「アニメ聖地3.0」についてさらに詳しく
今回は、前回提唱したアニメ聖地の発展を表す名称「アニメ聖地3.0」について、詳しく解説していきたいと思います。
まず土台として、聖地巡礼を意識した作品が作られるようになったアニメ聖地2.0の拡大で、聖地アニメ(実在の場所や建物を舞台にした作品)が非常に増えたことがあります。
昭和期の作品では、実在の場所を舞台にすることは、許可の問題など、いろんな事情を考慮する必要があるため、コンプライアンス的に避ける傾向がありました。ところが、2000年代以降、聖地巡礼文化が世間に認められたことで、アニメファンや自治体なども含め、社会通念的に肯定的に受け止められるようになったため、多くの作品で、実在の場所をモデルに背景美術が作画されるケースが増えました。
時を同じくして、ロボットアニメをはじめ、宇宙や架空世界を舞台にしたようなアニメから、学園モノや日常系へとアニメの流行が移ったことで、実在の場所を舞台にする必然性が増えたことも要因の一つと言えます。
さらには、より高い作画クオリティが求められる、いわゆるクオリティバブル時代に突入したことで、精密な人物描写に釣り合う背景美術が求められ、そのために、実在する場所をモデルにする必要があったことも挙げられます。
イメージに合致し、且つリアルでクオリティの高い背景美術を制作するのには、時間と労力がかかる上、作品数の増加で制作期間の短縮が求められていましたから、インターネットなどでイメージに合う実在の場所を探し出し、写真画像などから背景画を起こす方が、効率的でもあったわけです。
こうして聖地アニメの作品数が増え、一時期などは放送中のアニメの半数以上が聖地アニメというシーズンもあった程で、そうなると、作品に実在の場所が登場すること自体が珍しくも貴重でもなくなるのは必然的なのことで、余程の人気作品でもないと、聖地(舞台地)があまり大きな話題とならなくなってしまいました。
もう一点、ほとんどのアニメ制作においては、ストーリーや演出を目的に舞台場所を決めており、聖地巡礼をビジネスにつなげる目的で設計された舞台場所の選択をしていません。
そのため、聖地になる場所が必ずしも観光地とは限らず、住宅地であったり、公園や橋、交通の便が悪い郊外や山麓だったりして、観光事業など企業側がうまく活用できないケースが往々にしてありました。
「アニメツーリズム」という名称で、多くの自治体や観光事業者が聖地巡礼に注目しましたが、大きく成功したケースは少なく、期待したほどの効果を得られなかったケースも目立ちました。
ビジネスや地域活性化に結び付け難いという特性はあるものの、聖地巡礼をしたいというファンの需要は大きいというマッチングの悪さが認識されたのも大きかったでしょう。
そんな中、いち早くこの状況を看破した人たちは、新たな動きに乗り出します。
それが、舞台地になった作品が人気となってファンたちが聖地巡礼で訪れるのを待つのではなく、聖地を生み出して、作品のファンをそこに集客しようという動きです。
これには先行者がいて、まずはディズニーランドです。
ウォルト・ディズニーが作り出した夢の国は、まさに作品の世界観を堪能できる聖地そのものです。
日本では、なかなかディズニーレベルのコンテンツが生まれず、長らくこのようなアニメ作品のテーマパークやミュージアムが定着しませんでしたが(マンガ家の記念館や期間限定のイベント的なテーマパーク開催はありましたが※)、鳥取県の水木しげるロードやコナン通り、ユニバーサルスタジオジャパンの日本コンテンツを使ったアトラクションのような成功事例によって確証を得たとばかりに、次々にこうした日本コンテンツを使った常設のテーマパークやミュージアム、ストリートが誕生していきました。
ニジゲンノモリ(2017年7月15日オープン)
・ナイトウォーク火の鳥
・クレヨンしんちゃんアドベンチャーパーク
・NARUTO&BORUTO 忍里(2019年4月20日開設)
・ゴジラ迎撃作戦 〜国立ゴジラ淡路島研究センター〜(2020年10月10日開設)
・ドラゴンクエスト アイランド 大魔王ゾーマとはじまりの島(2021年4月29日開設)
ムーミンバレーパーク(2019年3月16日オープン)
USJ スーパー・ニンテンドー・ワールド(2021年3月18日オープン)
AWAJI HELLO KITTY APPLE LAND(2022年4月29日オープン)
ジブリパーク(2022年11月1日オープン)
これらのような大規模なテーマパークだけではなく、観光案内所が聖地化するケースも見られます。
『ラブライブ!サンシャイン』の舞台となった静岡県沼津市の三の浦総合案内所や『花咲くいろは』の舞台となった石川県金沢市の湯涌温泉観光協会などのように、作品のグッズや展示物で埋め尽くされ、多くのファンが訪れる作品の聖地となっている観光案内所が近年増えてきています。
これらの例のように、作品が実在の場所を舞台にしているかどうかや、舞台地となった場所が観光に向くかどうかなどは関係がなく、作品の人気が高く、聖地巡礼をしたい(作品に関連した場所を訪れたい)という需要があれば、迎え入れる側がもてなす場所を作り出し、ファンを歓迎することで聖地巡礼というファン行動を生み出すことが可能となっています。
聖地巡礼の流行り出した初期には、企業や自治体が仕掛ける聖地巡礼ビジネスを、自分たちが生み出した聖地巡礼文化を金儲けにしようとしていると批判する声も聞かれましたが、それはすでに過去の話で、現在では、企業側が提供する聖地へむしろ喜んで赴き、提供される質の高い聖地スポットを堪能するのが当たり前になっています。
この現在の聖地巡礼文化の発展形態を、より理解しやすい形で喧伝していくため、神籬では、「アニメ聖地3.0」と定義づけ、提唱していきたいと思います。
※1990年12月に開園したサンリオピューロランドは、初年度より長期にわたって赤字続きで、開園以来初の営業黒字を達成したのは、大幅リニューアルや運営改革が行われた2014年以降でした。