打切アニメ列伝⑭ 第2のガンダムを期待された『伝説巨神イデオン』中編

アニメの解説書

前回は作品企画の背景に焦点をあてましたが、今回は作品内容に目を向けていきます。

『伝説巨神イデオン』のストーリーは
「地球人類が外宇宙にまで移民を行うようになっていた西暦2300年、アンドロメダ星雲の植民星であるソロ星で、異星人文明の遺跡を発掘中だった移民団は、伝説の無限エネルギー「イデ」の探索のためにやって来た異星人バッフ・クランと不幸な遭遇を果たし、戦闘状態に陥ります。主人公の少年・コスモたちが乗り込んだ、異星人文明の遺跡だと思われていたメカは巨大ロボット「イデオン」に合体変形し、襲い来る異星人を撃退。同じく発掘されたソロ・シップに避難民を乗せ、正体不明の「イデオン」を頼りに、追撃してくる異星人から逃れて宇宙を旅することになる」
といったものです。

少年たちの逃避行を描く過程で、恐竜の惑星、猿人の惑星、水の惑星などに立ち寄りながら、そんな未知の惑星に対する好奇心を満たす余裕はなく、未知の惑星は画面上の背景として描かれるのみ。襲い来る異星人との戦いに明け暮れ、その星がどんな星なのかには触れないまま立ち去ってしまいます。
『恐竜探検隊ボーンフリー』、『科学探検隊タンサー5』というSF冒険メカアニメの後継作品でありながら、未知の世界への探求や冒険は一切描かれず、ひたすら極限状態で逃げ回る主人公たちの姿が描かれるのみなのです。

前編でも触れましたが、主役メカのデザインはすでに出来ていて、それを使う前提での制作スタートですから、「こんなバカなデザインで、もっともらしいものが作れるわけがない」と腹が立って徹底的にバカな話にしてやろうと、敵も味方も全員が全滅してしまう話を作ったと富野監督は語っています。
また同時に、全滅話というのは、それをやっちゃあオシマイだと言う作家としての最終手段で、作家として自殺感覚を持ちながら、この作品と心中するくらいの覚悟で臨んでいたそうです。

箱型のトラックのようなメカ3台が地面を走って合体する姿は、お世辞にもカッコ良くはなく、舞台が宇宙へと移動していく中で、メカは戦闘機のように改造され、だんだんマシなメカになっていくのですが、戦闘シーンは最後まで鈍臭いままでした。
主役ロボットは1台のみで、ともかくバリア頼みに大量のミサイルやパンチ、キックで敵を倒す、と言えばまだ良い方で、とにかくやたらめっぽう手足を振り回した結果、それにぶつかった敵機は爆発、イデオンは何発ミサイルやレーザー兵器を撃ち込まれてもバリアに守られて平気というものですから、主人公側がズルいチート行為を行っているように見え、敵に同情したくなる程です。
全体を通してロボットをカッコ良く描こうという意識が低く、『機動戦士ガンダム』のような支持を得られなかった要因ともなっています。
中間色を多用して全体的に鈍い色調で描かれた画面、敵メカは三本脚の宇宙人的なデザインで、カラーリングも黄土色や茶色、紫などの鈍い色ばかり。現実的と言えばそれまでですが、何とも魅力的に見えないようなデザインばかり。小さなお子様はおろか、中高生の目を惹くのも難しそうなマニアック過ぎるもので、当然ながら人気が上がらず、視聴率も悪く、玩具の販売も振るわず、結果的に番組は全43話の予定を第39話に短縮する形で打ち切りとなってしまいます。

『機動戦士ガンダム』でも、ジオン軍の襲撃を受けた避難民が、ホワイトベースという戦艦に乗り込んで地球を目指しす逃避行が描かれており、寄せ集め集団ながら、ブライト艦長と主人公アムロの間で多少の衝突はあったものの、艦内のメンバーは、敵であるジオンに対して一致団結して戦う仲間意識がありました。
ところが、同じような境遇でソロ・シップに乗り込んだ者たちは、個人的な思いをぶつけあい、仲間を疑い続けて、いつまでも衝突が絶えず、船内では、誰がいつ怒り出し、誰と誰がいつぶつかり合ってもおかしくない殺伐としたギスギス感が充満し、我欲や打算で裏切りや身勝手な行動を繰り返す登場人物たちの醜い姿が描かれ続けます。見ている方も決して楽しい気分にならない番組とあって、途中で脱落する視聴者が出るのも当然という感じでした。

それまでの理屈抜きの超越的なパワーで敵をなぎ倒すロボットの活躍を描いた「スーパーロボット」から、単に兵器に過ぎないロボットを操縦する人間のドラマを描いた『機動戦士ガンダム』は、「リアルロボット」と評されました。そんな『機動戦士ガンダム』を見て、これこそがリアルだと得意気に話すアニメファンたちに、富野監督は確信的に、愛や友情、信頼などで人間が勝利を勝ち取るようなのは幻想に過ぎず、本当のリアルとはこうだと言わんばかりに、人の醜さをこれでもかと見せつけたわけですから、『機動戦士ガンダム』のような作品を求めるファンたちの期待を見事に裏切っただけではなく、玩具を売るための宣伝であるべきエンターテインメント作品であることも完全に放棄した狂気の沙汰とも言える所業で、当然のごとく打ち切りという結果を招いたわけです。

最終回となった第39話の脚本を担当した松崎健一によると、第39話の脚本は最終回として制作されてものではなく、その後43話まで続く予定で制作した決定稿の脚本を、富野監督が急遽ラスト2分を書き換えたとのこと。
これにより、ラスト2分で突然「イデ」が発動して敵も味方も全ての人々が宇宙の果てへ四散したとのナレーションで唐突な幕引きが行われます。
当時この最終回を目撃した子供たちは、呆気にとられるか、あるいは何か凄いものを体験したと感じたかもしれません。

次回はテレビアニメの後に完結版として制作された劇場版に目を向けていきます。