海外で流行っている昭和のロボットアニメの謎を紐解いてみた件 ① 『超電磁マシーン ボルテスV』中編

超電磁マシーン ボルテスV』のストーリーは、皇族でありながら失脚して迫害されていた母星ボアザンから逃れ、地球に落ち延びた異星人が、地球人女性と結婚してもうけた3兄弟を含む5人の選ばれたメンバーが、ボアザンの地球侵略に対して父と地球の科学者たちが作り上げた巨大ロボット・ボルテスVで戦うというものです。
敵司令官の美少年・プリンス・ハイネルが敵でありながら高潔な人物で、後に主人公たちとの意外な関係が明かされるなど、日本でも人気を集めました。
単純な勧善懲悪ではなく、亡命してきた母国ボアザン帝国と第二の故郷となった地球のために戦うことになる一家の葛藤や、敵も一枚岩ではなく、政治的な思惑が交錯したり、敵との人間関係などが織り交ざり、子供アニメながら奥行きの深い作品となっています。

それまでフィリピンで放送されていたアニメは、ディズニーや『原始家族フリントストーン』などで知られるハンナ・バーベラなどのアメリカ製の童話的な作品ばかりでしたから、日本製のアニメが放送されるのはフィリピンでは初の試みでした。
超電磁マシーン ボルテスV』には、ディズニー作品では絶対に描かれることがない、科学が作り出した巨大なロボット兵器や地球侵略を目論む異星人との戦闘シーンが描かれており、当時の子供たちにとって非常に衝撃的だったそうです。
金曜日の夕方6時に放送された『超電磁マシーン ボルテスV』は瞬く間に大人気となり、放送数か月後には国内の視聴率No.1となり最高視聴率58%という記録を打ち立てました。この視聴率は子供たちだけで出せる数字ではないので、子供ばかりではなく、大人も魅了した作品であったことが窺えます。

社会現象とまで言われた『超電磁マシーン ボルテスV』の人気ぶりに対し、子供の親たちや学校の教師たちは、作品が暴力的だとして反対運動を起こし、日本の経済侵略の手段だとして警戒する人もいて、抗議団体が組織されました。

日本人の感覚からすると、日本の政府は長く日本のアニメ文化を軽視して放置し続けてきた経緯があるので、国策でアニメを輸出するといったことに現実味を感じませんが、フィリピン国民にとっては、日本という国が『超電磁マシーン ボルテスV』というアニメを使って、フィリピンに対して何かを画策していると陰謀論的な解釈をしたのです。

日本ではそれ程の人気作品とはならなかった『超電磁マシーン ボルテスV』が社会問題化する程の空前のヒット作となることは、販売した東映はおろか、買い付けたフィリピンの配給会社ですら予想できない事態だったわけで、そこに陰謀などがあるわけがありません。
しかし、かつて第二次世界大戦時に3年以上にわたって日本の占領下にあったフィリピンでは、日本が再びフィリピンに侵攻を開始したと言う人すらいました。大航海時代のスペインがフィリピンに宣教師を送り込み、多くの子供たちに教えを説いて改宗させる戦略を取ったことを例に挙げ、日本がまずフィリピンの子供たちに親日思想を刷り込む戦略だというわけです。

当時のフィリピンには大量の日本製電化製品が輸入されており、安い労働力を求めてフィリピンをはじめとする東南アジアに進出した日本企業が数多くの工場を作っていた時代でしたから、そうした社会背景が誤解の土台にあったようです。

超電磁マシーン ボルテスV』のロボット玩具やステッカー、Tシャツなどの関連商品も爆発的な売上を上げ、町には作品関連の商品で溢れたとのことで、この商業的な成功によって、それ以降、他の放送局も挙って『マジンガーZ』や『闘将ダイモス』といった日本製のロボットアニメを買い付けて放送するようになります。

そんな中、フェルディナンド・マルコス大統領が『超電磁マシーン ボルテスV』の放送を、子供への有害な影響を理由に禁止する声明を発表します。
独裁政権に対する国民の不満が高まっていた時期で、政府の威信回復の手段として目を付けられたとのことですが、他局で放送されていた他の日本製アニメはお咎めなしで、『超電磁マシーン ボルテスV』だけが放送を禁じられたことから、独裁政権の帝国を打倒するという作品の内容が問題視されたのではとも指摘されています。

エドゥサ革命※後の1986年に国営放送で『超電磁マシーン ボルテスV』が再放送された際には、かつてのような抗議運動は起こりませんでしたが、以前とは違って熱狂的なブームとはならず、視聴率も低迷していたそうです。
抗議運動が起きなかったのには、アキノ政権樹立に対し、日本政府は直ちにこれを承認し、ODA(政府開発援助)を通して財政援助をしたことも、フィリピン国民の反日感情が薄れていたことも大きく、当時は革命後に目まぐるしく国内が変革する中とあって、アニメがブームになる環境下にはなかったようです。

ところが、1999年から毎朝8時15分に再放送されるようになると(現在も繰り返し再放送されているそうです)、最高視聴率が40%を超える程でブームが再熱し、この時は、本編は吹き替えですが、主題歌部分は日本語のまま放送されたため、多くのフィリピン人が日本語の歌詞で主題歌を歌えるという現象が発生したわけです。
日本ではほとんど再放送もされない作品ですから、フィリピン人の訪日留学生が『超電磁マシーン ボルテスV』の歌を日本語の歌詞で歌えるのに、日本人の学生は作品の名前すら聞いたことがないという逆転現象が起きており、多くのフィリピン人が日本での知名度の低さに衝撃を受けることも珍しくありません。


次回に続く。

〈了〉


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海外で流行っている昭和のロボットアニメの謎を紐解いてみた件
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③ 『マジンガーZ』