スタジオジブリが日本テレビの子会社になる件 後編 今後のジブリ

前回は、スタジオジブリが日本テレビの子会社になる件について、その理由に着目しましたが、今回は今後のジブリについて考えてみたいと思います。

今後のジブリは、リスクの高い長編アニメ作品の制作をせず、これまでの作品のIP資産を運用していくことで経営はむしろ安定するでしょう。
ある程度の年数はそれでもやっていけるでしょうが、さすがに新作が全く生まれない状況が続けば、その資産価値も目減りしていく可能性がありますから、何かしら新しいものを生み出していく必要が出てくるでしょう。
そこで考えられるのは、やはり新人育成で、ジブリイズム、宮崎イズムを引き継いだ作品という態で、日本テレビの監督下で適正な制作費内に抑えられた新人監督による作品が作られていく未来です。
ジブリ映画祭やジブリ賞のようなアマチュア対象のアニメコンテストを運営して在野の才能発掘に手を出し、そこで見出された才能を育てていくという流れになることも考えられるでしょう。
映画だけではなく、映画よりは低コストで制作が可能なテレビアニメを手掛けることもあるかもしれません。

その流れで言えば、スタジオジブリにとって、宮崎駿の喪失よりも、経営の第一線から外れる鈴木敏夫の喪失の方が大きいかもしれません。
宮崎駿を引き継ぐアニメ監督がいないというのはよく言われることですが、監督というものは、内部で育てる以外に、外部から招くこともできます。
実際にできるかどうかではなく、選択肢という意味で、『猫の恩返し』の森田宏幸や『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌、あるいは、百瀬義行、安藤雅司、宮地昌幸、高坂希太郎、高橋敦史、新井陽次郎といったジブリに関係のある監督を呼び戻したり、ジブリとは無関係な監督を招くこともできるはずです。
しかし、ジブリブランドを日本に定着させた鈴木敏夫程の有能なプロデュース能力の代替は難しいでしょう。
各社でプロデューサー不足の問題を抱えているような現在のアニメ業界においては、外部からプロデューサーを招くのは監督を招く以上に困難ではないかと思われます。

これまで鈴木敏夫がワンマンぶりを発揮してジブリを牽引してきたわけで、プロデューサー業を誰かと分担したり、後継プロデューサーを育成しているような様子も見られません。
アニメのプロデュースというのは特殊性が高く、資生堂やサントリーなどのように異業種の経営者やプロ経営者を起用して上手くいくとも考え難いところがありますから、今後、鈴木敏夫の担っていた役割を、常務取締役の宮崎吾朗が担うのか、日本テレビの誰かが担っていくものか、なかなかに課題は大きそうです。

また、今回のスタジオジブリの子会社化を日本テレビ側で見てみると、日本テレビは傘下に動画配信サービス「Hulu」の運営会社(HJホールディングス株式会社)を持っており、SNSなどでは、今回の子会社化によってジブリ作品の配信を期待する声も見られました。
株式所得金額についっては開示されていませんが、200億円とも言われており、日本テレビにとっても決して安い買い物ではないはずですから、長期的には「Hulu」での配信というのも計画にはあるのかもしれませんが、多くのジブリ作品は製作委員会方式で制作されたものが多く権利関係が複雑なため、子会社化したというだけでは、容易に配信を実現できるものではなく、製作委員会を構成する各会社への交渉などで時間がかかるものと思われます。

日本テレビは『名探偵コナン』と『それいけ!アンパンマン』という国民的アニメの2作品を放送していますが、『名探偵コナン』は日本テレビではなく読売テレビの製作作品ですし、『それいけ!アンパンマン』は児童向け作品であるため、テレビ朝日の『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』や、フジテレビの『ONE PIECE』『ちびまる子ちゃん』、テレビ東京の『ポケットモンスター』のように幅広い世代に訴求できるアニメコンテンツを持っていません。
そこで今後はまず、IP活用ということで、広告効果抜群のジブリキャラをテレビ局の顔として様々な場面で活用していくことが考えられ、公式ショップである「日テレ屋」でもジブリグッズを取り扱うといった展開もあるかもしれません。

実は、日本テレビは、これまでにも、タツノコプロやマッドハウスといったアニメ制作会社を子会社にしており、IGポートにおいては電通と並んで法人株主の筆頭になっていたり、細田守監督のスタジオ地図にも出資していますが、IP事業での利益やグループ内における波及効果の面で、これらのIPコンテンツ資産を充分に活用しきれていないという課題があります。
この課題をジブリという起爆剤で解決に導こうという意図があるのではとも推測されますが、具体的な動きについては今後を要注目というところでしょうか。

いずれにしても、今回のスタジオジブリが日本テレビの子会社になるというニュースは、意外性のあるものでもなく、ジブリ自体が劇的に変革する話にもならないため、外部には見え難い形で緩やかに変化していく類のものではないかと筆者は見ています。
手塚治虫ブランドやタツノコブランドのように、継続性を失うと世代が下るにつれて認知度を保つのが難しくなっていくはずなので、今後のジブリがいかにそのブランド力を保ち続けるか、新たな経営陣の判断に注目をしていきたいと思います。


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