練馬区がアニメで盛り上がるアイデアを考えてみた件 前編

練馬区のアニメ関連活動の現状
筆者にとって練馬区は馴染みのあるエリアなのですが、町の中にアニメ色やマンガ色がほとんど見られないことを不思議に感じています。
それというのも、練馬区は都内でも屈指のアニメやマンガと縁が深い地であるからです。

虫プロや東映アニメーションを擁する日本アニメ発祥の地であるばかりでなく、現在も数多くのアニメ制作会社が練馬に拠点を置いていることは、アニメ好きならばご存じのことかと思います。
さらに、練馬にはかつて手塚治虫や松本零士、石ノ森章太郎、あだち充など有名マンガ家が居住しており、ちばてつや、高橋留美子、ゆうきまさみ、しげの秀一、あずまきよひこなどをはじめ、練馬在住のマンガ家は現在も多く存在しています。
その他、練馬は『ドラえもん』や『タッチ』、『らんま1/2』などの有名マンガの舞台地だったり、多くのアニメの舞台地にもなっています。
このように、アニメやマンガファンにとっての聖地といっても過言ではないエリアのはずですが、大泉学園駅周辺以外では、町の中でアニメ色を感じるものが全く見られず、アニメの町という印象が全くといってないからです。

町の中にオブジェやイラストなどがそこかしこに見られる、世田谷のサザエさん通りやウルトラマン商店街、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の亀有、『キャプテン翼』の四ツ木、藤子不二雄作品であふれる川崎市の登戸などに比べると、同じようにアニメや特撮などのコンテンツをウリにした町でも、随分違うものだと感じています。

アニメの町の看板を下ろした練馬
数年前、練馬区は「アニメ・イチバンのまち練馬区」というキャッチフレーズを掲げていました。
2007~2010年にかけて区内20の駅に1958年の『白蛇伝』から2006年の『こまねこ』まで練馬で作られたアニメ作品の画像付きの観光案内看板を設置。
さらに2015年にはアニメ大泉学園駅前には大泉アニメゲートというアニメのモニュメントを製作。
2007年からは区主導の「練馬アニメカーニバル」、2002年からは大泉の商店街主導で「練馬アニメフェスティバルin大泉(現・アニメプロジェクトin大泉)」が開催されてきました。
2011年からは、練馬区公式アニメキャラクター「ねり丸」の短編アニメーションをYouTubeで公開しています。
2016年には、区のPRアニメ『アニメで練馬区PR大作戦?!』なんてものも製作されました。

ところが、新型コロナウイルス感染症の影響で、両イベントはここ数年間中止が続き、ねり丸アニメも2017年7月に公開した第21話を最後に更新されておりません。
2021年には、『銀河鉄道999』『うる星やつら』『あしたのジョー』のマンホールを設置しましたが、これは東京都の支援事業を活用してのもので※1、練馬区主導の企画ではないようです。
しかも3枚とも設置場所は大泉学園駅付近で、大泉アニメゲートと共に、大泉学園駅周辺のごく狭いエリアのみ※2に、アニメのモニュメントが集中しているだけです。
他のエリアには、ほとんどアニメに関するものがないので、区民の多くは、練馬区がアニメの聖地であるということすら知らないことでしょう。

実際、練馬区内にはアニメイトやとらのあな、ゲーマーズ、ヴィレッジヴァンガードといったアニメ系のグッズショップは1件もなく、アニメコラボカフェや、アニメ・声優・2.5次元系のライブや舞台を開催するようなアニメ関連の施設も全くありません。
旧虫プロの建物はもはや廃墟同然ですし、アニメの観光案内看板も今では足を止める人はほとんどいない様子。
大泉アニメゲートにある5体のモニュメントも、設置当初は金色に輝く像でしたが、現在は劣化で汚れ(経年による古色ではなく、明らかにメンテナンス不足による劣化)が目立つなど見栄えが酷く、見るも無残という有様です※3

右は設置当初。左は現在の姿
メンテナンスしないとこうなってしまう典型的な事例

隣接区共同のアニメ事業にも不参加
中野区・杉並区・豊島区の3区では「中野・杉並・豊島アニメ等地域ブランディング事業」を2021年から開始し、今年11月には、「中野×杉並×豊島アニメ・マンガフェス」が開催されるそうです。
この3区は地理的には横並びで、豊島区と杉並区が隣接していないことに比べれば、練馬区はこの3区のいずれとも隣接するエリアです。
さらには、アニメやマンガにゆかりの深い地でもあるので、この取り組みに参加していてもおかしくなさそうに思われます。
ところが、最初から誘われなかったのか、あるいは打診があったものの断ってしまったのか、その経緯や理由は不明ながら、仲間入りをしていません。

では、独自で活動するのかというと、そういうわけでもありません。
「練馬アニメカーニバル」も「アニメプロジェクトin大泉」も、2019年を最後に2022年の現在も中止のまま。
これまで配布していた「アニメ・イチバンのまち練馬区」のPR冊子も、今年の2月末で配布を終了。
といった具合に、ここ数年間は練馬区主導によるアニメ関連の積極的な活動が見られません。
アニメを活用した街おこしの好例が日本全国で見られるのに比べ、練馬区の取り組みに少々寂しさを感じてしまうのは筆者だけでしょうか。

次回につづく


※1 東京都が実施する「令和2年度デザインマンホール蓋設置等支援事業」の働きかけに応じる形で、都の助成を受けてデザインマンホールを制作、2021年6月22日に大泉学園駅付近に設置しました。

※2 この他、大泉学園駅改札内に『銀河鉄道999』の車掌のモニュメント、大泉学園駅北口前バス停付近に『銀河鉄道999』の壁画、ゆめりあ商店街に『銀河鉄道999』のオブジェ付街灯があります。
それら全てを含めても、駅周辺わずか数百メートル以内のごく狭いエリア内のみに収まっています。
東映アニメーション大泉スタジオが、東映アニメーションミュージアムを2018年7月28日にリニューアルオープンさせています。
しかし、小規模で展示物が少ない上、最寄りの大泉学園駅から徒歩15分程というアクセスの悪さもあって、区民でも知らない人が多い程、認知度が低い施設となっています。

※3 銅像は、一般的に何十年も風雨に耐えられる頑丈で耐久力が高いものだと思われがちです。
その勘違いからなのか、持ち主が建立後に手入れをしないケースが往々に見られます。
自治体や企業・団体における銅像建立の計画でも、銅像の制作費と設置費は入れられているのに、メンテナンス費が抜け落ちていることも多いのです。
制作・設置して除幕式で盛り上がるところまでがゴールで、その後は何も考えていないというのが実情ではないでしょうか。
しかし実際には、銅像は設置したところがスタートであって、その後、いかに銅像の状態を維持できるかまでを含めた計画が実行されて初めて、銅像建立の計画の成功と言えるはずなのです。
毎日とは言わずとも、月1回程度でも頻繁にメンテナンスをするのであれば、表面のほこりを毛ばたきなどで軽く落とし、柔らかい布で水洗いするだけで済みます。
ところが何年も清掃せずに放置すると、汚れが積もり、雨だれ跡が固着して取れなくなってしまいます。さらに表面の保護膜が剥がれたまま放置された場合、酸化が銅の内部に浸透してしまうこともあるのです。こうなると修復が難しくなり、その費用も高額になってしまいます。
経年変化による美しい古色と、汚れや腐食による劣化は全く別の現象です。
酸性雨やほこり、鳥の糞、紫外線などにさらされ、汚れや腐食などの劣化が進んだ銅像は、見るも哀れな姿に成り果てるでしょう。


練馬区がアニメで盛り上がるアイデアを考えてみた件 前編
練馬区がアニメで盛り上がるアイデアを考えてみた件 中編
練馬区がアニメで盛り上がるアイデアを考えてみた件 後編