東洋経済「アニメ熱狂のカラクリ」号の記事について考えてみた件③ 日本アニメの本質的な魅力とは 前編

ネットでも話題の「アニメ熱狂のカラクリ」と題した「週刊東洋経済」5/27号では、エンタメ社会学者の中山淳雄氏が、『チェンソーマン』の独創性や、『リコリス・リコイル』のおじさん受けする発想などを上げ、日本的なアニメ作品は海外では真似できないと、日本アニメの魅力の一端に触れていました。

これは、なかなかビジネス誌のような真面目な紙面では語られないことで、「週刊東洋経済」でも、それ以上に踏み込んでは語られていません。
なぜ日本のアニメが、国内のファンは言うに及ばず、海外でこれ程までに受けているのか、日本のアニメの本質的な魅力について語られることは少ないのですが、これには理由があります。

理由の一つは、日本アニメが受けているのが、作画クオリティが高いからだという誤った解釈です。
報道をはじめ、いろんな雑誌の記事などで、日本アニメが海外にも人気があるといったことを取り上げる際、みんな一様に作画クオリティの高さを挙げて日本アニメを持ち上げるのですが、その結果、日本のアニメが海外に受ける理由が、作画クオリティだけにあると思い込まされてしまっている節があるのです。

アニメに精通していない人でも、作画クオリティというのは映像を見れば一目瞭然なので、確かにわかりやすく、作画クオリティが高いから海外受けするというストーリーもとても理解しやすいものです。
しかし、それは理由のほんの一端に過ぎません。
日本アニメの作画クオリティは高いのは確かですし、そういう作品が受けている事実もあります。
では、海外のアニメはそんなに作画クオリティが低いのでしょうか?

カートゥーンと呼ばれる海外の子供向けアニメと、京都アニメーションなどが製作するハイクオリティなアニメを比較して日本アニメの作画クオリティは高いと吹聴する作意的な番組なども見たことがありますが、それは『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』と京アニ作品を比べるようなものです。
ディズニーやピクサーのアニメと比較すれば、海外アニメが日本アニメの作画クオリティより劣ると言う人は少ないでしょう。
手描きにこだわっているとか、髪の毛の一本一本が細かく描かれているなどということを主張する人たちもいますが、それは3Dと2Dの表現の違いに過ぎない上、絵画ではないので、視聴者はそのようなところで作品を楽しんでいるわけではありません。

カートゥーン
京都アニメーションCM
ディズニー2013年作品「Wish」
The Evolution of Pixar (1995-2020)

最近は、声優などにも注目が集まり、その演技について注目する向きも見られるようになってきていますが、まだまだアニメの作画が日本アニメの最大の特徴だとする風潮が強いように感じます。

アニメは、作画、脚本、演出、音楽、声優の演技など、様々な要素で成り立つ総合作品です。
マンガを絵が上手いだけで評価する人はあまりいないでしょう。
マンガは絵画やイラストとは違うので、絵が上手くでも内容が面白くなければ支持されませんし、ストーリーやキャラクターの魅力などを含め、いろんな要素が重なり合って、一つの作品の魅力となっているのは、誰もが知っているはずです。
アニメも同じで、作画クオリティだけで支持されるということはないはずですし、前述の通り、作風の好みは別にしても、クオリティに関して言えば、海外と日本のアニメが各段の差があるとは言い難く、理屈が合わない気がします。

では、どこが日本アニメの魅力なのか。
それは第1には発想力と多様性、次点でデザイン性、キャラクターの魅力、重厚なストーリーだと思われます。

アニメに限らず、マンガも含めてのことですが、女子高生が学校の部活で戦車戦をするとか、イエスと仏陀が立川の安アパートで同居するとか、歴史上の英傑を召喚してバトルさせるとか、ゾンビがアイドルになるとか、人間が滅んだ遥かな未来に宝石が人型の生物になった世界の話など、突飛な発想力から生み出される設定の妙。

日本アニメのお家芸とでも言うべきロボットアニメをはじめ、SF、スポーツ、格闘バトル、頭脳バトル、ファンタジー、恋愛、ラブコメ、ギャグ、コメディ、日常系、萌え、アイドル、BL、サスペンス、ホラー、ミリタリー、歴史、お仕事系といったジャンルの多様性。

キャラクターにしても、主人公はアメコミなどに見られるマッチョな男性やグラマラスな美女、ディズニーで描かれるようなお姫様ばかりではなく、幼稚園児だったり、老人だったり、時には性別や年齢が変わったり、神や悪魔、死人や幽霊にゾンビ、スライム、ロボット、剣など、人外はおろか、死体や生物ですらないものまで、もはや何でもありです。

実社会においては性的マイノリティへの理解が遅れていると言われる日本ですが、アニメやマンガの世界では、女装男子や男装女子は当たり前、百合やBLといった同性同士のカップルなどを含め、いろんな性的嗜好も普通に描かれていて、その奔放さや自由度には半ばあきれてしまう程です。

ヒーローとヴィランが区分けされる勧善懲悪な世界観ではなかったり、主人公が世界を救うような使命や目的もなく、ただ日常を過ごすだけの作品だったり、女の子だってパンチやキックで格闘バトルをするし、女の子たちに守られる男の子が主人公だったり、固定概念や既存の価値観をぶち壊すような多様性の幅広さは、日本アニメの真骨頂と言えるでしょう。
海外では日本アニメの特徴として注目されている、美少女たちがわちゃわちゃする姿を愛でるだけの「萌え」とか「カワイイ」という価値観も日本特有の文化です。


次回に続く。

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