『地球の歩き方』がマンガコラボしている件 後編 学研による『地球の歩き方』

前回は、『地球の歩き方』を生み出したダイヤモンド・ビッグ社に焦点を当ててお話しましたが、実はこのダイヤモンド・ビッグ社は、今は存在しない会社なのです。

出版業界に詳しい方にとっては何を今更な話でしょうが、現在も書店の多くの在庫本の後ろや、図書館の在架本には、それぞれ出版と発行を担う「ダイヤモンド社/ダイヤモンド・ビッグ社」の両社が連名で記載されています。
新刊本も出版・発行社名の記載がなくなっているだけで、装丁もデザインもそのままなので、変化に気づいていない人が多いものと思われます。

インターネットの普及とコロナ渦で苦境に
そんな大成功したNo.1旅行ガイドの『地球の歩き方』ですが、インターネットが普及し始めると、情報媒体としての貴重性が失われていくことになります。
さらにスマホやGoogleマップなどが当たり前の時代になると、スマホが旅行ガイドの上位互換のような存在になってしまい、ますますその存在意義が引き下げられていく事態になっていき、『地球の歩き方』は、この強大過ぎるライバル相手に厳しい戦いを強いられることになりました。

さらに追い打ちをかけたのがコロナ渦です。
コロナ禍による海外渡航規制によって海外取材もできなくなり、一時は全ての制作を停止した上、売上はなんと95%減にまで落ち込んだそうです。

2020年9月に創刊40周年記念としてシリーズ初の国内版『地球の歩き方 東京』を出版したのは、そんなコロナ渦の真っ只中でしたが、これは、東京オリンピック開催によるインバウンド需要を見込んで何年も前から動いていた企画だったそうで、2020年7月に出版した『地球の歩き方 世界244の国と地域』も同じく東京オリンピックを見込んでの本でした。
この2冊については、もはや旅行ガイド本ではなく、国や地域の紹介・解説本という内容になっており、『地球の歩き方』としては異色本的な印象があります。
コロナ渦の厳しい情勢下ということもあり、『地球の歩き方』も活路を模索して新たな挑戦をしているのだろうと、筆者は当時、勝手なイメージを持ったものです。

しかし結果的にダイヤモンド・ビッグ社は負債総額約10億円を抱えて倒産してしまいます。
この報道が流れたのは2023年5月で、ネット上では『地球の歩き方』がなくなるという誤解が出回り、『地球の歩き方』の公式Twitter(現・X)でコメントを出す事態が起こります。

学研グループが受け入れ先に
ダイヤモンド・ビッグ社の倒産以前に、すでに『地球の歩き方』の出版事業は学研グループに譲渡されて引き継がれていたわけですが、そのことをこの時初めて知った人も多かったのではないでしょうか。

地球の歩き方』の出版事業が、2021年1月1日に学研グループの学研プラスに譲渡され、同日付で株式会社地球の歩き方を新設。
以降、地球の歩き方の発行、学研プラスの発売という枠組みとなっているのです。
ただし書店の店頭在庫に関しては、回収などは行わず、2021年以降はダイヤモンド・ビッグ社の親会社であったダイヤモンド社が返品を受け入れ、旧タイトル商品に新ISBNコードを附番して地球の歩き方社の本として販売する
実は先述の『地球の歩き方 東京』が10万部を超えヒットしたことが、学研グループが受け入れる決め手になったそうで、旧・地球の歩き方の編集者たちが行ったこの新たな挑戦は、決して無駄ではなかったわけです。
実際、学研グループが受け入れなければ、最悪なケースで『地球の歩き方』の廃刊すらあり得たかもしれません。

学研グループで『地球の歩き方』再生
最近では、良い意味でも悪い意味でも真面目で堅実なイメージだった『地球の歩き方』が、だいぶ遊び心を持った本を次々に出して話題になっています。
特に2022年に発売された『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』が印象的でした。
学研と言えば、看板ブランドの一つである『学研の図鑑』で、『キン肉マン』コラボである『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』を2019年5月に出版して10万部を超えるヒットとなり、次いで2020年9月には『学研の図鑑 キン肉マン「技」』を出版。さらに2021年4月には『学研の図鑑 スーパー戦隊』が5万6千部を記録したりと、コラボでの成功が話題となっていましたから、学研グループ入りした効果として、そうした動きが出たことには納得感がありました。

<コラボ本>
2021年4月発売『水曜どうでしょう×地球の歩き方 <上下巻>
2022年7月発売『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険
2022年8月発売『地球の歩き方 ムー ~異世界の歩き方~
2022年12月発売『水曜どうでしょう×地球の歩き方 原付の旅「日本列島制覇」編
2022年12月発売『水曜どうでしょう×地球の歩き方 原付の旅「ベトナム縦断」編
2023年11月発売『地球の歩き方 ディズニーの世界 名作アニメーション映画の舞台
2023年12月発売『水曜どうでしょう×地球の歩き方 四国編
2024年1月発売『地球の歩き方 宇宙兄弟 We are Space Travelers!
2024年3月発売『地球の歩き方 ムーJAPAN ~神秘の国の歩き方~

何でもアリになってきた自由度MAXな『地球の歩き方』
コラボ本だけでなく、脳トレ本の『脳がどんどん強くなる!すごい地球の歩き方』や、学習本の『地球のなぞり方 旅地図』なんてものも出しています。

地球の歩き方 東京』以来となる国内版も次々に出ており、それも東京23区、京都、沖縄、北海道、神奈川、埼玉、千葉、札幌・小樽、愛知、四国、北九州市などの観光名所の多いエリアだけならいざ知らず、『地球の歩き方 東京 多摩地域』、『地球の歩き方 世田谷区』といったかなりニッチなエリアを取り上げているのも意外性があっておもしろいところです。
しかもこの『地球の歩き方 東京 多摩地域』は「東京」の次に出た国内版第2弾で、京都や沖縄よりも先に出しているのです※1
2022年9月に出た「地球の歩き方」史上最多ページ数となる1056ページの圧倒的なボリュームの『地球の歩き方 日本』も各メディアで取り上げられ、話題となっていました。

さらには、『地球の歩き方 世界244の国と地域』を第1弾と位置づけた「地球の歩き方BOOKS 旅の図鑑」という新しいシリーズも展開しており、『世界の映画の舞台&ロケ地』、『世界のすごい墓』、『世界の麺図鑑』、『日本の凄い神木』、『世界のすごい巨像』、『世界なんでもランキング』、『日本の虫旅』などおもしろい企画本を次々に出版。
もはやガイド本という枠にとらわれない何でもアリ感があり、旅をテーマにした大喜利とでもいうような企画で注目度も高く、SNS時代にもマッチしていると言えそうです。

また、筆者の住む練馬区でも、『地球の歩き方』とのコラボで、『豊島園通りの歩き方 ワーナー ブラザース スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッターのある街』という冊子が制作され、2023年6月から区内の公共施設等で無料配布されています。

旧・地球の歩き方では、サブカル系の情報やアニメやマンガの聖地などはほとんど掲載されませんでしたが、『地球の歩き方 愛知』でもジブリパークが特集されていましたし、学研グループになってからは、そうした情報もかなり載ってくるようになってきていますから、次に何のコラボが出るのか、今後どんな情報が載ってくるのか大いに期待が持てそうです。

地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険
【電子限定特典付き】地球の歩き方 ムーJAPAN 〜神秘の国の歩き方〜
地球の歩き方 宇宙兄弟 We are Space Travelers!
J00 地球の歩き方 日本 2023〜2024
J10 地球の歩き方 愛知 2024〜2025

〈了〉


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※1 元々はインバウンド需要や地方の方など、東京へ来る人向けに作ったはずの『地球の歩き方 東京』が、蓋を開いてみたら、購入者の5割が東京都民であり、8割近くが首都圏の人々だったことがわかり、さらには、多摩地域の情報をもっと載せて欲しかったという要望も、当時の出版社には寄せられていたのだそうです。

このことが、需要があるはずだと見込んで『地球の歩き方 東京 多摩地域』を出す土台となったとのこと。