ロボットアニメの現在③ 衰退の理由 前編
前回は、具体的な数字からロボットアニメ衰退論を再確認してみましたが、今回はその理由について取り上げます。
最近話題となったロボットアニメと言うと、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』、『新幹線変形ロボ シンカリオン』、『SSSS.GRIDMAN』くらいでしょうか。
いずれも2018年放送の作品で、それ以降、話題になる程のロボットアニメのヒット作が出ていません。
ロボットアニメのビッグタイトルであった『新世紀エヴァンゲリオン』は2021年3月公開の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で完結。『交響詩篇エウレカセブン』は2021年11月公開の『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』にて完結と、現在も継続中なのは、ガンダムシリーズとマクロスシリーズのみということになります。
『ガンダム』と『マクロス』は、昭和の時代に生まれた作品ですが、それぞれがシリーズ化(ブランド化)しており、現在でも新作を作り続けています。
2022年内までの公開・放送分を含めたアニメ作品だけでも、ガンダムシリーズは87作品、マクロスシリーズは19作品があり、ガンダムシリーズについては、2000年代以降、ほぼ年1作品以上は必ず新作が制作されています。
『鉄腕アトム』は、1963年の第1作以降、1980年、2003年とリメイクされ、2009の劇場版以降は、低年齢層向けの教育アニメ『GO!GO!アトム』が2019年に放送されたのみです。
『鉄人28号』は、『鉄腕アトム』と同年の1963年に第1作が放送され、以降、2004年までにリメイク4作品が放送され、2007年には劇場版が公開。コミカルタッチなミニアニメ『鉄人28号ガオ!』が2013年に放送されたのが最後です。
『マジンガーZ』は、1972年の第1作以降、「マジンガー」の名を冠した続編やオリジナル作品が作られてシリーズ作品化されましたが、日本テレビの情報番組『ZIP!』内のミニアニメコーナーで放送された『マジンガーZIP!』が2013~2014年に放送されて以降、2018年劇場公開の『マジンガーZ / INFINITY』を最後に新作の話題は出ていません。
このように、ロボットアニメのビッグタイトルの多くは現在までにその血統を途絶えさせてしまい、現在でも血統を繋いでいるのは、わずかに『ガンダム』と『マクロス』のみとなっています。
その理由の1つには、ロボット玩具を売るメーカーの要請が減ったことが挙げられます。
元々ロボットアニメは、玩具メーカーが商品を売るためにアニメに出資していた構造がありました。
前回挙げた1984年のロボットアニメを例に挙げると、下記のように、玩具メーカーがスポンサーとなってアニメが製作されていたことがよくわかります。
————————————-
『超攻速ガルビオン』 提供:タカトクトイス
『重戦機エルガイム』 提供:バンダイ
『ビデオ戦士レザリオン』 提供:ポピー
『巨神ゴーグ』 提供:タカラ
『ゴッドマジンガー』 提供:不明
『超時空騎団サザンクロス』 提供:バンダイ
『機甲界ガリアン』 提供:タカラ
『超力ロボ ガラット』 提供:バンダイ
『星銃士ビスマルク』 提供:バンダイ
————————————-
これを見ると、バンダイ比率が最も高く、当時はバンダイが超合金やプラモデルなどの玩具を販売する目的で、積極的にアニメに出資していたことがわかります。
しかしバンダイはその後、『ガンダム』を作っていたアニメ制作会社のサンライズを子会社化し、『ガンダム』一本に絞った戦略にシフトして行き、新作ロボットアニメに手を出さなくなります※1。
これは、ロボットアニメが量産され続ける中でヒット作が生まれ難くなっていった市場への変化に対応すべく、実績のあるコンテンツに資本を集中させるというバンダイのビジネス的判断があったという見方が有力です。
近年では、ガンダムが活躍する戦争を描いた作品のみならず、ディフォルメされたガンダムが人格を持つキャラクターとして描かれる『SDガンダム』シリーズや、市販のガンプラを使った架空のシミュレーション競技「ガンプラバトル」をテーマとする『ガンダムビルドファイターズ』や『ガンダムビルドダイバーズ』といったアニメシリーズも作られており、『ガンダム』というビッグタイトルの中で作品の幅を広げていくという戦略を展開しています。
ガンダムシリーズに次ぐ長寿ロボットアニメとして知られるマクロスシリーズについても、1982年に放送された第1作の『超時空要塞マクロス』では、玩具メーカーのタカトクトイスがスポンサー(1984年倒産)でしたが、1992年に発売されたOVA『超時空要塞マクロスII』ではバンダイのメイン出資による製作委員会方式で製作され、『マクロス7』以降はバンダイビジュアルによる製作となっていく中で、ライセンス商材が玩具から映像や楽曲メインの路線にシフトしていきました※2。
作品自体も、今やロボットアニメよりもアイドルアニメといった方が的確なくらいに変容しています。
一大勢力を誇るガンダムシリーズを中心としたサンライズ系のロボットアニメに、一子相伝のようにワンタイトルを冠に細く長く続いているマクロスシリーズ、この2つの系統の他に、かつてはタツノコプロのロボットアニメも一大勢力を誇っていました。
『新造人間キャシャーン』『宇宙の騎士テッカマン』『闘士ゴーディアン』『ゴールドライタン』『逆転イッパツマン』『機甲創世記モスピーダ』『超時空騎団サザンクロス』『宇宙の騎士テッカマンブレード』など、数々の名作ロボットアニメを作っていたタツノコプロですが、1990年代になると、『新世紀エヴァンゲリオン』の制作に関わって以降、ロボットアニメに関わることが少なくなり、この四半世紀で制作されたロボットアニメは、2019年の『エガオノダイカ』のみといった状況です。
タツノコプロは、ライセンスビジネス部門も兼ね備えた制作会社で、玩具メーカー(スポンサー)依存型の体制ではなかったため、ヒットが難しくなりはじめたロボットアニメに注力する必要性はあまりなかったものと想像できます。
また、タツノコプロの場合、「ロボット」というよりも「メカ」という位置づけでの独自路線を貫いてきたこともあり、ロボットアニメに対するこだわりや使命感なども薄いのではないかとも考えられます。
このように、ロボットアニメを支えてきたバンダイの戦略方針が変わってきたことをはじめ、ロボットアニメに出資していたスポンサー側の変化など、制作発注の需要がなくなったという事情があり、ロボットアニメがヒットし難くなっていく市場の変化の中で、新作の減少はおろか、ビッグタイトルさえも淘汰されていったというのが、ロボットアニメ衰退の一因であると考えられます。
※1 バンダイがロボット玩具の販促目的でアニメに出資したのは、2003~2004年に放送された『出撃!マシンロボレスキュー』が最後だと言われています。
ロボット玩具に限定しなければ、バンダイは、トレーディングカードの「バトルスピリッツ」、携帯電子ゲームの『たまごっち』をテーマにしたアニメも製作しています。
※2 ガンプラはバンダイの商品ですが、マクロスシリーズは、プラモデルメーカーのハセガワが手掛けています。
アニメの未来を考える
ロボットアニメの現在① ロボットアニメの定義 前編
ロボットアニメの現在① ロボットアニメの定義 後編
ロボットアニメの現在② ロボットアニメ衰退論
ロボットアニメの現在③ 衰退の理由 前編
ロボットアニメの現在③ 衰退の理由 中編
ロボットアニメの現在③ 衰退の理由 後編