「アニメ聖地3.0」の事例についてまとめてみた件
神籬では、聖地巡礼をするファン行動(1.0)から、聖地巡礼を意識して作品が制作するようになり(2.0)、さらには舞台地や縁のある地、そうでない場所にも作品の世界観を再現した場所や、デザインマンホールやモニュメントを設置するなど、ファンの訪問スポットとしての聖地を作り出す動きを「アニメ聖地3.0」と定義づけ、提唱しています。
宗教的な聖地巡礼と区別するため、冠に「アニメ」と銘打っていますが、アニメにこだわらず、マンガ、ゲーム、ライトノベル、SFやファンタジー作品の小説や映画、特撮ヒーロー番組などを含め、いわゆるサブカルジャンルの作品をも広く対象に含めた定義です。
今回は、この「アニメ聖地3.0」がどのようなものを指すのか、実例を紹介してみたいと思います。
先のコラムで触れた練馬の「照姫まつり」しかり、江戸時代の好事家が作った『源氏物語』巡りの名蹟といった実例がありますが、何と言っても「アニメ聖地3.0」の代表格はディズニーランドでしょう。
ディズニーランドは、1955年に初めてアメリカのカリフォルニア州にオープンしたテーマパークです。
当初は必ずしもアニメのテーマパークというわけではなかったのですが※1、次々に公開されるディズニーアニメを取り入れていった結果、現在ではディズニーアニメをメインテーマにした遊園地となっています。
東京ディズニーランドは1985年にオープンしてからすでに40年もの歴史があり、日本で最も有名な遊園地となっているので、もはやディズニーランド自体の説明は不要でしょう。
1983年に建てられた日本初のアニメ銅像である飯能市のアトム銅像※2は、日本における「アニメ聖地3.0」の走りと言えるでしょう。
銅像については、福井県敦賀市の松本零士作品の銅像(1999年設置)、新潟県新潟市の水島新司作品のキャラクター銅像(2002年設置)、東京都葛飾区の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の銅像(2006~2016年設置)、『キャプテン翼』の銅像(2013~2014年設置)などもあります。
銅像だけではなく、宮城県石巻市の石ノ森章太郎作品のモニュメント(2001~2021年設置)、東京お台場の実物大ガンダム立像(2009年設置・現存せず)、兵庫県神戸市の鉄人28号モニュメント(2009年設置)、福島県須賀川市のウルトラマンや怪獣のモニュメント(2015~2017年設置)なども「アニメ聖地3.0」に該当します。
イギリスのロンドンには、アーサー・コナン・ドイルの小説『シャーロック・ホームズ』シリーズで、主人公のホームズが住んでいたベイカー街にシャーロック・ホームズ博物館という「アニメ聖地3.0」の実例があります。
作中では、ホームズが住んでいる下宿の住所が「ベイカー街221B」となっていましたが、当時のベイカー街の住所番号は85までしかなく、「ベイカー街221B」は実在しない住所でした(その後、街の合併によってベイカー街に221の住所番号が誕生し、現在では215–229を占める場所に高級賃貸マンションが建っています)。
1990年に「ベイカー街221B」があった区画の近くのビル(ベイカー街239)を実業家が買収してオープンさせ、「ベイカー街221B」の住所プレートを掲げたのが、現在のシャーロック・ホームズ博物館です。
以前のコラムで取り上げた、海外にいくつも作られている『頭文字D』の藤原豆腐店も「アニメ聖地3.0」と言えるでしょう。
作者の出身地に作られた鳥取県の水木しげるロード(1993年オープン)やコナン通り、氷見市の藤子不二雄Ⓐまんがワールドなども「アニメ聖地3.0」の好例です。
このように古今東西で存在する「アニメ聖地3.0」ですが、近年の日本では、ブームと言えるくらいにその動きが加速しているようです。
ニジゲンノモリ(2017年7月オープン)
・ナイトウォーク火の鳥
・クレヨンしんちゃんアドベンチャーパーク
・NARUTO&BORUTO 忍里(2019年4月開設)
・ゴジラ迎撃作戦 〜国立ゴジラ淡路島研究センター〜(2020年10月開設)
・ドラゴンクエスト アイランド 大魔王ゾーマとはじまりの島(2021年4月開設)
実物大ユニコーンガンダム立像(2017年9月設置)
『ONE PIECE』の銅像 全10体(2018年11月~2022年7月設置)
ムーミンバレーパーク(2019年3月オープン)
トキワ荘マンガミュージアム(2020年7月オープン)
『進撃の巨人』の銅像 全2か所(2020年11月~2021年3月設置)
『ブラック・ジャック』の銅像(2021年3月設置)
USJ スーパー・ニンテンドー・ワールド(2021年3月オープン)
実物大νガンダム立像(2022年4月設置)
AWAJI HELLO KITTY APPLE LAND(2022年4月オープン)
ジブリパーク(2022年11月オープン)
埼玉県所沢市の角川作品の光るデザインマンホール(2020年8月設置)、佐賀県の『ゾンビランドサガ』のデザインマンホール(2021年4月~2022年11月設置)、『機動警察パトレイバー』のデザインマンホール(2023年4月設置)、全国300ヵ所近くに設置されている『ポケットモンスター』のデザインマンホール「ポケふた」(2018年から設置)など、デザインマンホールも全国に続々と増えています。
これらは必ずしも作品の舞台地というわけではなく、作者や作品にゆかりのある地であったり、もしくは全く関連はないものの、ファンの巡礼対象として聖地になることを期待して作られたスポットです。
近年、実在の場所をモデルにした作品が大量に作られた結果、『鬼滅の刃』や新海誠作品クラスの人気作品でもないと、単に作品の舞台地になったというだけでは話題性に欠けるようになってきています。
舞台地であるかどうかよりも、写真映えがしたり見応えのあるスポットであるかの方が重要視される傾向もあって、作品世界を再現した空間や、見栄えのするモニュメントが作られるというのが、現在の聖地巡礼のトレンドと言えるのではないでしょうか。
神籬では、これら全国に点在し、現在も増殖中のスポットの座標位置をデータベース化し、観光産業や地域活性化、学術関係者の研究などに活用してもらうべく提供しています。
ご興味にある方は、是非問い合わせフォームからご連絡下さい。
※1 1955年にオープンした当初のディズニーランドのアトラクションは、鉄道、蒸気船、映画館、ジャングルクルーズ、宇宙開発技術や自動車技術などを中心に扱ったトゥモローランド、『アーサー王物語』をテーマにしたメリーゴーランド、『ふしぎの国のアリス』をテーマにしたティーカップアトラクション、『イカボードとトード氏』『ピーターパン』『白雪姫』の世界観を再現したアトラクション、おとぎの国のカナルボート(アニメ世界を再現したミニチュア世界を巡るボート)、『眠れる森の美女』の城といった具合で、ディズニー作品のテーマパークというよりは、おとぎの国や冒険物語、SFなどの世界観をテーマにした遊園地でした。
※2 元虫プロ社員で飯能市にある実家の種苗店を継いでいた野口勲氏が、青年会議所の副理事長をしていた当時、飯能市青年会議所10周年記念事業の一環で提案した企画が発端で、市内で開催された「まんがフェスティバル」のチャリティーオークションで捻出した制作費300万円をかけて製作・設置されたものです。