番外編・町おこし事例① コスプレの聖地となった清水駅前銀座商店街
清水駅前銀座商店街(静岡県静岡市)は、駅前徒歩1分という好立地から地元店舗約90店が並ぶ450m程のアーケード商店街で、かつては仲村トオル・清水宏次朗・中山美穂主演の映画『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年公開)のロケ地となったことでも知られていました。
駅前には西友や丸井などのデパートがあり、昭和の清水市民にとっては唯一の消費活動の拠点でした。
ところが、やがて郊外の大型商業施設に客を奪われるようになっても昭和感抜群の商店街のままで、1990年代頃には寂れてシャッター通り化してしまいます。
駅前にあった西友(2015年閉店)、丸井(2001年閉店)も今は解体されて建物すら残っていません。
商店街に流れていた人流は途絶え、商店街に一度も入ったことがない清水市民やその存在すら知らない人も出てくる有様で、商店街の振興組合でも活性化が長年の課題だったそうです。
そんな中、藤枝市に本社を置くWEB制作・印刷広告の会社・共立アイコムの飛び込み営業の女性社員が、自身の趣味から創案したコスプレ企画を商店街に持ち込んだことをきっかけにして、2013年6月に商店街の未来を賭けた企画がスタートします。
約半年間の準備期間を経て同年12月14~15日の2日間にわたり、「富士山コスプレ世界大会」と題したイベントが清水駅前銀座商店街で開催されると、2日間で延べ400人のレイヤーが参加、1万人の動員があったというのですから、細部はさておき、全国的にほぼ無名の商店街が実施したイベントであることを考えれば、大成功と言って差し支えないでしょう。
商店街内に時計がないためにイベント進行のタイミングが分かりづらかったり、撮影マナーの徹底がされていないなど、まだ不慣れな部分はあったものの、強い日差しや雨天に不向きなコスプレにとって、アーケード商店街は環境的にも都合が良く、受付や更衣室、防寒対策、備品やサポート要員などの準備がしっかりしていたそうで、当時参加されていた方々の感想を見てみても、スタッフの対応の印象なども含め、概ね好評だったようです。
当日は、初心者の体験用にコスプレ衣装の貸し出しなども行っていたそうで、行き届いた準備のおかげで初回開催ながら大きな問題もなく、スタッフ、参加者、観客含めて非情に良好な体験を共有できたとのことで、この第1回の成功を受けてその後もイベントが継続的に開催されることになりました。
2019年11月に行われた第7回では、過去最多となる36,000名の観覧者、2,200名のレイヤーが来場していましたが、コロナ渦の影響で翌2020年以降延期となり、第8回は今年11月の開催となっています。
コロナ渦でなければ、さらにイベントは拡大していたかもしれません。
このイベントからは、七海あくあという全国的にも有名なレイヤーが輩出されており、コスプレだけではなく、キャラクターのラッピングが施された「痛車」が100台以上も集まるイベントなども開かれています。
イベントでは、商店街内に設置された更衣室の利用料の一部を、商店街店舗で使える商品券としてレイヤーに還元することで、商店街での購買を促進するという工夫がされたそうですが、それ以外にも、レイヤーが集まる「コスプレ商店街」として知名度が上がった結果、サブカル系の店舗が出店するなどの効果もあったとのこと。
2014年12月にオープンしたコスプレ撮影スタジオ・清水ノンタウンは、イベント外でのレイヤーの受け皿の役割を担っており、商店街との提携で、通常であればスタジオ内でしか許されないはずの撮影が、商店街内であればどこでも撮影OK、さらに商店街近くの公園や駅前交差点の地下道の他、JR線の高架下、歩道橋などの場所でも、市役所から許可を得て撮影が可能となっており、このノンタウンが常設の「コスプレの聖地」として機能しているようです。
「コスプレ商店街」として知名度が向上した結果、30店舗以上もあった空き店舗も現在では減少傾向がみられるようになり、コスプレの影響かは不明ですが、2018年11月には大衆演劇場「清水ヒカリ座」といった珍しいものもオープンしています。
2018年には、静岡出身の百田夏菜子(ももいろクローバーZ)主演で、コスプレで町おこしをしている清水駅前銀座商店街を舞台に、模型メーカー勤務でコスプレが趣味の主人公が、働き方改革に向き合う姿を描いたNHK静岡放送局製作ドラマ『プラスティック・スマイル ~静岡発地域ドラマ~』が、NHK BSプレミアムにて放送されました。
一時は閑散としていた清水駅前も、再開発で新たな商業施設が誕生し、子供向けのもの作り体験施設やミニシアターといったものができたり、駅入口に『ちびまる子ちゃん』のデザインマンホールが設置されたりと、かつての賑わいを取り戻す兆しも見え始めています。
清水駅前銀座商店街は、活用できる特産物や特質などの素材を持たない中で、地元とは全く関係性のない題材を使って施策を成功させた上に、それを一過性のものとせずに現在も活動を継続して、徐々にではあっても確実に効果を出しつつある珍しい事例と言えます。
空き家の再利用や名産品の開発、施設などの箱物を作ったり、有名コンテンツとのコラボといった王道の施策ではなく、コスプレというサブカルジャンルを扱ったという点においても、注目すべき極めて稀有な事例と言えるでしょう。
神籬では、アニメの独自データベースやオリジナル指標を整備・保有しており、その情報を元にした地域活性化、町おこしなどのご相談を受け付けています。特にアニメやマンガ、サブカル系コンテンツを活用した取り組みに強く、町おこしのアイデア事例(成功・失敗事例)のご紹介だけでなく、地域の特性や資質に合わせた提案、何もないところから観光資源を生み出す画期的なアイデアの提案等、具体的に何から始めればよいのか迷われておられる方向けにも、コンテンツの選択や手段などを含めて、計画策定から実行まで、幅広く活動を支援させていただきます。
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