板橋区で開催中の黎明期アニメの展示会に行ってきた件

2023年12月23日から板橋区立教育科学館で企画展「いたばしアニメ博」が行われています。
映画発明以前に親しまれた光学玩具や映写機などの古い映像装置を展示するイベントで、会場内では修復作業や紙フィルムの複製や上映の様子などのムービーが流されていました。

実は12月16日に行われた「日本マンガキャラクター生誕100周年記念 玩具映画・幻燈・レコード上演――正チャンとノンキナトウサン」と題した先行イベントにも参加してきました。
日本のキャラクター漫画『正チャンの冒険※1と『ノンキナトウサン※2が生誕100年を迎えるにあたり、これを記念したイベントで、当日は、幻燈※3を実際に映し出したり、古い蓄音機で「ノンキナトウサン」をレコード再生したり、『正チャンの冒険』(ニュープリント版)を「ライオン活動写真機」という1930年代に販売されていた玩具映写機で上映してみせてくれました。

ちなみにこの教育科学館ですが、旧東京教育大学跡地を活用して昭和63年(1988年)に開館した科学教育支援施設です。
トリケラトプスの頭部やドモントサウルスの脚部の実物化石があったり、虫が閉じ込められた琥珀などの興味深い展示物がある一方、すでに35年以上も経っているので、地下の実験アトラクションのいくつかは故障で動かないままとなっていたり、エレベーターも突然照明が暗くなったり異様に振動したりと、なかなかに香ばしさを放っている施設となっています。

プラネタリウムは、今回初めて見たので過去のものとどう変わったのかわかりませんが、公式SNSでは、今年の5月に新しいプロジェクターによる全天周映像になったと発表されており、350円という低価格で見られるお得なものとなっています。

星空解説と『ポケットモンスター』のプラネタリウム用アニメを組み合わせたプログラムもあります。

「いたばしアニメ博」に話を戻すと、会場は2階の一室(教材製作室)で小規模な企画展ながら、なかなかに見応えのある展示物ばかりでした。

左はザ・蓄音機と言わんばかりの正統派の蓄音機
左の映写機はレコード再生機能付きの発声映写機(1935年)で、右の機械は紙フィルムを作成するためのパンチマシンです。
左は上映会で使用された玩具映写機で、右は初期のトレス台です。
その他にもレフシ―映写機(1932年)や、さらに古い1900年初期の貴重な映写機も展示されています。
中央と右のものは、フィルムを垂直ではなく平行移動させるタイプの映写機です。
レフシ―映写機の宣伝ビラと紙フィルム(1930年代)
こちらもパッケージに入った貴重な紙フィルム。古いレコードなども展示されています。

板橋区にはアニメイトの本社があるくらいで、練馬区や杉並区に比べて有名なアニメ制作会社もなく、アニメ色が薄いエリアという印象があり、なぜ板橋でアニメの展示会を?という疑問もありました。
そこで上映会イベントの際に聞いてみたところ、板橋区にはカメラのレンズやフィルムなどのメーカーが数多くあり、光学産業が盛んな地域であったとのことで、技術系でアニメ文化を支えてきた歴史があるとのお話。

ここに主に展示されているのは1930年代の映写機ですが、先のコラムで少年時代の手塚治虫が、家の映写機があって『フィリックス・ザ・キャット』やディズニー作品を見ていた時代で、ここに展示されているのは、その頃と同時代に日本に輸入されたり、日本国内で製造・販売されていた映写機というわけです。

国産アニメはすでに1910年代後半辺りから登場していますが、1930年代にすでに国産の玩具映写機が市販されていて、中流家庭などでも自宅で映像を映して楽しんでいたというのは驚きです。
手塚治虫の家にあったのは、もっと高級な映写機(フランス製の9.5mmフィルムによる映写機パテベビー)で、裕福な手塚家だからこそ所有できたものでしたが、それ程裕福ではない家でも映写機を普通に持つことができ、テレビがまだない時代に、アニメや映像作品を見ていた子供たちが、手塚治虫の他にも数多くいたわけです。

これらの研究は、ジャンル的にはエンタメというよりは映像考古学で、当展示会の学術協力を行っているのも日本映像学会メディア考古学研究会です。
そのため、作品の内容的な部分や映像演出の面での研究というよりは、技術的な研究という面が大きいようですが、技術と表現は表裏一体のものでもあるため、なかなかに興味深い展示会でした。

「いたばしアニメ博」は来年2月4日まで行われていますので、是非みなさんも足を運ばれてはいかがでしょう。

〈了〉


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※1 『正チャンの冒険』は、大正12(1923年)1月に朝日新聞社発行の写真新聞「日刊アサヒグラフ」で連載が始まり、関東大震災による同誌休刊後に「朝日新聞」で再開し、大正14年(1925年)まで連載されていた新聞4コマ漫画です。
主人公の少年・正ちゃんと相棒のリスが活躍する冒険活劇で、これをアニメ化した35ミリのフィルム(約2分間のモノクロ無声映像)が、奈良市の山里にある自治会の集会所で発見されたことが今年ニュースとなっていました。

※2 『ノンキナトウサン』は、大正12年(1923年)4月29日から『報知新聞』にて連載が始まり、掲載紙やタイトルを変えつつ連載されていたギャグ漫画。
大正14年(1925年)に短篇無声アニメーション映画『ノンキナトウサン 竜宮参り』が製作・公開されました。

※3 幻燈は、ルネサンス期のドイツ人幻想科学者アタナシウス・キルヒャーが発明したもので、フィルムに写した像などを1枚ずつ強い光で照らし、前方に置いた凸レンズで拡大し、映写幕へ映して見せる機械。現在で言うところのスライドの原型のようなものです。