モニュメントの税金の件

アニメの未来を考える

アニメとは直接関係がありませんが、2001年4月に石川県能登町越坂の観光施設「イカの駅つくモール」に設置された巨大なイカのモニュメント「イカキング」について、新型コロナウイルス感染症対策の地方創生臨時交付金2500万円が設置費用に充てられたことが国内のみならず海外でも物議を醸し、さらには一転して2022年7月までの経済効果が6億円にのぼるという驚きの推計結果が発表されたりと話題になっています。

かつて、世田谷区桜新町にある『サザエさん』の銅像を管理する商店街の振興組合のもとに、世田谷都税事務所から償却資産税58万9200円の納税通知書が届いたことがニュースとなり、一時期世間を騒がせたことがありました。
桜新町商店街に銅像が設置されたのが2012年で、このことが話題となったのは、翌2013年6月のことでした。
これは、銅像を無税の「美術品」ではなく、商店街の誘客目的の道具であるとの見解から、固定資産税のうちの事業用資産にかけられる償却資産税がかかると判断されたもので、資産の評価額に1.4%の税率で課税されることです。

サザエさん銅像は、商店街の企画で始まり、東京都や世田谷区から支援を受け、総額4000万円の費用をかけて設置されたもので、12体の銅像は商店街の所有物でしたから、桜新町商店街を「事業主」とみなし、銅像を活用して利益を得ていると判断して課税の対象とした東京都の判断は、税法上では当然とも言えます。

結局、組合は納税額に満たない約15万円を支払い、公共性や美術品としての価値を認めてほしいと都に税の減免を求めた結果、一転して納税額が修正され、残額が免除されることになりました。
前年に行われた除幕式には多くの報道陣が集まる中、約1000人もの人が詰めかけ、スポーツ報知の号外まで配布されていた程の過熱ぶりでしたから注目度が非常に高く、翌年のこの報道も世間の関心が高い話題となり、都の判断に批判的な意見が多かったこともあって、こうした世論も判断の後押しになったのかもしれません。

サザエさん銅像以前に、葛飾区の亀有駅前には『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両津勘吉像が、柴又駅前には『男はつらいよ』の寅さん像が設置されていましたが、こちらは共に所有者が民間の事業組織ではなく、自治体である葛飾区であったために、課税対象とはなっていないという事情がありました。
サザエさん銅像の課税問題は、所有者が商店街だった点にあったわけです。

同じように、自治体が運営している水道局が展開するデザインマンホールや、7月23日に10体目の除幕式が行われたばかりの熊本県の『ON PIECE』銅像をはじめとする自治体所有の銅像、冒頭に紹介した「イカキング」も能登町の所有なので非課税となっています。

最近のIT企業では見られなくなりましたが、昭和世代の企業で作られることが多かった創業者の銅像なんてものも民間企業の所有物のために償却資産税の対象になり、商業誌悦やテーマパーク内の展示物やオブジェなども課税対象となります。

商業施設や民間のイベント施設などで、期間限定のイベントに合わせて製作・展示されたアニメキャラクターの巨大なオブジェなどが、期間を過ぎると処分されてしまい、「もったいない」とか「そのままにはしておけないものか」などと感じますが、施設側としては置いておくだけで税金がかかるので、いつまでも置いてはおけず、かといって版権や契約上の縛りがあるので売却も寄贈もできないという大人の事情があるわけです。

桜新町商店街の場合は組合員に税に詳しい人がいなかったのかもしれませんが、商店街や地域の有志などが誘客目的でモニュメントなどを作成したいと考えた場合、作成したモニュメントなどは自治体に寄贈してしまうという方法が一般的です。
長谷川町子の出身地である福岡県福岡市のサザエさん銅像(長谷川町子先生とサザエさん像・2017年設置)は、地元の学校法人である西南学院が作成してサザエさん通りに面した大学前に設置した後、福岡市に寄贈して所有権を市に移しています。
もちろん勝手に作って寄贈しても自治体が受け取りを断ることも考えられるので、そこは当然のことながら、モニュメント作成前にちゃんと根回しや調整をした上で計画が進められるはずです。
筋を通しさえすれば、桜新町商店街のようなケースにはならないはずなので、町おこしでモニュメント作成を企画しようという団体には、この点をご注意いただきたいと思います。

また、2015年以来親しまれてきた大阪EXPOCITY前の全高約5mの「ガンダムVSシャア専用ザク モニュメント」が、施設内で営業していたガンダムスクエアの閉店に伴って今年の1月に解体・撤去されてしまった際には、これを惜しむ声が多く見られましたが、民間の企業や施設にあるオブジェやモニュメントなどは、税金対策で突然撤去されてしまうことを覚悟しておく必要があり、見に行けるうちに見ておくというのがファンの正しい心構えなのかもしれません。