アニメの権威付けについて考えてみた件 前編 アニメ専門コンペの認知度

アニメの未来を考える

かつてはサブカルチャーとして一等下に見なされてきたアニメやマンガは、近年ではその評価が高まり、日本を代表する文化として、メインカルチャーに近い扱いを受けるようになってきました。

日本国内における映画興行収入ランキングを見ても、上位10作品中7作品がアニメで、ハリウッド映画が2作品に、実写映画は2003年公開の『踊る大捜査線』の映画2作目が10位に入っているのみです。
マンガやライトノベルも電子書籍の普及もあって勢いを増しており、市場規模でも出版業界全体の半分以上を占める程です。
実写の映画やテレビドラマもマンガ原作のものが多く、メディアにおけるアニメやマンガ、ライトノベルなどの存在感は年々高まるばかりとなっています。

売上や市場規模といった“実”の部分ではすでにメインカルチャーを超えているものの、権威という部分では、アニメはまだまだ未発達な部分が目立ちます。

映画(実写のもの)や音楽業界では、日本アカデミー賞※、日本レコード大賞紅白歌合戦といった権威付けの仕掛けを作ってきました。
出版業界でも、芥川賞直木賞をはじめ、マンガでは手塚治虫文化賞、近年では本屋大賞マンガ大賞などがあり、メディアや本屋などでも紹介されるので、一般の方でもご存じの方が多いでしょう。

実は、アニメにも権威付けの賞がいくつかあります。

◆アニメグランプリ
 1979年初開催/徳間書店のアニメ誌「アニメージュ」主催

◆吉祥寺アニメーション映画祭
 1999年初開催/吉祥寺活性化協議会、吉祥寺アニメーション映画祭実行委員会主催

◆東京アニメアワードフェスティバル(アニメ オブ ザ イヤー)
 2014年初開催/東京アニメアワードフェスティバル実行委員会、日本動画協会主催

しかし、これらの情報はアニメ専門誌やアニメ専門のネットメディアなどには取り上げられるものの、全国放送のニュースなどで取り上げられることが少ないため、一般の方の目に触れる機会がなく、当然認知度は低いものとなっています。

今年3月には、新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)が初開催されましたが、ローカルニュース扱いで、一般ニュースで取り上げられることは少ないせいか、こちらもアニメ業界の方やアニメファンなら知っていても、一般認知度は低いようです。
仕事場にいた普段からアニメを見ているような方数名に聞いてみたところ、そもそも新潟の映画祭どころか、上記3つのコンペすら全く知られていませんでした。
これまでもアニメ業界に関わりのない一般のアニメファンの方々に話を伺う機会がありましたが、これらのコンペやイベントを知っている人はごく稀で、アニメファンではない人の認知はさらに低いことが想像されます。

開催者の真意は定かではありませんが、上記の映画祭は業界関係者や版権の購入者、あるいは海外向けに機能している権威付けであって、一般視聴者向けではないという実態となっているようです。

ちなみに、4月12日に発表された本屋大賞の大賞受賞作品は凪良ゆうの『汝、星のごとく』でしたが、本屋に行くとポップ付きで平置きされており、筆者の地元である練馬区立の図書館での予約者はすでに1,200人を超えていました。全国の図書館で同じような状態になっていることを思うと、その効果がいかに大きいかがうかがえます。

<東京23区の図書館での予約数上位10館>
世田谷区立図書館:1720件
練馬区立図書館:1270件
大田区立図書館:1225件
杉並区立図書館:1054件
江東区立図書館:924件
目黒区立図書館:826件
品川区立図書館:805件
江戸川区立図書館:703件
板橋区立図書館:677件
葛飾区立図書館:677件

本屋大賞の受賞作品は、現在では芥川賞直木賞の受賞作品よりも売上部数が伸びると言われており、一般消費者向けの権威付けの仕掛けとしては、極めて効果的で上手く機能していると言えます。

JR山手線の車内にあった本屋大賞の広告

一方、アニメの方はと言うと、前述のコンペなどは業界向けには機能しても、一般認知度が低く、受賞作品は元々売れている作品だったり、逆に全く知らない作品だったりですが、受賞したことによってSNSで話題になったり、一般視聴者が行動を起こすような様子はうかがえません。
ちなみに第1回NIAFFコンペティション部門グランプリは、村上春樹の6つの短編を基にした海外アニメ『めくらやなぎと眠る女』という作品ですが、この作品をご存じの方はいるでしょうか?


次回に続く。

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