アニメの権威付けについて考えてみた件 中編 日本アカデミー賞アニメ部門

アニメの未来を考える

前回、アニメにおける権威付けについて、一般視聴者向けの仕掛けが未発達である点について取り上げました。

東京アニメアワードフェスティバル(アニメ オブ ザ イヤー)や新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)といったアニメ作品専門のコンペは一般認知度が低いのですが、アニメ業界関係者ではなくとも多くの人が知っている日本アカデミー賞にはアニメーション部門があります。
これは2007年に創設された部門で、本家であるアメリカのアカデミー賞に長編アニメーション部門が設立されたのに倣ったもののようですが、アメリカと日本では状況が異なります。

アメリカでの設立の背景には、それまではアニメ作品の本数がコンペを行える程に作品数がなかったことや、海外アニメの多くが芸術作品というよりも子供を対象にした娯楽作品であったことがあり、近年そうした状況が変化してきたことを受け、アカデミー賞で冷遇されて来たアニメ作品にも光を当てようという意図がありました。
そもそもアメリカにおける興行収入ランキングでは、アニメ作品は上位10位以内に入っておらず(アニメ作品の最上位は第13位の『インクレディブル・ファミリー』)、日本におけるアニメ程にはその市場規模の占める割合が大きくないという状況もあります。
また、アメリカのアカデミー賞の場合、作品賞と分けて長編アニメーション部門があっても、それは作品賞からアニメ作品が除外されたわけではなく、2010年の第82回で『カールじいさんの空飛ぶ家』が、2011年の第83回で『トイ・ストーリー3』が作品賞と長編アニメーション部門の両方にノミネートされています。

俳優や制作スタッフたちが会員の大半を占める映画芸術科学アカデミー※1が主催するアメリカの本家アカデミー賞とは異なり、日本アカデミー賞の会員内訳を見ると、2022年度の会員数3935名のうち、松竹、東宝、東映、日活、KADOKAWA、興連、賛助法人を含めると全会員数の68.7%を占めており、選考結果に企業の思惑が反映しやすい特徴があります(アニメ関係者は内訳に項目すらありません)。
過去には、黒澤明をはじめ、北野武や樹木希林など、日本アカデミー賞の選考に対して批判の声を上げる方々もいました。

<日本歴代興行収入ランキング>
1. 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(404.3億円)
2. 千と千尋の神隠し(316.8億円)
3. タイタニック(277.7億円)
4. アナと雪の女王(255億円)
5. 君の名は。(251.7億円)
6. ハリー・ポッターと賢者の石(203億円)
7. もののけ姫(201.8億円)
8. ONE PIECE FILM RED(197.1億円)
9. ハウルの動く城(196億円)
10. 踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!(173.5億円)

日本アカデミー賞が創設された昭和の時代ではアニメ作品の市場規模は実写映画よりも小さいものでしたが、近年では観客動員や売上という実質的な成績上は、圧倒的にアニメ作品の方が実写作品よりも上で、芸術性の面においても、実写映画に対して遜色のない作品は数多くあります。
そんな中で、日本アカデミー賞でもアニメを無視し続けることはできず、アニメ部門を設立したわけですが、これは、作品賞と区分けして、アニメは別の場所で取り扱うというものに他なりません。

邪推に過ぎないかもしれませんが、一緒の枠で比べたらアニメが圧倒的に上位を占めてしまい、実写映画が沈んでしまうので、別枠にすることで両方を(アニメの場合は受賞効果が低いので、優先順位的には実写映画の方を)目立させる必要があったとも考えられます。
事実、アメリカのアカデミー賞とは異なり、日本アカデミー賞では、アニメ作品が作品賞とアニメ部門の両方にノミネートされたことはありません。
明言はされていませんが、日本アカデミー賞における作品賞の選考対象には、アニメ以外の作品という暗黙の選考ルールがあるとも見て取れます。

そうしたこともあってか、日本アカデミー賞にはアメリカの本家アカデミー賞程の権威付け効力はなく、特にアニメ作品においては、日本アカデミー賞を受賞したからといって売上が倍増したなんて話は聞こえてきません。
したがって、日本アカデミー賞は、他のアニメ専門コンペに比べて格段に認知度は高いものの、一般視聴者に対するアニメ作品の権威付けの仕組みとしては、あまり機能をしていないと思われます。


次回に続く。

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