ロボットアニメの現在③ 衰退の理由 後編

前回は、タカラトミーのロボットアニメと、バンダイのロボットアニメ『境界戦機』について取り上げましたが、今回は作品の内容に注目したいと思います。

ロボットアニメの作品数が減った理由には、スポンサー側の変化もありますが、『新世紀エヴァンゲリオン』や『鬼滅の刃』のように作品がヒットしさえすれば、ロボットアニメであるかどうかは関係なく、玩具以外でも関連商品が売れるので、出資しようという企業はあるはずです。
その点に注目すれば、ロボットアニメがヒットしにくくなったから、出資が集め難くなった=企画が通り難くなったとも考えられます。

現在の異世界モノ作品の氾濫と同様の構造で、当時もロボットアニメのヒット作が生まれると、我も続けとばかりに、ロボットアニメが氾濫しました。それが1980~90年代のロボットアニメの全盛期です。
その後、同じような作品が量産された結果、差別化を図るために変化球とも言える企画のロボットアニメが登場したり、原点回帰したりと試行錯誤を繰り返した末、もはやあらゆることをやり尽くして、ロボットアニメの畑は、何を植えてもやせ細った土地になってしまったとも言われています。

以下に、ロボットアニメの試行錯誤の歴史を、作品の列挙という形で見ていきたいと思います。

ロボットアニメ黎明期(1960年代)
◆人間とロボットの確執の中で、互いの共存のために奮闘するロボットを描いた『鉄腕アトム』(1963年)
◆リモコンで操作する巨大ロボットで悪と戦う『鉄人28号』(1963年)
◆殉職した刑事がロボットとして蘇り私立探偵となって悪と戦う『エイトマン』(1963年)
◆少年隊長が仲間の6体のロボットと共に異星人の侵略に立ち向かう『レインボー戦隊ロビン』(1966年)
◆少年の家に居候するダメロボットのドタバタコメディ『ロボタン』(1966年)

スーパーロボット・ロボットヒーロー時代(1970年代)
◆パイロットが搭乗する特別な力を持つ巨大ロボットが活躍する『マジンガーZ』(1972年)、『ゲッターロボ』(1974年)など
◆自らをロボットと融合して世界征服を目論むロボット軍団と戦う『新造人間キャシャーン』(1973年)
◆変身能力を持つアンドロイド少女が犯罪組織と戦う『キューティーハニー』(1973年)
◆ロボットの活躍だけではなく、ドラマ性にも目を向けた『勇者ライディーン』(1975年)、『無敵鋼人ザンボット3』(1977年)など
◆タイムスリップ×メカバトルが定番スタイルの『タイムボカン』シリーズ(1975年~)
◆マトリョーシカスタイルの合体機構が斬新な『闘士ゴーディアン』(1979年)

リアルロボットと変形合体・多様性時代(1980年代)
◆特別な力を持たない軍事兵器の一つに搭乗して戦う『機動戦士ガンダム』(1979年)、『装甲騎兵ボトムズ』(1983年)など
◆異星間戦争に惑星を両断できる超常的な最強ロボット兵器『伝説巨神イデオン』(1980年)
◆ライターから変形するロボットが異次元で巨大化して戦う『黄金戦士ゴールドライタン』(1981年)
◆必殺シリーズ、新撰組、八十日間世界一周をモチーフにしたスペースオペラ『J9シリーズ』(1981年~)
◆美形キャラと人気声優の共演で女性ファンを獲得した『六神合体ゴッドマーズ』(1981年)
◆タイムボカンシリーズ×合体変形巨大ロボット『逆転イッパツマン』(1982年)
◆西部劇×ロボット・初の主人公機交代※も話題になった『戦闘メカ ザブングル』(1982年)
◆ジェット戦闘機が変形するロボット×アイドル×恋愛(三角関係)『超時空要塞マクロス』(1982年)
◆驚異の15体合体ロボット『機甲艦隊ダイラガーXV』(1982年)
◆異世界召喚された少年がファンタジー世界でロボットバトル『聖戦士ダンバイン』(1983年)
◆15少年漂流記×ロボット×宇宙サバイバル『銀河漂流バイファム』(1983年)
◆プラモデル製の格闘人形を使ったロボット競技で対戦する『プラレス3四郎』(1983年)
◆南の島を舞台に、意志を持つ巨大ロボットと心を通わせた少年の冒険譚『巨神ゴーグ』(1984年)
◆実在する乗り物や生物に変形する超ロボット生命体『トランスフォーマー』シリーズ(1985年~)
◆異世界に召喚された少年がディフォルメロボットで戦うコミカル作品『魔人英雄伝ワタル』(1988年)
◆警視庁所属のロボットがロボット犯罪を取り締まる『機動警察パトレイバー』(1988年)
◆美少女×ロボット×スポ根×宇宙SFで壮大なスケール展開とオモロイものを全部詰め込んだ『トップをねらえ!』(1988年)

多様化混迷時代(1990年代)
◆合体変形ロボット×悪と戦うヒーロー『勇者シリーズ』(1990年~)
◆人格を持つロボットたちが住む世界のお話『キャッツ党忍伝てやんでえ』(1990年)、『からくり剣豪伝ムサシロード』(1990年)
◆光の戦士から託された巨大ロボットで小学生たちが戦う『絶対無敵ライジンオー』(エルドランシリーズ)(1991年~)
◆ロボット×サッカー×スポ根『疾風!アイアンリーガー』(1993年)
◆美少女アンドロイドのラブコメ作品『セイバーマリオネット』シリーズ(1995年~)、『鋼鉄天使くるみ』(1999年)
◆特撮オマージュや高いデザイン性、SF要素満載の世界観でファンを虜にした『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)
◆宇宙戦艦ヤマト×ガンダム×ラブコメで新旧ロボットアニメのパロディを展開した『機動戦艦ナデシコ』(1996年)
◆ファンタジー世界×西洋の騎士風巨大ロボット『天空のエスカフローネ』(1996年)
◆スーパーロボット系の破天荒さとリアルロボット系のリアリティを融合させた『勇者王ガオガイガー』(1997年)
◆世界2作目のフル3DCGテレビアニメなのに声優無法地帯の方が有名な『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』(1997年)
◆政治・軍事・近未来SFの世界に鬼や能の和テイストをミックスした『ガサラキ』(1998年)
◆小学生たちがパートナーの育成ロボットで対戦する『メダロット』(1999年)
◆動物型巨大ロボットに乗って戦う『ゾイド ZOIDS』(1999年)
◆カート ゥーン コミックス風の世界観でネゴシエイターが巨大ロボットで事件を解決する『THE ビッグオー』(1999年)

円熟期(2000年代)
◆大正ロマンの美少女たちが厳ついロボットに乗って戦う『サクラ大戦』(2000年)
◆伏線や謎を配し、難解な脚本とテーマで一線を画した『アルジェントソーマ』(2001年)
◆ロボット×学園ラブコメ『フルメタル・パニック!』(2002年)
◆神話×ロボットで考察系かと思いきや純愛モノだった『ラーゼフォン』(2002年)
◆水の惑星を舞台にロボットの水中戦を展開した『絢爛舞踏祭 ザ・マーズ・デイブレイク』(2004年)
◆極限状態の中、ロボットで戦う少年少女たちの群像劇『蒼穹のファフナー』(2004年)
◆ロボットがサーフボードに乗って大空を駆け巡る『交響詩篇エウレカセブン』(2005年)
◆月まで伸びる無限拳など何もかもやり過ぎるとカッコいい『創聖のアクエリオン』(2005年)
◆西部劇風な世界観で男の復讐劇×ロボットバトル『ガン×ソード』(2005年)
◆ロボット×モータースポーツ(ロボットレースレース)『IGPX Immortal Grand Prix』(2005年)
◆美少女アンドロイドと賞金稼ぎの中年男が不器用ながらも家族になっていく話『SoltyRei』(2005年)
◆仮想世界を描いたSF設定×少年少女の青春ドラマ『ゼーガペイン』(2006年)
◆知略巡らす頭脳戦×本格的ロボットバトル『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006年)
◆アイドルゲーム原作なのにロボットアニメに大胆改変『アイドルマスター XENOGLOSSIA』(2007年)
◆地底からスタートしてちっぽけなドリルから銀河系よりも巨大になる『天元突破グレンラガン』(2007年)
◆宇宙を舞台にしたSF×神話×ロボット『ヒロイック・エイジ』(2007年)
◆フル3DCGのロボットを使っての嚙み合わない会話劇『ファイアボール』(2008年)
◆異世界を舞台に巨大ロボットを使った国家間戦争『ブレイク ブレイド』(2010年)
◆学園モノ×秘密結社×巨大ロボットバトル『STAR DRIVER 輝きのタクト』(2010年)
◆巨大ロボット開発に励むロボット研究部たち VS 世界的陰謀『ROBOTICS;NOTES』(2012年)
◆宇宙都市での国家戦争に巻き込まれ、ロボットで戦う学生たちの群像劇『革命機ヴァルヴレイヴ』(2013年)
◆異星間戦争×ロボット×学園コメディ『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』(2013年)
◆海洋船団×ロボット・戦いしか知らない少年とロボットのAIが人々との交流で成長する『翠星のガルガンティア』(2013年)
◆タイムループ×ロボットバトル『バディ・コンプレックス』(2014年)
◆ホラー×ロボット・巨大ロボットで怪異と戦う『M3〜ソノ黒キ鋼〜』(2014年)
◆緻密な世界設定で宇宙を舞台にした本格的SFロボットバトル『シドニアの騎士』(2014年)
◆地球連合VS火星独立国でリアルロボットVSスーパーロボットを描いた『アルドノア・ゼロ』(2014年)
◆現代に蘇ったサムライがロボットに乗って鬼(異星人の侵略)から姫を守る『クロムクロ』(2016年)
◆人間の意識を移して操縦するロボットが実現した未来の宇宙を舞台に、肉体を失ってロボットだけになった主人公たちの活躍を描く『ID-0』(2017年)
◆アニメやラノベなどの創作世界が現実化し巨大ロボットや魔法、異能力バトルが展開される『Re:CREATORS』(2017年)
◆異世界転生×魔法ファンタジー×ロボット開発『ナイツ&マジック』(2017年)
◆未来を舞台に超高度AI搭載の美少女アンドロイドたちの存在意義をかけた戦いを描いた『BEATLESS』(2018年)
◆スタイリッシュなビジュアルにドラマ性が話題になった『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(2018年)
◆エヴァンゲリオンや初音ミクとのコラボやパロディ要素が話題を呼んだ『新幹線変形ロボ シンカリオン』(2018年)
◆地球を封印しようとする宇宙政府を相手に戦うサイキックロボットバトル『プラネット・ウィズ』(2018年)
◆考察系の謎展開×特撮ヒーローもの×勇者シリーズ系の合体ロボ『SSSS.GRIDMAN』(2018年)
◆美少女×魔法×ロボットバトル『グランベルム』(2018年)
◆美少女アンドロイド×歌×歴史改変・ロボットと人類の不幸な未来を回避すべく奮闘する『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』(2021年)

以上のように、ロボットアニメには、これでもかというくらい手を変え、品を変え、アイデアを絞り倒して新しいものを生み出そうと足掻いた歴史があり、生半可な設定や脚本では、既視感を拭えず、注目もされない極めて難易度の高いジャンルとなってしまっているのです。
これまでの解説を総括してみますと、ロボットアニメ衰退の理由として考えられるものは、

  • ロボット玩具を売るために新作ロボットアニメに出資する会社の数が減った
    (バンダイは、ガンダムだけに戦略方針をシフトしてガンダム以外のロボットアニメを作らなくなった)
  • バンダイ系以外のロボットアニメは、タカラトミーが出資する低年齢層向け作品のみ
  • ロボットアニメはやり尽くされて、ヒット作が生まれ難くなってしまった

といったものでした。

このように、日本でのロボットアニメが衰退論を叫ばれている中、日本のロボットアニメを見て育った海外の映画監督が、巨大ロボットが活躍する映画を作って大ヒットを出しました。
2013年に公開された『パシフィック・リム』です。
監督のギレルモ・デル・トロは、メキシコ出身で、手塚治虫のアニメを見て育ったと言う程、日本のアニメや特撮映画のマニアとして知られており、この映画の中にも日本作品へのオマージュがたっぷり詰まっています。

海の向こうで、日本アニメで学んだクリエイターがすごい作品を作っているのに、本家の日本でロボットアニメが衰退しているというのは、アニメの一ファンとしては口惜しい限りで、すでに80歳を超えている富野由悠季監督ですら、現役でガンダムを作っているのを見ると、若い世代のクリエイターたちにも、もっとロボットアニメにチャレンジして、創造力に限界がないことを証明してほしいと願わずにはいられないところです。


※『戦闘メカ ザブングル』は各記事で「初の主役機交代アニメ」などと言われますが、実は主役機交代は、『ヤッターマン』の方が先で、第45話でドロンボーの自動追跡装置付ガリガリミサイルによって壊されてしまった主役機のヤッターワンが、第46話では、ガンちゃんんが一週間徹夜で改造してヤッターキングに生まれ変わりました(これを交代だと認めず、ガンダムのマグネット・コーティングと同じだと主張する方もいるようですが)。
ですので、『戦闘メカ ザブングル』の場合は、「主人公機交代」だとか「搭乗ロボットの交代」などになります。


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