出資によるNPO(民間非営利組織)とか、文化庁、あるいは東京都の産業労働局観光部振興課などの公的な機関によるものが相応しいかもしれません。
前述の歴史的音盤アーカイブ推進協議会(HiRAC)が手掛けてくれれば言うことなしなのですが。

仕組み的には、電子図書館と同じように、期限付き+数量限定の視聴レンタルという形で行えば、市場を荒らさずに済むのではとも考えられます。
また、現在図書館で行われている雑誌の最新刊は次の刊が出るまで貸し出しできないといったような仕組みも取り入れ、最新の楽曲は一定期間を過ぎないと一部分のみの試聴しかできないといった配慮があっても良さそうです。
あるいは、マンガ喫茶やサブスクのように一定金額を徴収して利用可能にする有料サービスにして、少しでも著作権者に還元できる仕組みでも良いかもしれません。
当然ながら、ユーザーが的確に楽曲を探せるように、作曲家や作詞家、歌手のマスタデータや、タグ付けやジャンル分けなどデータベースの整備も必要となるでしょう。

いずれにしても、記憶媒体の劣化などで貴重な音源が失われてしまう前に、アニメソングを恒久的に保存し、且つ後の世の人や国内外も問わず自由に触れられるアーカイブ整備が構築されることを願うばかりです。

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※1 日本最古のアニメと言われているのは1917年の『凸坊新画帖 芋助猪狩の巻』

※2 著作権保護期間は著作権者の生存年間及びその死後70年間ですが、アニメソングの初期作品である『鉄腕アトム』の主題歌でも、作詞家の谷川俊太郎も作曲家の高井達雄もまだご健在であることから、ほとんどのアニメソングは、当面は著作権保存期間が満了することはありません。

※3 貴重なCDなどは高額取引されていますが、金に糸目をつけなければ、収集は不可能ではないかもしれません。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00005FNW7