アニメの権威付けについて考えてみた件 後編 ジブリというわかりやすいブランド

アニメの未来を考える

前回前々回と、アニメにおける権威付けの仕組みについて取り上げましたが、一般視聴者への影響力が高いものがないため、市場は拡大しているのに、個々の作品を視聴者にアピールして商業効果を上げる能力に長けていないという弱点が見受けられます。

アニメ業界では全くそうしたものが育っていないのかと言うと、そうでもなく、実は権威付けの成功例があります。
それはスタジオジブリです。

2022年11月にジブリパークがオープンしたことも記憶に新しいところですが、日本においてスタジオジブリはディズニー並みの知名度やブランド力があります。
これは宮崎駿監督の作品が素晴らしいから自然発生的に生まれたものではなく、鈴木敏夫プロデューサーの仕掛けた戦略による結果です。
スタジオジブリのブランディング手法を解説すると本が一冊出来てしまうのでここでは細かい部分は割愛しますが、鈴木プロデューサーは、宮崎駿を天才だと持ち上げ、日本テレビという全国放送のメディアを使って、その天才が作る作品の素晴らしさを、アニメを普段見ない人たちにもわかりやすいストーリーで解説しました。
これによって宮崎駿とジブリの名を一般大衆に刷り込み、その結果、日本人に「宮﨑アニメ」を見るという風物詩を生み出したわけです。

京都アニメーションもブランド化していますが、こちらの場合は、そのクオリティの高さがアニメファンの間で支持された結果としてブランド化したのであって、京都アニメーション側が仕掛けたブランド戦略の結果というわけではありません。

コアなアニメファンには圧倒的な支持はあるものの、一般視聴者に対しての訴求力に関しては、ジブリには遠く及ばないのも、そうした部分の差があるものかもしれません。

スタジオジブリ以前には、「手塚アニメ」というブランドがありました。
『鉄腕アトム』という当時絶大な人気と知名度を持つ作品を生み出したマンガの天才・手塚治虫の生み出す作品としてのブランドです。
また現在では、集英社「週刊少年ジャンプ」のマンガを原作とする「ジャンプアニメ」や、『機動戦士ガンダム』シリーズ、『プリキュア』シリーズの他、『ドラえもん』や『名探偵コナン』などの国民的アニメと呼ばれる作品においても、個別にブランド化していますが、そうした一定以上の知名度や人気のある作品たちは別として、ここで対象としているのは、これから世に出ていく作品や、埋もれてしまった過去作品などです。

筆者は知人・友人の間でもアニメ関連の話を振られることが多いのですが、近年特に尋ねられることが多いのは、劇場版アニメや放送中のテレビアニメの内、どの作品を見るべきなのか、ネット配信されているアニメでどれが面白いのか、というものです。
最近のタイパ(タイムパフォーマンス)重視の風潮もあり、ハズレ作品に時間を割くのを回避するため、初めから良いとわかっているものだけを見たいというわけです。

今回のコラムでは、主に劇場版アニメでの事情を中心に解説しましたが、テレビアニメともなるとさらに状況は悪く、年間200本以上もある作品の中で何を観るべきか、視聴者は選択に迷い、SNSなどでの口コミ評価を頼るか、どれを見たら良いのかわからずに手を出せずにいるかもしれません。

学問におけるノーベル賞、お笑い芸人におけるM-1グランプリキングオブコント、出版業界における芥川賞直木賞本屋大賞、マンガにおけるマンガ大賞手塚賞赤塚賞、映画業界におけるアカデミー賞、音楽業界におけるグラミー賞レコード大賞、紅白歌合戦、テレビ番組におけるエミー賞、デザインにおけるグッドデザイン賞といった具合に、アニメにおいても権威付けや、一般視聴者が良い作品に注目できるわかりやすい目印のようなものを作る仕組みが必要だと思われます。


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