カプセルトイのことについてもう少し語ってみた件 ①「ガチャガチャ」or「カプセルトイ」

前回のコラムで、カプセルトイ専門店がすでに1200店以上にもなっていることを取り上げましたが、今回から数回にかけてカプセルトイ自体のことについて解説したいと思います。

「ガチャガチャ」は登録商標
カプセル玩具のことを指す名称としては、「ガチャガチャ」という呼び方が最も普及していると言えます。
この名称は、ハンドルを回す時の音から自然発生的に生まれたもので、個人的な発明者がいるわけではないようです。
昨今、多くのメディアでも取り上げられるようになってきたこの「ガチャガチャ」ですが、メディアでは基本的に「カプセルトイ」の名称を使うことが多いのが現状です。
これはなぜなのでしょう?

実は、「ガチャガチャ」という名称が、バンダイの登録商標であるという事情があるのです。
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証票登録:第2031315号
商標:ガチャガチャ
権利者:株式会社バンダイ
登録日:昭和63(1988)年3月30日
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-1985-105152/40/ja
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バンダイは他にも「ガシャポン」や「ガチャポン」という名称も商標登録しており、バンダイ以外の会社が、無許可でこれらの名称を使ってカプセルトイ事業を行うことは、基本的にはできません。
ちなみにタカラトミーアーツは、「ガチャ」を商標登録しています。
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証票登録:第4106448号
商標:ガチャ/Gacha
権利者:株式会社タカラトミーアーツ
登録日:平成10(1998)年 1月 30日
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2011-002785/40/ja
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「〇〇は□□社の登録商標です」というと、その名称は、その会社以外は一切使用できないと思われがちです。
しかしこれは勘違いで、商標登録の効力の及ぶ範囲は極めて限定的です。
その上、権利侵害を相手に認めさせ、使用を差止め、あるいは損害を賠償させるには、法的な手続きが必要で、費用も時間もかかりますから、よほどの実害や裁判で勝てる見込みがない限りは、この大ナタを振るうことは考えられません。

そもそも「商標」というのは、商品やサービスを識別するものです。
「登録商標」というものは、それを使用する商品・サービスの指定が必須で、その商標権の効力が及ぶ範囲は、指定した商品・サービスにのみで、その範囲外で使用されても管理侵害には当たらないのです。

ガチャガチャ」にしても、単体であれば問題があっても、これに何かを足せば別の商標になり得たりもします。
アミューズメント施設運営業者のルルアークが、「ガチャガチャの森」を商標登録して全国に展開しているのが良い例と言えるでしょう。
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証票登録:第6035184号
商標:ガチャガチャの森/Gachagacha no mori
権利者:株式会社ルルアーク
登録日:平成30(2018)年4月13日

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2017-103504/40/ja
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当然ながら、カプセルトイのことを語る際に、「ガチャガチャ」という言葉を用いても全く問題ありません。
業界的には通りが良い「カプセルトイ」は、一般的には認知度が低い名称なので、「ガチャガチャ」を使う方が伝わりやすいという面もあることでしょう。


「ガチャガチャ」はバンダイのもの?
ガチャガチャ」という固有名詞は、現在では多くの人が日常的に使っている普通名称となっているので、本来であれば商標登録ができないのでは、とも考えられます。

そのため、現在の状況だけ見れば、バンダイは自分で発明したわけでもない「ガチャガチャ」という名称を商標登録して独占しているのはズルい、と感じる人もいるかもしれません。

実際のところは当時の特許庁の審査担当者に聞いてみないとわかりませんが、登録された1988年には、子供たちの間では普及していたものの、社会全体に認知され浸透している名称ではないと判断されたとも考えられます。
さらには、バンダイが、子供たちの間で使われていた俗称にいち早く着目してこれをブランディングすべく、商標登録してがんばったおかげで、現在ここまで「ガチャガチャ」という名称が普及したとも考えられます。
それが事実であるとすると、ズルいというのは的外れな評価ということになるでしょう。


メディアで「カプセルトイ」を使う理由
ここで当初の疑問に戻り、メディアが「ガチャガチャ」でなく「カプセルトイ」を使う理由について改めて考えてみましょう。

株式会社ペニイ商会(現・株式会社ペニイ)が1965年に日本で初めてカプセルトイを販売しはじめた際には「カプセル玩具」という名称を使っていました。
ところがこの名称は子供たちの間ではあまり使われることがなく、ハンドルを回す音から自然発生的に生まれた「ガチャガチャ」という呼び方が子供たちの間で浸透していったのです。

1977年に、人気のアニメコンテンツを引っ提げてカプセルトイ業界に参入したバンダイは、1988年から発売した「キン肉マン消しゴム」、いわゆる「キン消し」が異例の大ヒットとなって、後発ながら業界のヒットメーカーに躍り出ます。

バンダイは、さらなる事業拡大を図るにあたり、自社のカプセルトイ事業のブランディングのため、前述通りカプセルトイ関連の用語を商標登録しました。
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ガシャポン:1985年商標登録
ガチャガチャ:1988年商標登録
ガチャポン:2000年商標登録
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このため、メディアがカプセルトイを取り上げる際に「ガチャガチャ」の名称を使うと、バンダイという特定企業のみのことを指していることになってしまいます。
そのため、例えばハピネットの「gashacoco」に取材に行っているのに、「ガチャガチャ」専門店として紹介すると、視聴者から要らぬクレームをもらうことになりかねません。
正確性や誤解を招かないという意味でも、「カプセルトイ」を使った方が安全というわけです。

また、これとは別に「1,000円ガチャ」として知られる高額ガチャ※1が、カプセルトイと同じく「ガチャガチャ」という名称で呼ばれているため、これと明確に区別するためにも、「カプセルトイ」の名称を使う必要性があると考えられます。

以上のように、広く普及して認知度の高い「ガチャガチャ」という名称を使うには問題点があるため、敢えて認知度の低い「カプセルトイ」という名称を使っている事情が伺えるのです。

しかし、「Anime」「Manga」「Karaoke」「Sushi」といったものと同じく、ジャパニーズカルチャーの一つとして海外にまでカプセルトイ文化が広がろうとする中、各社が「Gacha-gacha」「GASHAPON」「Capsule toy」「Gacha」など不統一な名称で紹介していくのはあまり得策とは思えません。
Gacha-gacha」という統一した名称で広めていった方が、普及しやすいのではないでしょうか。

バンダイはすでに「ガシャポン バンダイオフィシャルショップ」を海外に50店舗以上も出店しているので、「Gacha-gacha」ではなく「GASHAPON」の名称を広めたいのかもしれません。
2024年10月7日には、「gashacoco」を運営する株式会社ハピネットが※2、アメリカでの事業拡大に向けてグループ初の海外子会社Happinet America Inc.を設立したことが発表されており、バンダイ以外の海外進出の動きも出てきています。
このあたり、他力本願ながら、日本カプセルトイ協会やバンダイがうまいことやってくれないかと期待したいところです。

次回に続く。

〈了〉


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※1 1000円ガチャをはじめとする高額ガチャは、ドリームファクトリーが展開している路面設置の「王様の宝箱」がテレビで取り上げられて知られるようになり、その後、ドン・キホーテなどの大型ディスカウントストアなどでも設置されるようになりました。
テレビ朝日のバラエティ番組『10万円でできるかな』でチャレンジする企画などで認知度が全国的に高まり、現在では、Tポイント(現・Vポイント)で知られるI&C PLAYING PARTNERSが展開しているガチャガチャマーケットなどの高額ガチャ専門店もできています。

※2 ハピネットグループは、カプセルトイ自動販売機を設置・運営において業界1位のシェアを誇るハピネット・ベンディングサービスを子会社に持ち、長年にわたる店舗運営・集客ノウハウを持っています。


カプセルトイ専門店がすでに600店もできている件 前編
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④「ガチャガチャ」の活用あれこれ