『地球の歩き方』がマンガコラボしている件 前編 『地球の歩き方』とは、そもそもどんな本なのか

みなさんは『地球の歩き方』という旅行ガイド本をご存じでしょうか?
外国旅行が好きな方などは当然知っていることと思いますが、旅行をしない人の中には知らない方もいるかもしれません。

『地球の歩き方』のコンセプトは個人旅行
地球の歩き方』は、1979年にダイヤモンド社の子会社であるダイヤモンド・ビッグ社が1979年に創刊した本です。
創刊は「ヨーロッパ編」と「アメリカ編」の2冊。
この『地球の歩き方』がそれまでの観光ガイド本と一線を画していた点は、他本が観光スポットの紹介がメインだったのに対し、現地の交通手段や風習、マナーといった旅行先での実用情報を多く載せたことでした。

当時の旅行の主流はパックツアーだったので、交通手段や宿泊先などはツアーガイドが手配してくれるし、マナー的なものもその都度ガイドが教えてくれるわけで、旅行者はどこに行き、何を楽しむかだけを考えれば良かった時代でした。
したがって、ガイド本に載るのは、絵画のような美しい景観の画像に、賛美な表現やドラマチックな演出で彩られた、行ってみたいと思わせるための情報でした。
ところが、『地球の歩き方』は、ガイドのいない個人旅行で実際に旅行に行った時に役に立つものを、圧倒的な情報量で掲載するというスタイルだったのです。

1980年代というと、まだヨーロッパの往復航空券だけで何十万もしていて、素人が参加するテレビのクイズ番組などでは「夢のハワイ旅行」のような謳い文句で海外旅行が優勝賞品の定番だった時代です。
創刊本の「ヨーロッパ編」の表紙には「ヨーロッパを1ヵ月以上の期間1日3000円以内でホテルなどの予約なしで鉄道を使って旅する人のための徹底ガイド」と記載されており、個人旅行が普及する前からここに焦点を当てたスタイルで出されたわけですが、これが多くの人に支持されて、No.1旅行ガイドと言われる程にまで成長していきました。

インターネットがない時代ですから、現地に知り合いでもいなければ、交通手段や宿泊先の情報などを得ることは難しく、個人の海外旅行者にとって、『地球の歩き方』はまさに命綱のようなものだったのだろうと想像できます。
当時の編集者たちも、この本1冊で個人旅行者を海外に旅立たせ、無事日本に帰らせなければならないという使命感を持って編集を行っていたのだそうです。


地球の歩き方』を作っているダイヤモンド・ビッグ社とは?
ダイヤモンド・ビッグ社が設立したのは1969年で、『地球の歩き方』が創刊された1979年までには10年もの開きがあります。
てっきり『地球の歩き方』を出版するために作られた会社なのだと思っていましたが、そうではないようです。
では、その間にこの会社は何をしていたのかというと、実はもともとダイヤモンド社の事業部の一つで、就活の大学生向けに企業を紹介する就職ガイドを作っていたのだというのです。
しかし、企業のことを取材して記事を書いているダイヤモンド社の中に、企業からお金をもらって記事を書く事業があるのは倫理上の問題があって都合が悪いというので、分社化したという経緯があります。
ちなみに、ダイヤモンド・ビッグ社の「ビッグ」は、「BIG(大きい)」ではなく、就職ガイドを作っていたことから「ビジネス・インフォメーション・ガイド」の頭文字で「B.I.G」とのこと。

そのダイヤモンド・ビッグ社では、就職ガイドだけではなく、副業で内定した大学生に海外の卒業旅行の提案していたのだそうです。
なぜ内定者を海外旅行に?というのは、学校のない春休み期間をまるまる使って海外旅行に行かせることで、他社からの勧誘やら何やらで内定を辞退する者を防ぐ手段として行われていたのだそうで、そうして海外旅行に行った参加者たちの体験談などをまとめた「地球を歩こう」という冊子を、翌年の参加者に無料特典として配っていたのだといいます。
配布した参加者には冊子は大好評で、印刷所の人からも市販した方がいいとアドバイスされたこともありましたが、周囲からは反対の声もあったとかで、半信半疑の中で売り出したところ、これが売れたのだそうです。
それで本格的に出版することになったのが、『地球の歩き方』だったというわけです。

地球の歩き方』は大成功し、次々に新刊を出版してタイトル数は100以上にも上り、どの書店に行っても、旅行ガイドの棚には何十冊もの『地球の歩き方』シリーズが並んでいるのが当たり前の状態となりました。
これには、ジャンボジェットによる大量輸送時代が到来し、航空チケットが安価になったことや、80年代に円高・高景気もあって、海外渡航者が爆増したことが追い風となったようです。

元々の事業であった就職ガイドは、その後、バブル崩壊やインターネットの登場で衰退してしまったために、分離して別会社に移管してしまったとんこと。
皮肉にも、副業だった学生旅行の、さらに副業だった『地球の歩き方』が、ダイヤモンド・ビッグ社の中核事業となっていったのです。

ダイヤモンド・ビッグ社と言えば『地球の歩き方』の出版社だと認識している人が大半でしょう。
筆者もその一人でしたが、こうした経緯があってのことだとは、今回いろんな記事を読み漁って初めて知りました。

次回に続く。

A07 地球の歩き方 パリ&近郊の町 2024〜2025
B02 地球の歩き方 アメリカ西海岸 2024〜2025 ロスアンゼルス サンディエゴ サンフランシスコ ラスベガス シアトル ポートランド
D25 地球の歩き方 インドネシア 2024〜2025
C11 地球の歩き方 オーストラリア 2024〜2025
A09 地球の歩き方 イタリア 2024〜2025

〈了〉


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