第二ステージに入ったアニメ聖地巡礼の現状

アニメ聖地巡礼の先駆的現象は1991年の『究極超人あ~る』に見られ、2007年の『らき☆すた』によって、それまでアニメオタクたちの中だけで楽しまれていた聖地巡礼文化が世間に知られるようになり、さらに2016年の『君の名は。』ブームの影響もあって、「聖地巡礼」は流行語大賞にノミネートされるまでに至りました。
2010年代は、聖地巡礼文化がアニメファンのみならず、一般層にまで浸透し、各企業もこれに便乗するようなビジネス展開を模索した時期でしたが、2020年代に入ると、新型コロナウイルス感染症の流行による移動制限により、この聖地巡礼文化は、大いに水を差されてしまい、変容を余儀なくされたと言えなくもありません。

しかし実は、コロナ渦に入る以前から、全く別な要因によって聖地巡礼はすでにその様相を変え、新たな段階に移行しつつありました。

  • 過去作品にまで聖地捜索の手が伸び、有名作品の聖地はあらかた探し尽くされてしまったこと(聖地探しという遊びのフロンティアが失われ、一部の人たちによる新作アニメの聖地特定競争がメインに)
  • 実在の場所を舞台にした聖地アニメが増え過ぎ、当初は聖地といってもてはやされた舞台地が、珍しくも貴重でもなくなってしまったこと
  • 『君の名は。』を超えるような聖地アニメが登場せず、小ヒットクラスの作品しか現れなかったこと
  • 聖地巡礼ブームに乗る形で企業が仕掛けたサービスの多くが不発に終わり、聖地ビジネスの難しさが露呈してしまったこと(一部の強コンテンツを使った成功事例もありましたが、少数事例に留まるものでした)

主に上記のような要因が相まって、聖地巡礼は、ある意味定番ジャンルにはなったものの、以前程には世間を騒がせるようなインパクトや熱量を失ってしまいました。
聖地巡礼が下火になったと言うよりも、一般層にまで巻き込んだブームが落ち着き、元々好きだった人や新たに魅力を知った人を含め、本当に聖地巡礼が好きな人たちだけの楽しみに立ち戻ったと見るべきではないでしょうか。

では、元に戻っただけなのかと言うと、そんなことはなく、聖地巡礼というものが、アニメファンの根源的な欲求であることは世間の知ることとなり、やり方が間違っていただけで、そこには大きなニーズがあるはずなのだから、正しい方法で臨めば需要を生み出すことも可能ではないか、という新たなビジネスの鉱脈を発見したわけです。

それに気づいた人たちは何を始めたか。
これまでは自然発生的(意図せず)に生まれていた聖地(舞台地)を、聖地巡礼をさせることを目的にアニメを作り、いわば意図的に聖地を生み出そうとする実験をしてみましたが、これは軒並み失敗に終わりました。
聖地を意図的に喚起させようというのではなく、地元を盛り上げたいという地元愛から作られた『ガールズ&パンツァー』や『ゾンビランドサガ』などの稀有な成功例を生んだものの、それは作品自体が幸運にもヒットして、且つ地元民の積極的で継続的な協力も得られたという諸条件が揃った結果であって、年間400作品以上も生み出される作品中、ヒットするのが1作品出るか出ないかという極めて低い確率では、まずヒット作を生み出すという初手の段階で躓いてしまうでしょう。

であれば、答えは簡単で、すでにヒットしている有名作品の聖地を生み出せば良いのです。
それは新しいものでも何でもなく、聖地巡礼ブームが起きる前から存在していて、誰も知っている有名なもの、つまり、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンといったテーマパークのことです。
特にユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、日本のアニメやゲームとコラボしたアトラクションが好評で、ディズニーやハリウッド映画などの海外コンテンツだけではなく、日本のコンテンツでも充分に同じことが可能であることを証明してくれました。

それまでは、アンパンマンミュージアムやウルトラマンランド(2013年閉園)、サンリオピューロランド※、トーマスタウン、ナンジャタウンなど、子供向けの屋内型施設がメインで、アニメ・マンガファン向けには、三鷹の森ジブリ美術館や石ノ森章太郎ふるさと記念館のような展示メインの美術館・博物館・記念館といったものしか存在していませんでしたが、近年では、日本のコンテンツを使った大人向けの大規模テーマパークが次々と生み出されています。

  • ニジゲンノモリ(2017年7月15日オープン)
    ナイトウォーク火の鳥
    クレヨンしんちゃんアドベンチャーパーク
    NARUTO&BORUTO 忍里(2019年4月20日開設)
    ゴジラ迎撃作戦 〜国立ゴジラ淡路島研究センター〜(2020年10月10日開設)
    ドラゴンクエスト アイランド 大魔王ゾーマとはじまりの島(2021年4月29日開設)
  • ムーミンバレーパーク(2019年3月16日オープン)
  • USJ スーパー・ニンテンドー・ワールド(2021年3月18日オープン)
  • AWAJI HELLO KITTY APPLE LAND(2022年4月29日オープン)
  • ジブリパーク(2022年11月1日オープン)

テーマパークとは別に、近年はマンホールや銅像・モニュメントの設置が相次いでおり、東京都による「デザインマンホール蓋設置・活用等推進事業」などをはじめ、各自治体でアニメやマンガなどのコンテンツを活用して観光資源を生み出す施策を打ち出しています。

都内では続々とデザインマンホールが設置されていますし、ポケモンのデザインマンホール「ポケふた」はすでに設置数が270ヵ所を超え、佐賀県の『ゾンビランドサガ』のマンホールも第3弾が設置され全30ヵ所となり、来年には『機動警察パトレイバー』のマンホールが茨城県土浦市内15ヵ所に設置予定と、全国合わせたアニメ・マンガ系のデザインマンホールの設置例は、すでに680ヵ所以上にも及びます。

世田谷のサザエさん通りや、鳥取県境港市の水木しげるロードや北栄町のコナン通り、宮城県の石巻マンガロードなど、銅像やモニュメントの設置例は以前にもたくさんありましたが、近年では、熊本の『ONE PIECE』の麦わら一味の銅像設置(2018年11月~2022年7月)をはじめ、大分県日田市『進撃の巨人』の銅像(2020年11月・2021年3月)、東久留米市の『ブラック・ジャック』銅像(2021年3月)、渋谷区立宮下公園の『ドラえもん』のモニュメント(2021年12月)、『竜とそばかすの姫』のモニュメント(2022年7月)など、銅像やモニュメントが設置されるニュースが後を絶たず、急速に設置例が増えています。

このように、作品の舞台地への聖地巡礼というファン行動はそのままに、それとは別に、アニメの世界観を体験したいという欲求を満たす大型のテーマパークの登場や、好きなアニメ作品のスポット(新たな意味合いのアニメ聖地)を訪れたいという需要を生み出す市街地へのマンホールや銅像・モニュメントの設置などといった、アニメ聖地巡礼の第二ステージとも言うべき、新たな段階に入っているわけです。

自治体や企業も、様変わりしつつある新たなアニメ聖地巡礼文化の需要に合わせ、聖地(舞台地)マップの作成・配布といったこれまでのやり方ではなく、自らアニメやマンガ関連の観光資源を生み出していくなど、その活用方法を変えていく必要があるでしょう。


神籬では、全国各地に点在するアニメ・マンガ系の680ヵ所以上にも及ぶデザインマンホールや、880体以上の銅像・モニュメントの他、テーマパークや美術館・博物館・記念館、アニメショップなどの座標・情報をデータベース化しており、情報提供のご依頼から、地域活性化への活用方法のご相談などを受け付けております。
ご興味のある方は、是非問い合わせフォームよりご連絡下さい。


※サンリオピューロランドが現在のような、子供だけではなく大人も楽しめる施設に生まれ変わったのは、小巻亜矢顧問(現・代表取締役社長)による2014年以降の改革断行の成果で、それ以前は、他のテーマパークと同じような経営方針で運営されていました。