ロボットアニメの現在① ロボットアニメの定義 前編

アニメの未来を考える

日本アニメには、「ロボットアニメ」というジャンルが一大勢力を築いており、『鉄腕アトム』や『機動戦士ガンダム』といったロボットアニメ作品が、日本アニメの代名詞の一つともなっています。

では、この「ロボットアニメ」とは何か、その定義づけをしようとすると、実は境界線が曖昧で、有識者たちの意見を聞いてみても、十人十色の回答が返ってきてしまうという難問です。

『ドラえもん』はロボットアニメか?
単に作中にロボットが登場するだけではロボットアニメたり得ず、ロボットがどれだけメインに描かれているかの重みづけの要素が大きく関わってくることは確かなのですが、それすらも充分な条件とはなりません。
それは、ロボットが主役だったり重要な描かれ方をしていたとしても、ロボットアニメらしくない作品があるからで、その代表例が『ドラえもん』です。言われてみれば確かにロボットアニメであることを否定しづらいものの、この作品をロボットアニメという認識で捉えている人は少ないのではないでしょうか?

それは、ドラえもんが、未来世界で作られたネコ型ロボットという設定ながら、野比家の居候として一軒家に同居し、一緒の食卓で食事をするなど、基本的に人間のキャラクターと扱われ方が変わらないからだと考えられます。
作中では、ドラえもんを人間とは異なるロボットという存在ではなく、のび太たちと同じ感情や感覚を持った友人であるように見せるため、むしろロボットであることを極力意識させないように描かれています。
『オバケのQ太郎』のオバケや、『忍者ハットリくん』の忍者、『怪物くん』の怪物といった他の藤子不二雄作品と同様に、普通の人とは違う能力を持ったキャラクターという文脈で、ロボットという設定があるのに過ぎません。

仮に『ドラえもん』を、ロボットアニメらしく、ロボットであるという設定をメインに据え、「ロボットと人間」というテーマで描いたとしたらどうなるでしょうか。
ドラえもんは、所有者であるセワシから与えられた、のび太を矯正して、来るべき野比家の没落を回避するというミッションを達成すべく、ひみつ道具を的確に使ってのび太を徹底管理するでしょう。のび太にとってドラえもんは抗うべき監視者であって、何とか監視の目を潜り抜けてサボろうと試みますが、小学生の浅はかな知恵ごときが高性能なAIに勝るはずもなく、ジャイアンの攻撃ですら全く歯が立たない金属製のボディを持つドラえもんには、暴力に訴える手段も通用しません。当然ながら、人間と同じ食事はしませんし、夜はケーブルをコンセントに差して充電することでしょう。

実際のドラえもんはと言えば、毎回のび太の泣き落としに抗えずにひみつ道具で助けてあげてばかりで、矯正とは真逆に甘やかす一方。野比家の食卓で朝昼晩の三度食事をし、のび太が学校に行っている間は、部屋でマンガを読んで笑ったり、メス猫とデートをしたりして過ごし、夜は押入れに敷いた布団で眠ります。好物のどら焼きに舌鼓を打ち、のび太と口喧嘩をしたり、ジャイアンに殴られて傷だらけになったりもする上、頼みのひみつ道具にしても、焦ると的確なものを取り出すことができず、意図せず出て来た道具の山を作る始末。ロボットらしさの欠片もありません。
例えば、ドラえもんを未来の国から来たロボットではなく、魔法の世界からやって来たタヌキのキャラクターに変えて、ひみつ道具を魔法の道具に置き換えてみても、『ドラえもん』のお話は成立するはずで、ロボットであるという設定が、物語の本質を変えてしまう程には重要でないことがわかるでしょう。

このように、『ドラえもん』は、ロボットが主役でありながらも(のび太が主役という見方もありますが)、ロボットアニメであるとは言い難い作品であり、人によってその見解が分かれがちな作品となっています。

次回はその他の「ロボットアニメ」の境界線について取り上げます。


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