静岡のプラモニュメントが増殖・進化している件 後編 プラモニュメントの仕組みと今後の期待
前回、前々回と、静岡市に設置されているプラモニュメントについて解説してきましたが、ここで改めて、プラモニュメントのプロジェクト概要を見てみましょう。
プラモニュメントは、静岡市が博報堂ケトル、静岡博報堂という博報堂グループの広告会社と組んだプロジェクト「静岡市プラモデル化計画」の一環で誕生したモニュメントです。
初期投入こそ静岡市で制作・設置したものの、自治体だけで行う活動ではなく、賛同する地元企業による設置を推進していくPR事業となっています。
つまり、静岡のプラモデル文化をPRすると同時に、賛同する企業のPRにもなるWin-Winな企画というわけです。
プラモニュメントには静岡県から1/2の補助金が出る
プラモニュメントのデザイン、設計、制作、設置の費用は、賛同企業の負担になりますが、静岡市が補助金(1/2以内・上限250万円)を出してくれます。
費用が500万円以内に収まれば、半額で設置できることになります。
募集要項を見る限りでは、企業側が自分たちでデザインや製造まで行うことはNGではなく、デザイン的な決まり事みたいなことも記載が見られませんが、突飛で奇抜過ぎるものや他のデザインとかけ離れたものを制作されては困るという事情もありそうです。
企業側でも勝手がわかりませんし、「静岡市プラモデル化計画」の監修を受けることが必須なので、この辺りは博報堂に依頼する流れになるのではないかと推察されます。
2022年のグッドデザイン賞の際の記載によると、デザイナーは株式会社博報堂ケトルの永井貴浩氏とアオイネオン株式会社の松尾憲宏氏となっていますね。
実制作は、藤永製作所といった地元の鋳造関連の会社が担っているようです。
どんなに良いものでも特性を理解しないと失敗する
プラモニュメントのようなものを作る際に大事なことは、その特性を理解することです。
いくら成功例があるものであっても、長所や欠点をちゃんと理解せずに設置してしまうと、その効果を十分に上げられず、残念な結果に終わってしまうこともあります。
◆ プラモニュメントは背景に溶け込まないようにすべし
プラモニュメントの場合で言えば、その欠点は背景が透けてしまうことです。
ランナーが細いので、背景が同系色だったり、フラットではないゴチャゴチャした背景だった場合、撮影した際に、形が背景に溶け込んではっきり見えない残念な仕上がりになってしまいます。
これではSNSでの注目度を集めたり、行ってみたいと思わせることができません。
◆ プラモニュメントは撮影しやすいロケーションに設置すべし
モニュメントである以上、”目立ってなんぼ”なわけですから、人通りの多い場所に設置したくなりそうですが、地元の住人が多く行き交うような場所に設置するのは避けるべきです。
例えば、静岡鉄道が駅にプラモニュメント券売機を設置したとしたらどうでしょう。
撮影したい人が、乗車券を買いたい人の邪魔になる場面が容易に想像できます。逆に購入客が後を絶たずに撮影し難いということもあり得ます。
地元住民が生活のために利用していて混雑するような場所や利用頻度の高い機器などで、住民の生活の邪魔になる行為が行われれば、地元の支持を得ることができません。SNSで炎上してイメージダウンは必至でしょう。
写真右の病院のものは、人通りが多くない場所とは言え、道路沿いに設置されているため、道路に立って撮影しなくてはならず、歩行者の邪魔になることが考えられます。
歩道ならまだしも、車道に出て撮影したりすれば問題になるので、このようなロケーションでの設置は避けるべきと言えそうです。
設置場所は、撮影されることを前提に、必ず前面が開けた安全な場所である必要があります。
そのような配慮ができないと、効果が挙げられないどころか、否定的意見が広がってしまいます。
信頼や評判を積み上げるのには時間や労力が要りますが、それらが崩れるのは驚くほどに容易で一瞬の出来事です。
その上、一度崩れたものを再度積み上げるためには、最初に積み上げるよりもはるかに時間と労力がかかる上、二度と積み上げられない程に致命的な傷を負ってしまうことすらあるので、充分注意する必要があるでしょう。
今後設置して欲しいプラモニュメントのアイデア
これまで12か所13基のプラモニュメントが設置されていますが、今後も増殖は止まらないでしょう。
これまでの勢いを止めないよう、単なる模倣ではなく、常に画期的なアイデアを盛り込み、さらに進化した形での増殖を期待したいところです。
そこで、今後できて欲しいプラモニュメントを、個人的な希望を大いに含めて提案してみたいと思います。
① ガンプラのプラモニュメント
以前のコラムでも触れましたが、静岡市にはガンプラの生産拠点であるバンダイホビーセンターがありますが、現地は工場外観を眺める他には何もない場所。
周囲は閑散としてコンビニすらなく、遠くから訪れたファンががっかりして帰る残念スポットです。
ここにガンダムのプラモニュメントを設置すればファンたちがさぞや喜ぶことでしょう。
工場周辺に人が訪れてほしくない事情があるようであれば、設置場所は、ガンダムのデザインマンホールが設置された東静岡駅前でも良いかもしれません。
ガンダムのデザインマンホールは、バンダイ側が募集して静岡市が応募したことで実現しましたが、プラモニュメントの方は、静岡市が募集しているものなので事情が逆なわけです。
その上、費用の1/2を負担しなくてはならないので、すでにPRが不要なくらい有名なバンダイ側がメリットを感じない限り実現しないかもしれません。
バンダイがガンダムのモニュメントを作るとしても、静岡よりも東京などに作った方がはるかに効果は高そうなので、あとはバンダイの静岡への想い次第と言えそうです。
妥協案と言うべきか、ちょっと斜め上的な発想を展開するとしたら、静岡市内ではなく、東京と福岡にあるTHE GUNDAM BASEに、ガンプラのプラモニュメントを設置してもらうというのはどうでしょう。
バンダイとしてはガンプラのアピールになり、静岡市としてはプラモニュメント自体の知名度を上げることになります。
その場合、静岡市はちゃんとプラモニュメントの意匠登録をしておく必要が出てきそうですが、その辺りは博報堂の領分なのか、ここでは趣旨から外れるので、言及は控えておきましょう※。
② ちびまる子ちゃんのプラモニュメント
静岡市と言えば、ガンダムに次いで知名度が高いコンテンツが『ちびまる子ちゃん』。
これもプラモニュメントになれば話題性は高いでしょう。
しかも、一見プラモデルとは縁が遠いように思える『ちびまる子ちゃん』が、プラモデルキットとなるところが、逆にアンマッチでおもしろさを演出できるのではと考えられます。
まる子をはじめ、花輪クンや丸尾君、永沢、野口さんなど特徴的なシルエットのキャラクターがいるので、なかなかおもしろいものが出来るのではと思われます。
最近では、着色済みの顔パーツも珍しくないので、まる子の顔の取り換えパーツで、通常の笑顔の他、縦線入りのガーン顔や、いけずぅ顔などを作っても良さそうです。
ちびまる子ちゃんランドを運営するエスパルスドリームプラザが賛同企業となって制作・設置することで、実現できるのではと期待します。
③ 登呂遺跡のプラモニュメント
静岡市の登呂遺跡と言えば、かつては弥生時代の遺跡としては初となる国の特別史跡とあって教科書にも載る程で、全国的にも有名な史跡でした。
しかし、吉野ヶ里遺跡や三内丸山遺跡といった古代遺跡の強敵が登場して影が薄くなっていく一方で、最近では名前すら知らない人も多いようです。
そんな現状を打破すべく、遺跡の関係者たちは何とか知名度を上げたいと苦心しているのではと思われ、PR需要は充分にありそうに思われます。
あとは静岡市自体(行政幹部の方々)にどれだけ登呂遺跡を盛り上げたいという意思があるかということころでしょうか。
ただ単に登呂遺跡をイメージしたプラモニュメントを作っても話題になりません。
そこで簡単な仕組みのオートマタ(自動人形)を使って、狩りや稲作、土器づくりなどの弥生時代の風物を人形劇風に見せるカラクリを付けてみれば、動画映えがして見応えのあるプラモニュメントになるはずです。
④ 観光案内パネル
JR東日本や空港、市役所、商業施設などで導入されている対話型AI「AIさくらさん」のような観光案内タッチパネルをプラモニュメントに組み合わせるのも相性が良さそうです。
単にタッチパネル型のデジタルサイネージを設置しただけでは話題として盛り上がりに欠けるので、プラスアルファの要素が必要でしょう。
・プラモニュメントの情報発信基地として、種類や設置場所、行き方などを案内
・ここでしか入手できない地元商店のデジタルクーポンを当日限定といった縛りで発行
・プラモニュメントデザインのARフォトフレームで撮影でき、自分のスマホに転送可能
・各プラモニュメントを巡るデジタルスタンプラリーのスタート地点(全スポットにビーコン設置)
というものであれば、比較的低予算で実施が可能ではないかと思われます。
もう少しインパクトを求めるのであれば、24時間ライブカメラを設置してYouTubeで配信しても良いでしょう。
駅前広場に設置しておけば、天気や混雑状況をネットで見ることもでき、監視カメラとしての役割も担えますし、画面に映りに来る目立ちたがり屋さんやパフォーマーなどもいるかもしれません。
設置場所が広場であれば、交通の妨げになる心配も低そうに思われます。
⑤ 時計プラモニュメント
【No.013新幹線】で可動する電動パーツが付属していましたから、今後もさらに動く仕掛けが期待されるでしょう。
単なるアナログ時計ではつまらないので、「機械式7セグメント時計」と呼ばれるものやカラクリ時計のような何らかの仕掛け時計が良いと思われます。
時計の稼働くらいであれば大きな電力はいらないので、屋外であれば、ソーラーパネルによる電力供給で運用することも可能でしょう(補助金額を超えてしまいそうですが)。
⑥ 光るプラモニュメント
モチーフではなく、機能的な面で言えば、やはり発光機能は外せないでしょう。
設置場所が屋外の場合、やはり夜になると目立たないという弱点があるので、24時間存在をアピールするためには、明かりが必要です。
単純にライトアップすれば済む話ですが、それでは話題性に欠けます。
東所沢の光るデザインマンホールという前例もあるので、モニュメント自体が発光するとなれば、見た目のインパクトも然ることながら、話題性としても抜群でしょう。
⑦ 水が出るプラモニュメント
プラモニュメントは、そのパイプ的な構造の特性を活かし、液体を流すように加工することも可能なはず。
そこで考えられるのは、緑茶が出てくる蛇口を設置した静岡茶のPRプラモニュメントです。
静岡茶商工業協同組合や静岡県茶業会議所といった静岡茶の団体があるので、いずれかが道の駅やしずおかO-CHAプラザ、日本平の茶畑テラス「全景の茶の間」などに設置して、試飲サービスなどを展開すれば話題となり、PR効果抜群でしょう。
また同じく水を使ったもので、噴水やミスト噴射なども考えられます。
欲張って噴水機能とミスト機能を両方つけて多機能化し、夜は噴水にライトアップして噴水イルミネーションにするのも良さそうです。
⑧ 音が出るプラモニュメント
光、水と来たら、次は音です。
欄干に鉄琴が仕込まれている北海道鷹栖町のメロディー橋(北野橋)のように、順番に叩くと曲になるものは、比較的簡単にできそうです。
そういえば、メロディー橋の欄干とプラモニュメントの構造ってよく似ています。
いっそのこと、欄干をプラモニュメント化して、プラモニュメント橋というものを作ってしまってはいかがでしょう。
そこにさらに鉄琴も付けてしまえば、単に音が出るよりもより話題性が高いものとなります。
ただし、これだと補助金上限の250万円を超えてしまうので、なかなかにハードルが高そうではありますが、静岡市自体が設置するのであれば、実現できなくもなさそうに思われます。
⑨ プラモデルの自動販売機なプラモニュメント
自動販売機を付けたプラモニュメントを作り、そこでしか入手不可能なプラモデルを販売します。
先のコラムでも触れたようなプラモニュメントを1/100サイズでプラスチック成型したキットや、プラモニュメント自体のプラモデルというジョークグッズも話題性があって良いかもしれません。
プラモデルのみならず、観光グッズを合わせて販売しても良いでしょう。
ともかく、そこでしか買えないということがポイントです。
以前のコラムでも取り上げた静岡ホビースクエアの前に設置すれば、施設のPR効果も見込めるはずです。
販売されるプラモデルに関しては、さらにひと工夫あっても良いかもしれません。
バンダイスピリッツは、伊藤園と連携した茶殻配合ガンプラ「1/1 ザクプラくん」を発表していますから、静岡茶×プラモデルというコラボ要素も加えられそうです。
伊藤園は静岡市発祥な上、現在も静岡県内に生産工場を持っていますから、静岡とは浅からぬ縁がある会社。
バンダイ、伊藤園ともに静岡に縁があることから、コラボ先としても申し分ないと思われます。
⑩ ガチャガチャ(カプセルトイ)のプラモニュメント
そこでしか入手できないような地元グッズを入れた、いわゆる観光ガチャ付属のプラモニュメントです。
入れるもの次第では、利き酒ガチャや静岡茶の試飲ガチャなどのイベント活用も可能でしょう。
通常サイズのガチャガチャでも良いし、巨大なガチャガチャであればさらに注目を集めることができるはずです。
今回は、リアルベースで実現可能そうなアイデアを10つ程挙げてみましたが、まだまだいくらでも考えられそうです。
それだけプラモニュメントには汎用性・拡張性があるとも言えます。
神籬では、今後も静岡市のプラモニュメントに注目していきたいと思います。
〈了〉
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※ 「プラモニュメント」という名称はオリジナルであるものの、組み立て前のプラモデルのランナーやパーツを巨大化(リアルサイズ化)してモニュメントやアート作品にする試みは、プラモニュメント以前にも存在していました。
静岡市内には、プラモニュメントが登場する数年前(2018年頃)に同じようなものを作っている菓子店があります。
海外でも、スウェーデンの芸術家マイケル・ヨハンソン(Michael Johansson)の作品(Model kit)にプラモニュメントとよく似たものが見られます。
2018年には、セガとコトブキヤのコラボで、PS4版ゲーム『BORDER BREAK』のリアルサイズのプラモデルランナーが新宿駅メトロプロムナードに設置されました。
作中に登場するブラスト・ランナー「輝星・空式」のキットで、単なる展示だけではなく、パーツを切り離す様子も見せるイベントを開催。
さらに、切り離したパーツは実際に1/1プラモデルを組み立てられ、ベルサール秋葉原にて完成披露会が行われました。
リアルサイズのプラモデルキットというアイデア自体は、他にいくつも前例があるものなので、意匠登録するのは困難かもしれません。
また、意匠登録して制限するよりは、くまモンのように、ちゃんと申請さえすれば、公認として「プラモニュメント」の名称を使って同じようなものを制作・設置しても良いという形にした方が、返って広がりを見せるかもしれません。