カプセルトイのことについてもう少し語ってみた件 ②「ガチャガチャ」誕生の歴史・前編

前回は、カプセルトイについて、その名称(呼称)について解説しましたが、今回はカプセルトイの起源や歴史について見ていきたいと思います。

「ガチャガチャ」誕生の歴史
前回のコラムでも触れたように、カプセルトイはアメリカ生まれです。

現存している最古の自動販売機は、1615年製のイギリスの煙草自販機だそうで、硬貨投入口から半ペンスコインを投入すると箱の蓋が開いて商品が取り出せるという簡単な仕組みのものでした※1
本格的に自動販売機が普及し始めたのは1800年代のヨーロッパで、新聞や本、切手、ポストカードなどを売る様々な自動販売機が考案され、駅や郵便局で運用されていたようです。
アメリカでは、1888年にニューヨーク市の地下鉄の高架プラットホームに設置された、スティック型やブロック型のチューインガムの自動販売機がはじまりとのこと。

1907年には、キャンディーでコーティングされた丸いガムボールの自動販売機※2が登場します。
これなどはフォルム的にはカプセルトイの直系の先祖という印象ですが、まだハンドルはスライド式でした。
本格的に普及したのは1920~30年代で、この頃に回転ハンドルが導入されています。

このガムボールマシンが現在のカプセルトイの前身といって間違いないでしょう。
外見的構造はほぼ現在のものと同じで、ハンドルを回すと商品が転がり出てくる仕組みも一緒です。

やがてこのガムボールマシンの中身にガム以外のナッツや菓子が入れられるようになっていきます。
1930年代、ついにこのラインナップの中にカプセル容器に入ったセルロイド製のミニチュア玩具が登場し、カプセルトイの自動販売機の誕生となるわけです。
このカプセルトイ自販機は、またたく間に全米に広まり、さらにはヨーロッパにも普及していきます。

このアメリカで誕生したカプセルトイ自販機ですが、実はこのカプセル容器に入ったミニチュア玩具を提供していたのが日本だったことはあまり知られていません。
根付などをはじめ、小さな玩具を作るのは昔から日本のお家芸な上、当時のアメリカから見ればまだまだ人件費の安かった日本からの輸入玩具は安価で導入しやすかったのでしょう。
もちろんアメリカのカプセルトイの全てが日本製だったわけではありませんが、それでも当時のカプセルトイの多くがメイド・イン・ジャパンであったことは間違いありません※3

これもあまり知られていませんが、日本玩具文化財団によると、1961年には日本の玩具輸出総額が286億円にも上り、輸出玩具産業において世界第一位という玩具王国だったのです。
葛飾区や墨田区に多く点在していた町工場が作った日本製のチャーム(セルロイド製のミニチュア玩具に紐が付けられたもの)が、海を越えてアメリカの子供たちにもてはやされていました。
このチャームの紐をはずし、ガムやナッツなどと一緒にそのまま自販機に入れて販売したのがはじまりです。
ガムやナッツをこの自販機で買うと、時々チャームが混ざって出てくるというギャンブル性のある仕組みで、これを目当てに子供たちが自販機に群がり、お目当てのチャームが出てくるまで何度もガチャガチャを回したわけです。
当初は、おまけで入れられていたのに過ぎなかったチャームでしたが、これを目当てに買う子供たちが増えたことで、やがて主従が逆転して、玩具だけをカプセルに入れて売るようになっていったというのが、カプセルトイ自販機誕生のあらましです。

カプセルトイ自販機こそアメリカが発祥ではあるのですが、そこで売られていたカプセルトイは日本が作っていたのですから、カプセルトイ自体の発祥には、日本も参画していたと言えるはずです。

次回に続く。

〈了〉


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※1 世界初の自動販売機は、古代エジプトの神殿に設置された聖水の自動販売機だと言われています。
てこの原理を応用したもので、機械上部の投入口から入れられた5ドラクマ硬貨の重みで受け皿が傾き、その傾きが戻るまでの間、一定量の聖水が蛇口から出てくる仕組みでした。
古代ローマ時代の工学者アレクサンドリアのヘロンの著作『気体装置』の中にこの装置の記述図解があるのですが、ヘロン自身が発明したものかどうかは諸説があります。
この聖水自動販売機は、現在の自動販売機とは連続性がないものなので、世界初ではあっても、ルーツとまでは言えません。
イギリスの煙草自販機については、YouTubeで複製品の動作を見ることができます。
旅館やパブなどに置かれたものでしたが、蓋は手動で閉じなくてはならず、ズルをしないで買ってくれるかは客の良心次第だったため、「Honour(Honor) Box(名誉箱)」とも呼ばれていたのだとか。

※2 アメリカでは、自動販売機自体は「Vending machine」と呼ばれていますが、ガムボールの自動販売機は特に「Gumball machine」の名称で知られており、現在は当時の筐体がアンティークとして高値で取引されています。

※3 日本の玩具製造は、高度成長による国内の人件費の高騰や円高の影響で、次第に製造を台湾や香港、次いで中国が担うようになり、工場が次々に作られるようになりました。


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