ついにオープンしたアニメイト本店やバンナム新施設を見て来た件⑦ 池袋のアニメ都市構想について 後編

前回に引き続き、池袋及び豊島区の「アニメの街」施策について解説していきたいと思います。

先にコラムで取り上げたトキワ荘マンガミュージアムを中心とした東長崎のトキワ荘通りエリアをはじめ、豊島区がなぜこれ程までにアニメやマンガなどのサブカルに傾倒したかと言えば、やはり今年2月に新型コロナウィルス感染による療養中に亡くなった高野之夫区長(85歳)の功績が大きかったと思われます※1

高野区長は、西池袋生まれで大学卒業後に家業であった古書店を継ぎ、3店舗まで店を増やしました。その後、商店会の青年部、自民党青年部を経て豊島区議会議員となり、次いで東京都議会議員となるも、これを辞職して無所属で豊島区長選挙に立候補して当選。1999年から6期24年の長期にわたって区長を務めました。

現在の豊島区からは想像もつきませんが、高野区長が就任した当時は、872億円の借金を抱え、区の基金(財産)はわずか36億円という財政破綻寸前だったそうです。
借金財政は10数年にわたる財政再建施策で脱却することができたものの、日本創成会議※2から23区内で唯一「消滅可能性都市※3」との指摘を受けてしまったことで逆に発奮。
豊島区を「持続発展都市」にすべく、母子対策、地方共生、高齢化対応などの施策に取り組んでいきますが、それは単に汚名を返上するに留まらず、豊島区ならではの特色を活かして、東京都、さらには日本すらも牽引できる都市にしたいとの高い目標を掲げた活動でした※4

その手段として、区長就任時から掲げて来た「文化によるまちづくり」をさらに推進し、文化によって人の心を豊かにし、同時に賑わいを生み出す「国際アート・カルチャー都市」を宣言。
財政再建のために人員削減する一方で、区長就任当時はたったの2名しかいなかった文化担当職員を毎年増やしていき、20年で100人にまで増員、現在ではマンガ・アニメ担当課長までいるとのことです。
財政が厳しい状況下では、通常であれば文化施策などは真っ先に削減対象となるところですが、逆に文化担当者を増員するというのは、慧眼と言うべきか、何ともすごいお話です。
職員内からも反発があったであろうとも思われますが、きっと部下たちを納得させるだけの手腕があったのでしょう。

24年前とは言え、文化担当職員が2名しかいなかったことにも驚きますが、他区でも似たようなものだとすると、文化面での活動が大規模に行なえていないような自治体などは、もしかしたら単純に人員が少なく、マンパワーが足りていないというところに要因があるのかもしれません。

高野区長がアニメに注目したのは、やはりアニメイト池袋本店の存在が大きかったようです。
インタビューによると、アニメイトは全都道府県にあるのに、多くのアニメファンがわざわざ地方から池袋本店を訪れ、本店の前で記念撮影をする者さえいることから、アニメイトの本店に来たということ自体が価値を持つのだと知ったとのことで、これは現在で言うところの聖地巡礼的な価値観と言えるでしょう。
それが、後のトキワ荘の復元計画に繋がるのも頷ける話で、元々古書店を経営していたことからマンガへの造詣も深く、トキワ荘のことも区長になる前から知っていたそうで、区長就任時にトキワ荘がすでに解体されていることを知って返す返すも残念に思っていたとのことです。

アニメイトをきっかけにアニメに注目し、アニメの原点はマンガにあり、マンガ文化の原点にはトキワ荘がある、との認識があって、そのトキワ荘が豊島区にあったのだから、その存在が完全に忘れ去られてしまう前に、是非とも復元して後の世に継承していかなくてはとの思いに至ったというのです。

高野区長が推進する「文化によるまちづくり」は、アニメやマンガだけではなく、アートや音楽、演劇など幅広いジャンルが含まれていますが、何と言ってもアニメやマンガに関する世間の注目度は高く、メディアの取り上げ方も他に比べて各段に大きくなります。
2014年から豊島区の全面バックアップのもと毎年開催されている「池袋ハロウィンコスプレフェス」や、2017年以降池袋で開催されている「東京アニメアワードフェスティバル」の支援、2019年に制作・公開された「池袋PRアニメ」、2020年には高野区長の尽力で実現したトキワ荘の復元(トキワ荘マンガミュージアムのオープン)などもメディアでは大きく取り上げられていました。

驚くべきはその手数の多さとスピード感ですが、その点も高野区長の手腕に寄るところが大きいのでしょう。
他の自治体では、ここまで前例のない施策ばかりを次々に実行に移す勇気や実行力を持ち合わせたリーダーがいるとは限らず、たとえ実施できたとしても、もっと多くの時間を要してしまうかもしれません。
この偉大なリーダーを失った豊島区が、その意志を引き継ぎ、新しいリーダーの元でも、「アニメの街」としての発展のスピードを緩めず進めてくれるよう願うばかりです。


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※1 高野区長の職務は現副区長が代理で務め、後任の区長は2023年4月23日の豊島区長選で選出されることになっています。高野区長は生前に次期区長選への不出馬を表明していたため、いずれにしても4月26日には任期満了となっていました。

※2 日本創成会議は、政治家や官僚、大企業役員、大学教授などから構成される民間の政策発信組織で、人口問題やエネルギー問題、地方活性化、グローバル都市などについて政策提言を行っていました。2016年に活動休止。

※3 消滅可能性都市とは、人口の減少や少子化によって存続できなくなり、最終的には消滅してしまう可能性のある市区町村のことです。日本創成会議による厳密な定義では、「2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市区町村」となっており、これにより人口が維持できなくなるというわけです。

※4 本文では取り上げませんでしたが、高野区長の指示のもと、アニメ・マンガなどのサブカル関連の施策の他にも
・区民負担ゼロでの区役所建て替え(小学校跡地の区所有地に建設し、再開発事業名目で国から補助金を得、高層階を住宅フロアにして販売、さらに旧区役所跡地を民間に貸与することで建設費を捻出した日本初のマンション一体型庁舎)
・旧庁舎の跡地には官民連携の施設計画のもとで8つの劇場を有し、区民センターも内包する文化芸術の発信拠点「Hareza池袋」を建設(開発事業者は東京建物とサンケイビル)
・「Hareza池袋」の劇場の一つである東京建物Brillia HALLのこけら落とし公演に宝塚歌劇団を招聘
・治安の悪いイメージを払拭すべく夜間のパトロールを実施
・増設続きだった児童館と高齢者向け施設を集約・再編し、誰もが利用できる「区民ひろば」の設置へと方針転換
・南池袋公園・池袋西口公園・中池袋公園のリニューアルとイケ・サンパークの開園で4公園を核としたまちづくり
・4公園や駅周辺の観光スポットを巡る低速バス「IKEBUS(イケバス)」の運行
・ソメイヨシノが区内発祥であることから区のシンボルマークを桜に変更し、区内に桜の苗木を植樹
・学校や公園に毎年1万本を植樹する「グリーンとしま再生プロジェクト」を実施
・池袋の街でトイレに困らないようにすべく、「公衆便所」から「パブリックトイレ」へと題して区内全133カ所の公園トイレを全面改修し、コンビニに協力を依頼して区内約200店舗でトイレを使用できるようにする「オープントイレプロジェクト」を実施
などの他、「選択的介護モデル」や、全国初の「フレイル対策センター」の開設、高齢者の「服薬情報提供事業」の導入、姉妹都市である埼玉県秩父市と連携した「二地域居住」といった高齢化対策の数々、さらには、「子育てナビゲーター」の配置、かつて赤塚不二夫が暮らしていた紫雲荘に漫画家志望の入居者を募集して生活を支援したり、性的マイノリティの事実上の婚姻を認める「パートナーシップ宣言制度」の導入など、数え上げればキリがない程の豊島区発の独自施策を打ち出しています。