海外で流行っている昭和のロボットアニメの謎を紐解いてみた件 ② 『UFOロボ グレンダイザー』後編

アニメの解説書

前回、前々回とフランスやイタリアにおける『UFOロボ グレンダイザー』の熱狂的ブームを取り上げましたが、中東でもこの作品がブームになりました。

中東での熱狂的ブーム

中東では『UFOロボ グレンダイザー』がレバノンのテレビ局、テレ・レバノンで内戦中の1980年代に初放送されました。当時の中東で視聴できる数少ない吹き替え版アニメの一つであったこの作品はまたたく間に大人気となり、程なく周辺の中東アラブ諸国でも放送されるようになったそうです。

『UFOロボ グレンダイザー』は、宇宙征服の野望を抱くベガ大王が率いるベガ星雲連合軍の侵略を受けて滅亡したフリード星から地球に落ち延び、宇門大介となって平穏な生活を送っていた王子デューク・フリードが、2年後、地球にも侵略の手を伸ばしてきたベガ星雲連合軍から第二の故郷である地球を守るため、フリード星の守護神である巨大ロボット・グレンダイザーで戦うことを決意するというストーリー。

内戦中のレバノンにあって、『UFOロボ グレンダイザー』は子供たちが現実から逃避して楽しい時間を過ごせる数少ない手段となったようです。
タイミング的なものだけではなく、作中で描かれている宇宙やUFO、異星人による侵略、ロボットや化学兵器といったものは、中東アラブ諸国ではどれも初体験のもので、これらに憧れや興味を引かれて夢中になったわけです。
中東アラブ諸国では、子供だけではなく幅広い視聴者層の支持を得たようで、放送時間になると街から人が消えるとまで言われた程だったそうです。

征服者から祖国を守る正義の戦いというテーマが、社会情勢が不安定な中東アラブ諸国にあって多くの視聴者の共感を得たという一面があったことも確実で、これを見て育った大人が子供に勧めて一緒に見るという風潮が生まれたといいます。

レバノンの有名歌手サミ・クラーク※が歌うアラビア語版の『UFOロボ グレンダイザー』のテーマソングの動画は、150万回弱も再生されています。

フルオーケストラで演奏・歌唱されているものは、197万回以上も再生されています。

この中東における『UFOロボ グレンダイザー』人気は過去のものではなく、現在も続いているようで、2022年11月には、サウジアラビアの大手エンタテイメント企業マンガプロダクションズが、ダイナミック企画から『UFOロボ グレンダイザー』の中東におけるIPライセンスを獲得し、戦略的パートナーシップ契約を締結したと発表しました。
これにより、今後の中東で『UFOロボ グレンダイザー』を使ったゲームやコミック、アミューズメント施設やイベントなどへと展開されるものと思われます。
その第1弾として、2022年12月に全高33.7mにも及ぶグレンダイザーの巨大なモニュメントを、サウジアラビア首都リヤドのブールバード・ワールドに設置・公開し、「世界最大の架空のキャラクターの金属製彫刻」としてギネス記録に認定されました。

【PR TIMES】マンガプロダクションズ、世界最大の「グレンダイザー」像を公開し、ギネス世界記録を達成

日本では、ほとんどの人が名前すら知らない『UFOロボ グレンダイザー』というアニメ作品が、中東では2020年代の現在において再び盛り上がりを見せ、大手企業がライセンスビジネスの展開を進めていることに驚きます。


※サミ・クラーク(1948~2022)は、国際的にも知られる歌手で、アラビア語 (レバノン語)や英語をはじめとする多言語での歌唱を行い、1980年代にアラビア語版の『UFOロボ グレンダイザー』や『宝島』といった日本製アニメのテーマソングを担当したことで中東アラブ諸国で一般的にも良く知られることになりました。