スタジオジブリが日本テレビの子会社になる件 前編 子会社化の理由
2023年9月21日、スタジオジブリ及び日本テレビが、公式サイトにて日本テレビ放送網株式会社による株式会社スタジオジブリの株式取得に関する発表を行いました。
【参照】日本テレビによるスタジオジブリの株式取得に関するお知らせ
日本テレビ放送網が、スタジオジブリの株式42.3%を取得し、10月6日付けで子会社化するとの発表です。
通常であれば、50%以上の株式を取得しないと子会社化にならないような気もしますが、社長を含めた役員を派遣して経営支援の契約を結ぶことで実質的支配基準を満たしているため、子会社化の要件が成立しているとのことです。
子会社化後、現・代表取締役社長の鈴木敏夫は代表取締役議長に、現・取締役の宮崎駿(宮﨑駿)は取締役名誉会長となり、日本テレビの福田博之専務※1がスタジオジブリの社長に就任するそうです。
宮崎吾朗は常務取締役を留任。その他、取締役や監査役などに日本テレビの役員や幹部たちが就任することになっています。
今回の子会社化の動きは、映画制作に集中するために、経営を手伝って欲しいと鈴木敏夫から日本テレビの杉山美邦会長※2に申し入れたことがきっかけだったとのことですが、これはスタジオジブリに経営的な問題があってのことではないようです。
先のコラムで取り上げた通り、ジブリが経済的な問題を抱えているとは考えられず、今回の『君たちはどう生きるか』の興行収益においても、ジブリを危機に陥らせる程には低くはありません。
そもそも今回の件は、タイミング的に、『君たちはどう生きるか』の上映前から根回しが始まっているものとも思われます。
宮崎駿は82歳、鈴木敏夫は75歳ですから、当然のことながら2人がジブリを退いた後のことを考えなければいけないはずですが、先のコラムで取り上げた通り、クリエイターブランドとしての宮崎駿を継げる人材は現れなかった、あるいは育成することができませんでした。
宮崎駿のことだから、引退してアニメ制作から離れるなんてことは考えないでしょう。これまでも引退宣言と復帰を繰り返してきた前例もあり、命のある限りアニメ制作に関わり続けようとされると思われます。
しかし、企画、脚本、絵コンテから自ら作画も手掛け、全てのカットに自ら手を入れる形で長編アニメを制作するような、これまでのスタイルでの制作はさすがに厳しいでしょう。
鈴木敏夫によれば、最新作『君たちはどう生きるか』では、作画を本田雄に一任していたそうで、これも年齢的・体力的なものが影響していると考えられます。
したがって、今後は監督してではなく、企画や脚本だけであったり、短編作品であったりといった形での活動になるのではと推測されます。
スタジオジブリは、そもそも鈴木敏夫が、宮崎駿と高畑勲に映画を作らせるため、この2人に好き勝手やるために作った会社ですから、長年にわたってその目的は遂げられたわけで、宮崎駿がこれまでのような長編アニメを制作しない以上、鈴木敏夫と宮崎駿にとってのスタジオジブリの役目は終わったとも見て取れます。
でも、スタジオジブリはすでに大きな会社になってしまっていて、そこに関わる人も多く、鈴木敏夫と宮崎駿の一存だけで解散させたりもできませんし、会社はなくなっても版権の管理などは残りますから、完全になくすことも難しいはずです。
であれば、会社自体は誰かに引き継いでもらい、小規模な形でのアニメ制作に関わるという活動の縮小に合わせた対応としては妥当とも言えます。
今後、宮崎駿や鈴木敏夫らがいなくなった先に、ジブリが経営困難になって海外企業に買収されてしまう可能性もゼロではなく、ジブリ作品の実写映画化とか、ゲームになったり、ジブリキャラがディズニー映画やピクサー映画に登場させられるような無茶をされることも考えられなくはありません。
日本の企業であり、スタジオ開設以来の付き合いもある日本テレビであれば、そんな無茶をする可能性も低いだろうという見込みがあったのかもしれません。
次回に続く
※1 福田博之氏は、日本テレビ放送網の取締役専務執行役員及び日本テレビホールディングスの上席執行役員を兼務
※2 杉山美邦氏は、日本テレビ放送網代表取締役会長執行役員