アニメ東京ステーションに行って来た件

2023年10月31日にオープンして半月程が経つアニメ東京ステーションを、ようやく見に行くことができたので、今回はこの施設についてご紹介します。

場所はジュンク堂書店 池袋本店の2つ隣のビル(藤久ビル東5号館)。
かつて丸善(文具屋)があった場所で、ビルの象徴となっていた1階に飾られていた西武鉄道・京急・東急のカットモデル電車は、撤去されることなく継続展示されていました。

1階は吹き抜けになっており、今回展示会が開かれている『NARUTO-ナルト–』に出てくる九喇嘛の特大バルーンが出迎えてくれます。
これは海外のイベント用に製作されたもののようで、日本初公開とのことです。
よく見ると、九喇嘛の下にちゃんと八卦封印も描かれていました。

もう一つの目玉は、計118作品のアニメビジュアルを天井から吊り下げたモニュメントです。

1階フロアにはこの他、キャッシュレス決済で購入できるSMART GASHAPONのコーナーや、モニターを見ながらくつろげるエリアがありました。モニターにはアニメ制作会社のプロモーションムービーが映されていました。

施設はビルの地下1階から地上2階までの3フロアで構成されており、1階は総合情報プラットフォーム、2階は関連企画展示、地下1階はアニメ制作資料保存となっています。

2階の企画展示室では、「『NARUTO-ナルト-』フィギュア&ゲーム展示」が開催されていました。

入口には、主要キャラクターの等身大フィギュアが飾られています。

こちらは中・小サイズのフィギュアが飾られている「展示コーナー」

対戦型格闘ゲーム『NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム』が遊べる「ゲーム体験コーナー」

モニターに映し出される自分の姿に、作中の必殺技(忍術)である「螺旋丸」と「千鳥」のエフェクトが合成されて巨大モニターに映し出される「忍術体験コーナー」

等身大フィギュアが多数展示されていました。

地下1階のアニメ資料室は、ウインドウ越しにパネル展示や当時実際に使われていた作業机や機材などの展示がありました。
資料室と銘打っているので、てっきり資料の閲覧などができる施設かと思いきや、ウインドウ越しに眺めるだけで、資料は非公開とのことです。

2003~2004年に放送された『ASTRO BOY 鉄腕アトム』の企画書やキャラクター設定、シナリオなどの資料が展示されています。

こちらは美術ボードに美術設定、色彩設定、絵コンテの資料です。

まだセル画やフィルムが使われていた時代の制作工程を感じられる展示となっています。
棚に収められているのは原画や動画を入れたカット袋ですね。

こちらは下からテレビ用の16mmフィルムに、映画用の35mmフィルム、制作会社がテレビ局に納品する放送用のVTR(ビデオテープレコーダ)の展示です。

16 mmはなんと1980年に放送された『鉄腕アトム (第2作)』のオープニングでした。幼少期にリアルタイムで見ていた作品なので、個人的にかなり懐かしくも嬉しい展示でした。
ちなみに35mmの方は『ジャングル大帝』です。


ここまで掲載している写真を見て、人が全く写っていないことを不思議に思った方は、なかなか鋭いですね。
オープンして間もない施設で、貸し切り取材をしたわけでもなく、撮影をするからどいてくれと頼んだわけでもないのに(そもそもそんなことはできませんが)、人が全く写り込まないのはどうしたわけでしょう。

実は筆者が訪れた際、1階には受付の職員しかおらず、2階に上る際には降りてくる2組の客とすれ違ったものの、展示室には全く客がいないかったため、意図せず貸し切り状態となってしまっていたのです。
写真撮影で人を避けて撮影するのが面倒なので、客の少なさそうな平日の昼頃を見計らって訪れてはいたのですが、ここまで人が少ないというのはちょっと予想外でした。
地下1階では、先程すれ違った2組の客がいたものの、すぐに退館してしまい、地下でも筆者一人という状態。説明係の方が声をかけてくれたので、客が私だけなのをいいことに、いろいろと話し込んでしまった程でした。


この施設については、計画発表時から注目していたので、オープン初日には報道を期待していたのですが、ウォッチしていた各ニュース番組では取り上げられていなかったようで(これについては筆者が見逃していたかもしれませんが)、個人的には拍子抜けした感がありました。
実際、TwitterなどSNSでの話題性もあまり高くなかったようで、10月31日以降数日のX(旧Twitter)トレンドを見ても、ハロウィンネタや11月1日のハローキティの誕生日、11月3日の『ゴジラ-1.0』劇場公開などの話題の中、アニメ東京ステーションは全く見かけることがなく、周囲の人たちに尋ねても、施設の認知度はほぼ皆無といった状況でした。

実は8月末からオープン直前までセミナーやワークショップ、講演会などを池袋で開催していましたが、こちらもあまり話題になっておらず、初日の首都圏NEWS WEBを見ても、オープン初日で開館前に並んでいた客はおよそ20人とのことなので(動画では多くの人が列に並んでいますとレポートされていましたが)、その程度の集客力しかないというわけです。
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20231031/1000098684.html

全部を見て回っても正味20分くらいで見終えてしまう程度の展示内容でしかなく、物足りない感は否めません。
せめて1963年に放送が始まった第1作目の『鉄腕アトム』の資料や手塚治虫の資料など、アニメ草創期の貴重な資料が展示してあれば見応えもあったかもしれませんが、2000年代のアニメの資料にはそこまでの貴重さは感じられないというのが正直なところです。

セル画はもう製造すらされていなくて、展示されているものは過去の制作工程に過ぎません。
歴史的な展示を主眼にするのであれば、草創期のものを見せる方が、貴重性がある上、歴史の重みも感じられます。
逆に、アニメの制作工程を見せることを主眼に置くのであれば、デジタル化が進んだ現在のアニメがどう作られているのかを見せないと有用性が低い気がします。

ちなみに、展示されていた『ASTRO BOY 鉄腕アトム』は、セル:デジタルの割合が7:3で制作されており、この作品が放送される前年の2002年までにほとんどのアニメがデジタル制作に移行を完了していました。
この作品を除けば、セルアニメは『サザエさん』のみ(2013年にデジタルに完全移行)といった状況で、敢えてセル制作にこだわった最後の新作セルアニメ作品だったわけです。
その意味ではこの作品を取り上げる意味はあったのかもしれませんが、この『ASTRO BOY 鉄腕アトム』でも一部は使われていて、現在主流となっているデジタル制作工程の展示が一切ないというのは、やや片手落ちとの印象は拭えません。

そもそも「資料室」という名前をつけるのであれば、図書や映像資料の閲覧がありそうなものですが、ウインドウから眺めるだけというのはやや芸がなさ過ぎる気もします。
5億も予算があったのなら、古本屋が多いことでも知られる池袋ということもあるので、アニメ関連の貴重本を何冊か買い集めて展示するだけでも随分印象が異なるのにとも思ってしまいました。

企画展示にしても、既存の商品やゲームを並べただけでは、ファンにとっては足を運ぶ程の価値を見出せないかもしれません。
もちろん九喇嘛の特大バルーンや等身大フィギュアなどもあるのですが、イベント用に描き下ろしたイラストや原画の類もないので、せめて施設オープンに寄せた原作者の岸本斉史やアニメの出演声優によるサイン色紙が展示されるなど、何かもう少しここでないと見られないものが欲しいところです。

2階にはショップもあったのですが、ここでしか入手できない特別なものが販売されているわけではなく、商業施設によくあるPOP UPショップ的な印象です。近くにアニメイト本店などもあるので、そちらに行った方が良い気がします。
キャラクター作りこそ日本のお家芸なのですから、アニメ東京ステーションのマスコットをデザインしてオリジナルグッズを展開し、これこそが日本のコンテンツ作りの真骨頂だとアピールすべきところでしょう。

一番不可解だったのは、この施設が誰をターゲットに、何を目的としてどこを目指して設立・運営されているのかがはっきりとつかめない点です。
集客という点では、見るものが少ないため、現状ではやや力不足感があり、資料保管の面では数量的に(1990〜2000年代を中心とする約120作品5万点)まだまだ少ない印象があります※1
さらには、この資料をアーカイブ化するなりして閲覧できるものにしていない点や※2、情報発信にしても、そもそも施設の認知度が低い上、高い発信力を持つチャンネルがないこともあり、現状ではその能力を持ち合わせていないように思われます。
ちなみに、アニメ東京ステーションのX(旧Twitter)の公式アカウントのフォロワー数は11月18日時点で299人でした。

案内を務めていた職員に、集客を目的とした施設なのか、あるいは情報発信が目的なのか、それとも資料の保管・管理を目的とした施設なのか、資料を公開して専門家やアニメーター志望の人たちの研究に役立てることを目指しているのかなどを尋ねてみたものの、どれも叶ったら嬉しいけれどといった感じで、あまり明瞭な回答はいただけませんでした。

無料の施設なので、あまり贅沢な期待をしてはいけないのかもしれませんが、事業費約5億円をかけた施設なのですから、そこはちゃんとしていただきたいところです。

1階フロアに、日本動画協会がネット上で公開している「アニメ大全」を閲覧できるモニターがありましたが、表示されているページのサイズがモニターサイズに最適化されていないので(サイズがあっていないので、右側が大きく空白画面になってしまっています)、取って付けた感も否めません。
東映アニメーションミュージアムにある巨大なタッチパネルモニターで、過去作品の動画を選んで閲覧できるようなものであれば良さそうですが、小さなモニターで、文字メインの作品情報を見る必要性は低いように感じます。
スマホやPCでも同じ情報を見られるのですから尚更でしょう。

以前コラムでも取り上げた豊島区立のトキワ荘ミュージアムやトキワ荘通りでは、区の主導でなかなか良い取り組みが見られましたが、こちらの施設は東京都が設立し、一般社団法人の日本動画協会が運営を行っているだけに勝手が違うのかもしれません。
区単位であれば、オタク層に訴求する街を目指してターゲットを絞った戦略が実施できるかもしれませんが、都主導の場合、一部の人たち向けに特化した施設を作ると言うと、区の場合とは比較にならない程大きな反発が出てくることも考えられます。
対象外になった人たちからの、自分たちの利にならないものに(間接的にはなるかもしれませんが)税金をかけるのはけしからんという非難を回避すべく、広く浅い層向けに、偏りなく、どこにも角が立たないが、インパクトや訴求力は削がれてしまうといったようなものが出来上がってしまうことも想像に難くありません。

とはいえ、案内係の方によると、トークショーなどのイベント予定もあり、これからいろいろ計画があると含みのあることを言っていたので、今後の展開に期待をしたいところです。


次回に続く。

〈了〉


神籬では、アニメ業界・歴史・作品・声優等の情報提供、およびアニメに関するコラムも 様々な切り口、テーマにて執筆が可能です。
また、アニメやサブカル系の文化振興やアニメ業界の問題解決、アニメを活用した地域振興・企業サービスなど、様々な案件に協力しております。
ご興味のある方は、問い合わせフォームより是非ご連絡下さい。


※1 数量を多いと感じるか少ないと感じるかは人によって印象が異なることもありますが、120作品というのは、1年間に放送されるテレビアニメ(200作品以上)よりも少ない作品数です。
テレビ、劇用版、OVA、WEB合わせるとアニメのタイトル全数が1万2000作品以上あるので、およそ1/%程とも言えるでしょう。
さらに、30分アニメ1話分の作画枚数が2500~3000枚程だとすると、1クール放送分(12話分)でも1作品で3万点以上の資料になってしまいます。
単純計算で5万点を120作品で割っても、1作品400点強、実際には偏りがあってセル画が多い作品、原画や動画が多い作品、設定資料だけの作品、テープだけの作品などもあるかもしれません。それで5万点ですから、規模感的には多くはないとの印象です。

※2 ここに保管されている資料は、元は中野新橋の倉庫に保管されていたもので、アニメ東京ステーションのオープンを機に移管したのだそうです。
アニメ東京ステーションは東京都の施設ですが(運営は日本動画協会)、ここに保管されている資料は都の所有物ではなく、所有権は各制作会社にあり、あくまで寄託契約により、維持管理を代行しているに過ぎません。
そのため、資料の扱いについて都の意向だけでは実施できない部分が大きいようです。