『君たちはどう生きるか』を観て来た件 前編 宣伝ゼロの異例のプロモーション

遅ればせながら、7月14日公開の『君たちはどう生きるか』を観ることができました。
鈴木敏夫プロデューサーによる異例の「広告ゼロ」の宣伝手法が話題となっており、敢えて事前情報なしで見て欲しいというスタイルで提供しているので、それに乗っかって、筆者も全く情報なしで観に行きました。

宣伝で勝手な色(先入観)をつけられて映画を観られるのは嫌だけど、客が入らない(観てもらえない)のは困るというのが、映画監督にとっての永遠のジレンマなはずです。
したがって、この「宣伝ゼロ」は、これまで散々宮崎駿が嫌がる宣伝を強いてきた鈴木敏夫が、最後に宮崎駿にあげたご褒美とも取れます。
タイトルにしても、これまでの鈴木敏夫だったら、『君たちはどう生きるか』なんてタイトルを許すはずがなく、「の」を入れるだとか、もっと子供たちが観に行きたくなるようなタイトルに変更させていたはずです。

通常であれば、出資会社がOKを出さないであろうから、「広告ゼロ」なんて手法を断行することは不可能ですが、『君たちはどう生きるか』はスタジオジブリの単独出資で製作された作品であるが故に行えたわけです。
もっとも鈴木敏夫のことだから、単なる温情的な行為ではなく、宮崎駿の最後の作品になるかもしれないスタジオジブリ映画であれば「広告ゼロ」でもファンは観に来るだろうし、さらにジブリパークの話題がメディア露出しているので、「広告ゼロ」でも注目度は充分という算段があってのことだろうと思われます。
いずれにしても、スタジオジブリと宮崎駿作品だから成立する話で、他では絶対できないものでしょう。

公開からすでに1か月を過ぎましたが、いまだに情報が制限されており、ここでも使用させていただいている提供画像がスタジオジブリの公式サイトで公開された程度で、恒例の日本テレビによる映画特集番組もなく、プロモーション動画すらありません。
それでも興行通信社によると、公開45日間で観客動員数494万6000人、興行収入74億1400万円を突破したとのことなので、さすがに100億円超えは厳しいかもしれませんが、ある程度は客が入っている様子ではあります。

相変わらず宮崎駿作品のお婆さんはかわいらしくて魅力的だなと感じつつ、「ワラワラ」みたいなキャラクターがいるなら、グッズにして販売したかったと商品開発の担当者は悔しがったであろうといったことも思いました。
「ワラワラ」のぬいぐるみや、老婆たちのお守りなどがあったら確実に売れるはずです。
そもそも事前情報なしで、パンフレットも後日販売(8月11日販売開始)な上、映画館でのグッズ販売も限定的(ポスター絵をプリントしたものだけ)なので、グッズなどの売上げも度外視なのでしょう。
今回この映画による利益の最大化は目指さない方針のようですが、先のコラムでも指摘した通り、ジブリには蓄えてきた利益剰余金がある上、ジブリパークでの稼ぎもあるから、グッズ販売などの機会損失があっても問題ないという余裕の表れなのかもしれません。

映画自体の内容はというと、前半は、これを児童たちに見せても楽しめるのかとちょっと不安になりましたが、中盤以降ファンタジー要素もたっぷりで、全体としてはジブリっぽさ全開で、個人的には楽しめた作品でした。
ざっくっり感想を述べたところで、この作品で1点気になったところがあります。
それが積み木の件です。

次回はこの点について取り上げたいと思います。


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