打切アニメ列伝⑤ 人気があったのに時代が悪かった『蒼き流星SPTレイズナー』

アニメの解説書

『蒼き流星SPTレイズナー』
1985年10月3日~1986年6月26日/日本テレビ/全38話
原作:伊東恒久、高橋良輔/監督:高橋良輔/アニメーション制作:日本サンライズ

視聴率も安定して高い人気作品※で、元々2クールの予定だったのを4クールに延長することが決まった矢先に、三洋電機(現・パナソニック)が石油ファンヒーター事故(該当商品で一酸化炭素中毒者が続出した事件)のために2クールをもってスポンサーを降板してしまいます。この事態を受け、元々作品人気の割にプラモデルや玩具の売上が芳しくなかったことから、メインスポンサーのバンダイの意向で急遽打ち切りが決定し、結果3クールでの終了となってしまいました。

人気もあって視聴率も高かったのに、なぜ関連玩具の売れ行きが悪かったのかと言うと、この時期、空前のファミコンブームで、1985年末時点で累計出荷台数が579万台を超えており、『ディグダグ』・『スパルタンX』(1985年6月発売)、『ドルアーガの塔』(1985年8月発売)、『スーパーマリオブラザーズ』(1985年9月発売)、『ポートピア連続殺人事件』(1985年11月)、『ツインビー』(1986年1月発売)、『グラディウス』(1986年4月)という大ヒットタイトルが目白押しだった時代であったためです。子供たちのお小遣いはファミコンソフトを買うのに使われてしまい、ロボット玩具には使われなくなっていました。作品に問題があったわけではなく、時代が悪かったというわけです。

『蒼き流星SPTレイズナー』の舞台設定年は、放送時から約10年後の1996年。まだアメリカとソ連との冷戦が続く中で、人類は火星に進出して観測基地を建設しており、そこへ国連主催の宇宙体験教室に参加した子供たちがやって来るのですが、到着早々、基地が謎のロボット兵器による襲撃を受けて主だった大人たちは死んでしまい、残されたのは子供たちと引率者の女性のみ。そんな子供たちを救ったのは同じくロボット兵器レイズナーに乗って現れた、地球人とグラドス星人の混血児である主人公エイジで、地球がグラドス星人に狙われていると告げ、子供たちを守りながら地球に向かいます。エイジたちは、グラドス軍の追撃を掻い潜って無事地球に辿り着くのですが、地球は大国同士が睨み合う情勢下で、エイジは父より託された大切なメッセージを地球人に伝えることができず、地球はグラドス軍に占領支配されてしまいます。
3クール目となる第25話以降は設定年が1999年に代わり、グラドス軍統治下の地球が舞台となります。
それまでの宇宙を舞台にしたSFロボットから、第二次世界大戦期のドイツ統治下のヨーロッパに近い世界観に代わり、白く清潔なパイロットスーツ姿だったエイジも、『北斗の拳』のケンシロウのような雰囲気にイメージチェンジ。
圧倒的な戦力を持つグラドス軍に対し、エイジたちレジスタンスが地球解放を目指してゲリラ活動をする展開となります。

『蒼き流星SPTレイズナー』では、作品の打ち切りの決定が最終話放送日の2週間前と急なものだったため、対応が間に合わず、現在も語り継がれる謎の最終回が誕生しました。

最終話前の第37話では、エイジがグラドス軍の基地に侵入し、V-MAXのシミュレーション訓練中のグラドス軍司令官ル・カインに悪戯する話となっており、この時の会話で、ル・カインがグラドスと地球人の関係の秘密をエイジが握っていることに気づきます。
その後、レイズナーの専売特許で、その圧倒的優位のおかげで単騎で戦ってこれた一時的な高速戦闘機能V-MAXを、ル・カインの専用機ザカールも使えるようになり、エイジとレイズナーは、作品中で初めて完全な敗北を喫してしまいます。
実は、エイジが地球に伝えようとした父のメッセージというのは、グラドス星人が地球人と同一人種であるというグラドス創生の秘密※でした。そのことを地球侵攻艦隊司令の父グレスコから知らされていなかったル・カインが、この第37話のラストで、エイジからグラドス創生の秘密を聞き出そうとするところで終わります。
ル・カインは、自尊心が異常に高く、地球人を見下して地球の文化撲滅に力を注いでいるグラドス至上主義者でしたから、グラドスの秘密を知ったル・カインがどうなっちゃうのか、見ている側は次回が楽しみで仕方がありません。

ところが、第38話(最終話)です。

冒頭から、1999年12月30日南アメリカのナスカ平原で、地球解放戦線機構が地球を救う切り札であるグラドスの刻印を守るために、父を殺して独裁者になったル・カインの軍隊と対峙していた、というヒロインであるアンナのナレーションが入り、巨大ロボット軍同士の激しい戦闘シーンが繰り広げられます。この戦いには、前回ほぼ戦闘不能状態まで破壊されてしまったレイズナーも無傷の状態で参戦しているではありませんか。
戦況は圧倒的戦力差があるグラドス軍が優位で、地球解放戦線機構軍は、追い詰められて籠城したクスコの遺跡を完全包囲されてしまい絶体絶命。
ここからがまた急展開で、遺跡のエイジが突然みんなに別れを告げると、遺跡からはグラドスの刻印かと思われる巨大な円筒形の建造物が出現して宇宙へ飛び立ち、エイジはレイズナーに乗って、このグラドスの刻印と共に宇宙へと去ってしまいます。さらにグラドス軍に潜入していたかつてのエイジの仲間で地球人のロアンが反乱を起こして形成逆転すると、ル・カインは怒りを抑えつつ、必ず帰ってくるとロアンに捨て台詞を残してザカールで飛び去ります。
場面は宇宙に切り替わり、グラドスの刻印の中にいたエイジの姉ジュリアが地球人とグラドス星人は出会うのが早かったと語っているところへ、ル・カインが2人の後を追って現れてエイジに最後の勝負を挑み、エイジもこれを予見していたがごとく平然と受けて立ちますが、思わず「お前、前回全く歯が立たなかったじゃないか!」と学習力ゼロのエイジにツッコミを入れてしまいます。
ここでジュリアがグラドスの刻印を発動すると、地球周辺が虹色に包まれ、地球に残された人々は空を見上げて呆然。
と思ったら、晴れ渡った空のもと、残されたエイジの仲間たちが、物語前半の回想シーンを交えながら思い出語りをはじめます。そして終盤、宇宙に漂うレイズナーと、誰もいないコックピットが映し出されると、レイズナーのコンピューターが起動して目標を地球に定め、V-MAXを発動して地球に向けて飛んでいく姿でEDです。
ここまで視聴者は完全に置いてけぼりで、何が何だかわからないまま呆然と最終回を見終えるのです。

当時のファンは、後からアニメ誌などで番組が打ち切られたことを知るのですが、その誌面の解説で、いきなり最終回に登場したグラドスの刻印というのは、かつて地球を訪れた旧グラドス星人が、兄弟となる地球人とグラドス星人が遠い未来に出会った時、それが平和的な接触とならず、不幸にも異文明衝突による破滅の危機を迎えてしまう可能性を考慮し、その安全装置として残したもので、地球とグラドスの間の宇宙空間を歪曲させて航行を遮断させるものであったことがようやく解ります。
当時アニメ誌を読まなかった視聴者は、その後も謎のままの最終回となっていることでしょう。

『蒼き流星SPTレイズナー』は、ドラマ性や設定の緻密さ、360度の全方向を意識した宇宙空間での戦闘や、追い込まれてから発動するV-MAXの無敵モードの爽快さ、ル・カインのキャラ立ちや黄金色の機体、癖の強い4人ごとに特性や武装の異なる黒い機体を駆る死鬼隊など見所満載で、スポンサーの不祥事がきっかけで敢え無く打ち切りとなってしまったものの、作品人気が高かったことから、放送終了のわずか2か月後の1986年8月からACT-I 「エイジ1996」、ACT-II 「ル・カイン1999」、ACT-III 「刻印2000」というサブタイトルで、総集編&続編のOVA全3巻が発売されています。
ACT-I 「エイジ1996」、ACT-II 「ル・カイン1999」はテレビ版の再編集で、ACT-III 「刻印2000」では、第37話で壊滅的な打撃を受けたレイズナーが、新レイズナーにAIのフォロンを移し替えるところから始まり、テレビ版ではカットされてしまったグラドス創生の秘密を知った後のル・カインによる父殺し、ロアンの昇進、ナスカ平原での戦いが描かれ、テレビ版第38話のクスコ遺跡からのシーンに繋がります。
エイジとル・カインの最後の戦いの結末などもちゃんと最後まで描かれ、テレビ版での謎展開や消化不良だったラストでもやもやしていた人も納得できるラストとなっているので、未試聴の方はACT-III 「刻印2000」を是非見ていただきたい。


※同時刻に社会現象とまで言われた高視聴率番組『夕やけニャンニャン』が放送されていた裏番組にあって、平均視聴率が10%を超えていたというのですから、大健闘していたと言えるでしょう。

※現在のグラドス星人は、4万年前、種としての活力を失い滅びつつあり、同種の生命体を探し求めていた旧グラドス星人が地球を訪れ、まだ活力にあふれた地球人の生命核を持ち帰り、文明を継承させるべく保護育成した人類(OVAの説明では、地球人の生命核を自分たちの生命核へ異色して新たに生み出した人類)であって、地球人と同じ人種であるという設定になっています。