東映アニメーションがメタバース事業に乗り出した件

アニメの未来を考える

前回、『プリキュア』シリーズでは、毎年キャラクターや設定が一新されるので、展示物などの入れ替えが毎年発生してしまうため、そのコストパフォーマンスの悪さから、常設のテーマパークやミュージアムが作り難いのではないかとの話を取り上げました。

そんな『プリキュア』シリーズを制作している東映アニメーションが、昨今話題のメタバース事業を開始することを2023年2月16日に発表しました。
https://corp.toei-anim.co.jp/ja/press/press8999067012818829059.html

プレスリリースによると、東映アニメーション単独ではなく、The Sandboxと株式会社Mintoとの協業とのことです。

The Sandboxとは、いわゆるメタバース空間の一つです。
自作のゲームを公開してみんなにプレイしてもらったり、マーケットプレイスで取引されるNFTのキャラクターやアイテムを使用でいたりと様々な楽しみ方ができ、メタバース内では独自の仮想通貨「SAND」が使用されているのも特徴です。
また、メタバース内の「LAND」と呼ばれる土地が販売されており、企業が購入してイベント会場やショップを展開するという、かつてのセカンドライフ的な動きもあるとのことです。

株式会社Mintoは、マンガやアニメを活用したSNSマーケティングを手掛ける株式会社wwwaapと、キャラクタースタンプの販売やNFTコンテンツを手掛ける株式会社クオンが経営統合して2022年1月に誕生した企業です。
マンガやアニメなどのIPを活用したコンテンツソリューション事業、SNS発のコンテンツを活用するIPプロデュース事業、Web3※においてクリエイターやコンテンツを活用する新規事業の3つの事業を展開しています。

The Sandboxというメタバース空間で、MintoがIPを活用した事業を展開するという枠組みに、東映アニメーションが自社作品のIPを提供するというわけです。

プレスリリースだけでは、東映アニメーションとMintoとの力関係や主導権がどちらにあるのかまでは伺い知れませんが、今後、『プリキュア』シリーズをはじめとする作品を使って、The Sandboxでテーマパークやミュージアムのようなものを展開したり、イベントを開催したりすることになりそうです。
(東映アニメーションが制作する『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』などの作品は、集英社などの原作出版社にも権利があって東アニの一存では使用できないため、今回の取り組みでは、当面は『プリキュア』シリーズや『おジャ魔女どれみ』シリーズなどの東アニのオリジナル作品がメインになることが予想されます)

デジタルデータであれば、展示物の制作費、会場施設の賃借料といった金銭的なコストの他、制作期間などの時間的なコストも、リアル世界で実施する際に発生するものに比べてはるかに抑えられます。
入れ替えや更新についても大きなコストを要さずに行えるため、毎年キャラクターや設定が一新されるという『プリキュア』シリーズの弱点を克服することができ、毎年新しいコンテンツが追加されることは、逆にユーザーを飽きさせないという強みになるので、非常に相性が良いと言えるでしょう。

ただし、現役放送中のアニメ『プリキュア』のメインターゲットはあくまで幼い女の子たちであって、メタバース空間にアクセスができるような成長した女の子たちとはターゲット層が異なります。
従って、今回の取り組みが成功しても、現在行われているプリキュア ドリームステージのようなリアルイベントがなくなることは考え難く、うまく住み分けがされ、両立していくものと思われます。

いずれにせよ、今回の発表により、『プリキュア』シリーズは、現実世界での常設施設の展開ではなく、メタバース空間をメインに展開されていくとの見方が有力となったようです。


※Web3は、次世代のワールド・ワイド・ウェブとして提唱されている概念で、ブロックチェーン技術によって実現した分散型インターネットのことを指します。
情報の発信者(ホームページの公開者)と閲覧者の関係が一方通行だったWeb1.0から、SNSなど情報の発信者と閲覧者が双方向コミュニケーションするWeb2.0へと移行したネット世界がさらに発展して、特定のプラットフォームに依存しない新しい在り方に移行するというものです。
Web3でのネット世界は、特定のプラットフォーマー(巨大企業)に情報が集約されず、ブロックチェーン技術で参加者全員が分散して情報を保持・管理することになります。