番外編:商店街活性化の好事例 ③ 油津商店街 後編

油津商店街では、空き店舗解消のために、商店だけではなくIT企業の誘致も行っています。※
企業誘致自体は他地域でも取り組まれており、特段珍しいことでもありませんが、油津商店街の取り組みが他地域と異なるのは、誘致した企業の働き手として東京などからの地方移住者を募るのではなく、東京などからUターンで地元に戻って来た人たちを雇用対象にしていることで、実際に、誘致した企業の社員の9割以上が地元の人たちとのことです。
こうして商店街で100人以上の雇用が生まれ、その社員の家族のために、商店街の一角に保育園が作られ、さらに社員たちがランチを食べるための飲食店ができるという、新たな需要や消費が生まれているわけです。

新たにオープンした「油津yotten」という飲食もできる時間貸しの市民活動スペースでは、宴会や落語会などのイベントの他、習い事なども開かれ、それに参加する大人や子供たち、子供を迎えに来る親たちといったように、商店街に通う人たちが増え、それに買い物や飲食という消費行動が伴う好循環が生まれています。

元々、油津商店街は社会の価値観や環境の変化に取り残される形で衰退したのですが、それは商店街の価値観が変わらなかったために他ならず、この取り組みでは、商店街は買い物をする場所、という古い価値観を変え、買い物以外で商店街を訪れる目的を新たに作り出すことで、商店街の価値観をアップデートしてみせたという点に注目すべきでしょう。

名物商品やメニューを開発する、繁盛店を生み出す、イベントを開催して集客する、といった在り来たりなものではなく、地域における商店街の新しい価値を生み出すという取り組みは、商店街活性化の方法論において画期的な発明とも言えます。

運営組織についても、昭和の商店街では当たり前だった、寄り集まりお金を出し合った店々が対等な立場で運営される組合組織という形を取らず、商店街内外の若い人たちや商店街再生に意欲を持つ人たちによる応援団を株式会社化し、単なる応援ではなく、それなりの責任も伴う出資者たちから成る「株式会社油津応援団」という組織を作りました。
そして、この会社で宮崎銀行から800万円を借りて「ABURATSU COFFEE」というカフェを作ったのですが、リスクを負うことで、油津応援団の本気度が商店街の内外に伝わったといいます。

商店街活性化や町おこしの失敗事例として典型的な、大金を支払って大都市のコンサルタント会社から出張アドバイザーを招き、数日間のリサーチなどで助言や計画の策定などをしてもらうというスタイルを採用せず、コンサルタントに地元で生活をしてもらいながら、4年という期間と達成ノルマを課したというのが、油津商店街の事例が稀有な点で、当然ながら人選を誤る危険性もあったはずですが、そこで的確で有能な人材を選び出すことができたことも成功要因と言えるでしょう。

また、選ばれた木藤亮太氏も、商店街の店舗誘致を額面通りに実行するだけではなく、地域における商店街を単なる買い物目的で訪れる場所から、生活に必要であったり、生活をもっと豊かにするために、様々な目的で人々が集う場所に作り替え、「商店街」という存在を超えた地域コミュニティにまで昇華させたという点で、委託主である日南市の想定を超える成果を残したと言えるでしょう。
商店街活性化というと、いかに賑わいを取り戻すかとか、集客人数が〇倍になったなどの成果が求められ、そうしたものばかりが注目されがちですが、そうしたものとは異なる、地域住民にとって必要な場所、利用価値のある場所にするという、単なる商店街活性化という範疇に収まらない、町づくりや地方創生とも言える事例です。

現在では、油津にキャンプ地がある広島カープ人気や、油津港にクルーズ船が寄港するようになって外国人客の増加などの追い風があったことも幸いして、地域住民以外の客も増えているそうですが、それはあくまで副次的な効果に過ぎず、あくまで地域住民のための商店街というのが、油津商店街の在り方のようです。
商店街では、アーケードをレーンに見立てた商店街ボウリングや、親子で参加できる運動会、アーケード農園での野菜づくり体験といった様々なイベントを開催していますが、これらは集客や経済効果を目的としたものではなく、商店街で面白いことをやっているという空気を生み出すためで、地域住民に商店街が楽しい場所、訪れたくなる場所であると印象づけることを目的としているそうです。

2018年には、地元の女子高生の発案で、クラウドファウンディングによって実現した、アーケードを237本のカラフルな傘が彩る油津商店街の「アンブレラスカイ」が話題になりました。

これなども、商店街と地域住民の関係性の一端が見える好例で、木藤氏が離れた後も、油津商店街がその活動を引き継いでうまく運営できている証拠とも言え、継続性という点においても成功していることが窺えるようです。


神籬では、商店街の活性化への取り組みなどのご相談を受け付けています。
当該商店街の状況や特質などを聴き取りさせていただき、他地域における成功事例を踏まえた上でのアドバイザーから、他に事例がないような新たな企画、地元の特性に合わせた施策の提案、実施サポートまで幅広くお手伝いさせていただきます。
ご興味にある方は、是非問い合わせフォームよりご連絡下さい。


※IT企業誘致自体は、日南市が2016年から進めているプロジェクトで、油津商店街に誘致された企業が、この取り組みの第1社目の企業とのこと。1年間で誘致した企業は11社に上り、油津商店街周辺には9社を誘致したそうです。