温泉むすめに鉄道むすめと、PR目的に活用される美少女キャラクターについて考えてみた件 後編

前回は地域や特定商品などのPRのために活用されている擬人化(美少女化)キャラクターについて取り上げてみましたが、こうしたPR用の美少女キャラクターはPR対象を擬人化したものだけではなく、地元のイメージからデザインされたようなものもあります。

<擬人化ではない美少女PRキャラクター>
北海道の育成バーチャルアイドルキャラクター「北乃カムイ
青森県田舎館村のPRキャラクター「いち姫
ずんだ餅をモチーフにした東北復興支援キャラクター「東北ずん子
宮城県仙台市発のバーチャルアイドル「大森杏子
宮城県塩竃市渚のアカモク販促キャラクター「妖精ぎばさちゃん
福島県白河市の白河観光物産協会公認キャラクター「小峰シロ
栃木県足利市のPRキャラクター「足利ひめたま
栃木県宇都宮市のご当地萌えキャラ「いちごのくにのイーたん
栃木県壬生町おもちゃのまちのPRキャラクター「壬生三姉妹
茨城県石岡市の公認マスコットキャラクター「いしおか恋瀬姫
環境省の「COOL CHOICE」キャンペーンMOE萌えキャラクター「君野イマ、君野ミライ
東京都葛飾区擬人化企画・非公認ヒロイン「葛飾これくしょん(かつこれ)
東京都八王子市にある了法寺の「とろ弁天
神奈川県藤沢市の非公認キャラクター「江ノ島さんぽちゃん
山梨県富士吉田の観光PRキャラクター「桜織ちゃん
静岡県静岡市の非公認ご当地キャラクター「葵桜玖耶
長野県諏訪市公認のご当地萌えキャラ「諏訪姫
富山県高岡市の観光大使を務めるPRマスコットキャラクター「あみたん娘
三重県志摩市の海女萌えキャラクター「碧志摩メグ
奈良県葛城市の酪農カフェ「酪」公式のご当地キャラクター「役小角奈
自衛隊岡山地方協力本部の自衛官募集広報キャラクター「自衛隊三人娘

過去の実例から、その傾向や特性を見てみると、必ずしも有名イラストレーターにデザインしてもらい、人気声優を起用したからといって成功するものではないため、予算の金額と効果は比例しないようです。
美少女キャラクターに限った話ではなく、広くご当地キャラや企業のPRキャラクターにも該当する話ですが、これらは、初動で大きな効果や反響がなくとも、継続して活用し、長い目で見て育てていこうという気概のある運営であれば、地元や業界に定着して、それなりの効果を生んでいく特性を持っています。
したがって、そもそも期間の定めがあるような短期的なPRキャラクターであったり、長く継続して育てていこうという覚悟のない運用では、なかなか成功するのが難しいようです。
地元住民に受け入れられて市民権を得たり、業界の方々に支持されて継続的に情報発信をし続けることがないと、どんなに予算を投じても、ファンの心を掴むことが出来ず、スルーされるか、悪くすると批判さえ浴びかねません。

さらに、美少女キャラクターに関する価値観の変化もあります。
かつては、美少女キャラクターをPR目的に活用することを総括して、世間やマスコミでは「萌えビジネス」とも「萌えおこし」とも呼ばれた時期もありました。
しかし、オタク男子たちから生まれたこの「萌え」という価値観はやや時代遅れで、現在では「カワイイ」という価値観が主流です。
「カワイイ」は老若男女に関わらず訴求できる上、反発が少ない特性があります。

「カワイイ」と「萌え」の違いは厳密に語ると長くなってしまうので、誤解を恐れずに説明すると、恋愛対象となるかどうかの側面があり、この点で理解するとわかりやすいかと思われます。
美少女も赤ちゃんもピカチュウもみんな「カワイイ」の範疇ですが、赤ちゃんやピカチュウは「萌え」の範疇に入らないという解釈です。
過去には、三重県志摩市で市公認(2014年公認)の海女萌えキャラクター「碧志摩(あおしま)メグ」の描写が性的で女性蔑視だとの反発を招いて、市が公認を撤回する騒ぎになったこともありました。

体のラインにぴったりとはり付いた衣装に、大きい胸やはだけた裾からのぞく太ももが強調されたデザインで、一部のイラストでは艶めかしいポーズなどがあったため、性的だと判断されたわけです。
SNSなどの反応を見ても、アニメやマンガを見慣れた人たちからすると、碧志摩メグのデザインはむしろ性的な印象は低いと感じるものでした。ところが、田舎町の大通りに露出度の高いダンサーたちが踊るサンバカーニバルが突然やってきたようなもので、その文化に慣れている人とそうでない人では捉え方や見え方は異なるわけですから、地元の一部の人たちが拒否反応を示したのは、むしろ当然だったと言えるかもしれません。

では、この碧志摩メグは、市から公認を外されてしまった後、どうなったかご存じでしょうか?
批判が過熱していた時には、地元とは無関係のフェミニスト団体が介入し、公認の撤回を求める署名運動を行ったりしていましたが、実は「海女を侮辱している」との批判も出ていた当事者である海女たちとの話し合いでは7割の賛同を得、地元新聞のアンケートなどでも問題なしが多数派となるなど、ネット上での過激な批判の声とは裏腹に、地元では支持する声の方が大きいという状況も見えてきていました。

その後、炎上騒動のおかげで知名度が上がったこともあって、市内外でもファンを獲得する結果となり、非公認であることから、市内外のイベントなどへも参加して人気のご当地キャラクターとなっていきました。
8年以上経つ現在も地元の志摩市ではPR活動に活用され、関連グッズも多数販売されている上、クラウドファウンディングでは、オリジナル酒類の販売やラッピングバスの運行、三重県のPR動画作成などのプロジェクトで総額2300万円もの寄付金を集めることに成功しています。
碧志摩メグ自体も、デザインはそのままながら、性的と受け取られるようなポーズは避け、胸や露出の表現などにも配慮をした形に変化しており、現在では批判の声はどこからも聞こえてきません。

碧志摩メグの騒動もあり、胸を大きく強調すると反発される傾向があることを学習した結果なのか、最近のPRキャラクターの多くは、はじめから性的に見られないように注意して作られています。
ディフォルメされたかわいい女の子キャラクターとしてデザインされることが多く、碧志摩メグのような事例も最近ではほとんど聞かれなくなりました。
碧志摩メグにしても、騒動が起きたからといってすぐに見放すことはせず、運営者たちが存続のために努力し、地元で継続的に活動・情報発信を行ったからこそ、現在の成功があると言えます。

美少女PRキャラクターというのは、作って試してみて、効果が薄いからやめるというものではありません。
それでは、子供を産んで思った程優秀ではないから育児放棄するのと一緒です。
生み出したからには、ちゃんと一人前になるまで育てる必要があるのです。
問題があれば修正すれば良いし、姿形や性質なども、より良い形に変化させていけば良いだけなのです。

前回と今回お話したことを総括してみると、美少女PRキャラクターは、「萌えビジネス」や「萌えおこし」という概念で理解するのは時代遅れで、「カワイイ」の価値観で理解するべきというのが1点。
もう1点は、美少女PRキャラクターは短期的な活用には適していないので、初動での反応や効果で判断せず、10年、20年という長い期間付き合っていく覚悟で導入し、継続的に活動と情報発信をし続けることが肝要で、時勢や世論によって変化させ、育てていくことで成功の可能性を上げることができるのではないかと思われます。


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