番外編_町おこしの失敗事例の要因をご紹介 中編

今回も前回に続き、失敗事例とその要因を、具体的な地名や年代、団体名などを避けつつご紹介します。

アニメ制作会社誘致の失敗事例
某地域では、東京に本拠を置くアニメ制会社の誘致を行い、地元を舞台にしたアニメを制作して放送しました。

アニメ業界では、かつては人件費の安かった中国のスタジオに外注したり、中国に自社の拠点(現地法人やスタジオ)を設けて作画制作の一部を担わせる体制を持っていましたが、中国の賃金高騰などの影響で人件費のメリットを失ったこともあって、国内の家賃や物価の安い地方でスタジオを設ける動きが出ていました。

また、地方にとっても雇用創出が慢性的な課題となっている地域が多く、雇用を求めて若者が地元から流出するなどの問題を抱えていたため、アニメ産業の誘致を求めていました。
当時は京都アニメーションやP.A.WORKSなどのように地方に本拠を置くアニメ制作会社が出始め、これらの制作会社が作るアニメが、地元を舞台にして、それが聖地巡礼という形で観光客誘致や地域活性化に繋がる事例がメディアなどで頻繁に取り上げられた時期でしたから、そうした期待も大きかったと思われます。

こうして両者の思惑が一致した結果、某地域でアニメ制作会社が設立します。
県の雇用対策事業の一環とのことで、現地住民の雇用人数ごとに助成金が下り、スタジオが置かれた物件についても、通常よりも低価格での賃借料で済んだりといった特典もあり、アニメ制作会社としては資金的な面で大きなメリットがありました。
地元で新規採用募集を行ったところ、採用人員が程なく埋まったことから、元々アニメスタジオでの就職需要が潜在していたことが窺われ、まさに埋もれていた人材を発掘し、雇用を創出したわけです。

さらに、このアニメ制作会社誘致は、地元企業と行政による官民共同の産業連携プロジェクトの一環で、地元の広告代理店や旅行会社が連携して、アニメ制作会社が生み出す地元を舞台にした作品やキャラクターを活用し、県内の広報活動やグッズ展開、観光客誘致に繋げることで、地域に大きな経済効果を齎すという産業モデルを構想していました。
この構想通り、アニメ制作会社は地元を舞台にした作品を作って県内で放送され、広告代理店が作品を使って県内各地の広報活用を展開してグッズも製作し、旅行会社もこの作品をメインビジュアルにして旅行企画を計画しており、プロジェクトは順調に進むかに思われましたが、実際にはそうはなりませんでした。

元々地方に設立されたこのアニメ制作会社は、東京に本拠を置くアニメ制作会社が、実制作部門を分社化して東京と地方にそれぞれ制作会社として設立させたもので、この2つの制作会社(スタジオ)が連携して作品を作り上げていく体制を画したものでした。
地方のスタジオでは、地元で採用した人員を含め充分なスタッフ人数を抱えていたため、人手不足ということもなく、補助金のおかげで資金的な負担も少なかったはずですが、いざ制作を始めて見ると、東京との働き方の違いという問題が露見します。
アニメの制作会社では、制作のウエイトが夜間に集中することが多く、繁忙期には休日返上でスタジオに泊まり込んでの作業することも頻繁にあり(それはそれで問題ではあるのですが)、この東京のスタジオでも同様な働き方をしていました。
ところが、地方のスタジオでは、行政の補助金が入っているために、休日の確保や残業といった労働時間の管理が厳しく、夜間や休日にはスタジオが閉じてしまうことから、東京のスタジオとの連携が取れなくなってしまいました。
東京のスタジオでは、地方に制作を回してもなかなか上がってこないために、次第に東京で作業を引き取るようになっていき、制作状況は逼迫していきます。

テレビで放送されたアニメ作品は、メイキングドキュメントと24分程のスペシャル版アニメという構成で放送されたもので、本来はこの後にテレビシリーズを放送する予定となっており、放送開始時期も発表されていましたが、制作会社からの納入がないまま放送時期を過ぎてしまい、その挙句、地方のスタジオは活動を停止してしまいます。
結局このアニメ作品は、関係者から延期や制作中止といった発表を含めて一切の情報開示のないまま、いつのまにか公式サイトも閉鎖されてしまったことから、官民共同を謳ったプロジェクトと共に頓挫したものと思われます。

現在では、打ち合わせや制作物の受け渡しもネットを通して行うことができるため、地方での制作は各段にやり易くなっているはずではありますが、それでも、地方と都心部では環境や価値観などが異なることが多々あり、その点が障害になることもあるというわけです。
この事例では、行政の労働管理がマイナスに働いてしまいましたが(過重労働を肯定するわけではありません)、たとえ行政の管理がなかったとしても、この地方のスタジオの周囲には、深夜に営業している飲食店や食料を確保できる店などがなく、夜通しの作業や何日も泊まり込みで作業をするという働き方はそもそもできなかった可能性があり、そうした環境面での違いも考慮に入れた上で、計画を進める必要があったようです。

次回に続く


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