タツノコプロのことをふりかえってみた件 ⑭ スキャニメイトのこと
皆さんは「スキャニメイト」というものをご存じでしょうか?
1970~80年代にテレビを見ていたほとんどの方が、その名称は聞いたことはないものの、そうとは知らずに見ているはずです。
「スキャニメイト」とは、簡単に言うと、アナログコンピュータでビデオ映像信号を生成加工したCGエフェクトシステムで、明らかに手描きでは再現できない極めて「電子的」な映像が作り出せる技術です。
その真新しさや未来的なイメージ、さらにはわずか数時間で制作可能なスピード感もあって、このシステムが生まれた米国では、1970年代からデジタルコンピューターによるCG技術に取って替わられる1980年代初頭にかけて、数多くのCMやテレビ番組のオープニング、映画、ミュージックビデオなどに多用されました。
「スキャニメイト」の公式サイトでは、実物の「スキャニメイト」機材を見ることができる上、実際に機器を使って映像を作り出す様子もYouTubeにて配信されているので、制作過程がよくわかります。
印象的なのはやはり『タイムボカン』『ヤットデタマン』の時間移動シーンでしょう。
他にも『宇宙の騎士テッカマン』のオープニングやアイキャッチ、『ポールのミラクル大作戦』の不思議な世界へ通ずるミラクルゲートシーン、『科学忍者隊ガッチャマンII』の総裁Xシーンなどなど、数々のタツノコプロ作品で使用されたため、タツノコプロと言えばこの特殊な映像が印象に残っているという方も少なくはないのではと思われます。
ちなみに、タツノコプロの作品のエンドロールでは、「スキ・アニメート」と表記されていました。
ことのはじまりは、東洋現像所(現・IMAGICA Lab.)からタツノコプロへの「スキャニメイト」の売り込みがあったことです。
米国コンピュータ・イメージ社(Computer Image Corporation)が開発した8台の「スキャニメイト」システムのうちの1台を購入したのが東洋現像所で、もちろん日本唯一のものでした。
九里一平からこの話を聞いたという笹川ひろしも、すでにテレビで見たことがあったとのことなので、タツノコプロに話が来るまでにも使用例はあったようです。
しかし、まだまだ普及促進を図っている時期だったようで、本来であれば高額な料金がかかるところを、実験の名目で自由に使って欲しいとの話であったため、新しいもの好きであったことや、その未来的な映像に魅力を感じたこともあって、導入が決定。
さっそく、品川にあった東洋現像所ビデオセンターに、笹川ひろしがスタッフを連れて出向き、映像素材の作成のための打ち合わせを何度も行ったとのことです。こうして初めて出来た「スキャニメイト」映像が、後の『タイムボカン』になる初期企画『タンマー大混戦』パイロットフィルムに使用されました。
しかしこの企画はスポンサーがつかずに据え置かれたため、最初に日の目を見たのは、『宇宙の騎士テッカマン』でした。
筆者は当時、タツノコプロ作品以外の「スキャニメイト」使用作品を見たことがなかったため、長らくタツノコプロが開発した映像だと思い込んでいましたが、実際にはタツノコプロ以外でも使用例は数多くありました。
デジタルCGが本格的に映画に採用されたのは1982年の映画『トロン』※からだと言われており※1、これ以降デジタルCGが主流となって「スキャニメイト」は姿を消してしまいます。
現在から見ると、昭和時代の古い映像技術のようにしか見えませんが、当時の子供たちにとってこの映像は、とても先進的、未来的なものと映ったはずです。
〈了〉
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※ 『トロン』におけるフルCGシーンは15分程度に過ぎず、技術的・予算的な制約のために、多くのシーンではCGに似せた手描きのアニメーションや光学合成が使用されていました。