富野由悠季監督作品のハッピーエンド戦績を調べてみた件

先日、8月15日の「終戦の日」を前にテレビ朝日の報道番組「サンデーステーション」で放送されていた富野由悠季監督の対談で、「絶望論は絶対に子供たちに言ってはいけない」と富野監督が語っていてとても印象的でした。

富野由悠季監督作品では、悪を倒したことで平和が戻り大団円を迎えるような単純なハッピーエンドとなる作品がほぼありません。
酷い時には全員死亡エンドなどもあったりして、子供ながらに良い意味でも悪い意味でも記憶に残る終わり方をする作品が多いように思われます。
そこで、今回は、富野由悠季監督作品における終わり方がハッピーかどうかの判定をして、その戦績を見てみたいと思います。

<主な富野由悠季監督作品におけるハッピーエンド戦績>
1972年『海のトリトン』→ポセイドン族を絶滅させるも、トリトン族の方が加害者であることが発覚
1975年『勇者ライディーン』→母の命を賭した尽力でパラオとの対決に勝利
1975年『ラ・セーヌの星』→姉マリーアントワネットは斬首され、姉の遺児と共に去る
1977年『無敵超人ザンボット3』→勝平と戦いに不参加の女子供以外の神ファミリーが全員死亡
1978年『無敵鋼人ダイターン3』→ドン・ザウサーを倒してメガノイドの野望を阻止
1979年『機動戦士ガンダム』→主人公が所属する連邦軍が戦争に勝利
1980年『伝説巨神イデオン』→全員死亡エンド
1982年『戦闘メカ ザブングル』→シビリアンがイノセントを打ち倒して大団円
1983年『聖戦士ダンバイン』→チャム・ファウ以外全員死亡
1984年『重戦機エルガイム』→反乱軍が勝利するも、主人公は精神崩壊した義妹と共に旅立つ
1985年『機動戦士Zガンダム』→戦争に勝利するも主人公は記憶喪失・心神喪失
1986年『機動戦士ガンダムZZ』→連邦軍がネオジオンに勝利
1988年『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』→アクシズ落下は食い止めるもアムロは生死不明
1991年『機動戦士ガンダムF91』→鉄仮面を倒して人類抹殺計画を阻止
1993年『機動戦士Vガンダム』→ザンスカール帝国を打倒し平和が戻る
1996年『バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼』→緒戦で勝利
1998年『ブレンパワード』→オルファンに訴えが届き、共生に成功
1999年『∀ガンダム』→戦いが終結し、月の民と地球に和平が結ばれる
2002年『OVERMANキングゲイナー』→道半ばながら希望エンド
2005年『リーンの翼』→戦いには勝つも、ヒロインとは別れ別れに
2014年『ガンダム Gのレコンギスタ』→最終決戦が終結し、ベルリは世界一周の旅に出る
バッドエンドかどうかは受け取り方によって異なるので、主人公たちが最後ハッピーな状態で終われたかどうかという基準で判断したところ、取り上げた21作品のうちの戦績は以下の通りです。

ハッピーエンド:12作品
非ハッピーエンド:8作品
微妙なエンド:1作品

伝説巨神イデオン』や『聖戦士ダンバイン』の全員死亡エンドのイメージが強過ぎるせいか、勝手なイメージでハッピーエンドが少ないものと思っていましたが、明確にハッピーではない終わり方をしたのは『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が最後で、以降はハッピーエンドばかりと言う結果。
先入観というのは怖いもので、富野由悠季監督作品のほとんどは、ほろ苦く心に楔を打ち込むかのような重いラストなのではないかという思い込みが見事に打ち砕かれました。
昭和期の作品では多くが非ハピーエンド作品ながら、近年の作品ではほとんどがハッピーエンドとなっています。
富野由悠季監督のことだから、善が悪を挫く単純なハッピーエンドというものではないものの、犠牲を払いつつも困難に打ち勝った主人公が幸せな結末を迎えるようなエンディングが描かれるケースが多いことに驚かされました。

昭和期には安易なハッピーエンドばかりを見せられていた子供たちに、鬱エンドを見せて強烈なインパクトを与えた富野由悠季監督が、その影響で正義が悪を挫く勧善懲悪エンドを見せるような作品が減ってしまった近年、逆に「絶望論は絶対に子供たちに言ってはいけない」とばかりにハッピーエンドを描いて見せていることはとても興味深い変化です。


神籬では、アニメやサブカル系の文化振興やアニメ業界の問題解決、アニメを活用した地域振興・企業サービスなど、様々な案件に協力しております。
ご興味のある方は、問い合わせフォームより是非ご連絡下さい。
アニメ業界・歴史・作品・声優等の情報提供、およびアニメに関するコラムも 様々な切り口、テーマにて執筆が可能です。こちらもお気軽にお問合せ下さい。


※ 最終回のラストで、主人公ダバ・マイロードは、戦いの末に精神崩壊してしまった義妹で婚約者のクワサン・オリビーと共に、仲間と別れて故郷の星への帰還の旅に出るところで物語が終わります。
ギャブレット・ギャブレーは、「あれは一生治らん。ダバめ…」とライバルだったダバの今後を思って無念な表情を浮かべます。
ダバに思いを寄せていたヒロインであるガウ・ハ・レッシィとファンネリア・アムは、ヤーマン族の末裔であるダバが人形になってしまったオリビーの面倒を見ながら一生を終えて血統が途絶えることで、アマンダラはヤーマン族への復讐を完成させたのだと語り、2人で涙を流します。