打切アニメ列伝⑨ 打ち切りではなく予定通りのイデエンド『魔境伝説アクロバンチ』
『魔境伝説アクロバンチ』
1982年5月5日~12月24日/日本テレビ系/全24話
原案:山本優/総監督:夏木よしのり(四辻たかお)/監督:やすむらまさかず→久岡敬史/製作:日本テレビ、国際映画社
作品名は、企画初期の発想元となったアメリカの西部劇映画『ワイルドバンチ』に由来し、ワイルドをアクロバットに取り替えた造語。その後、旅物語であることから、西部劇の幌馬車や、住居兼移動手段であるキャンピングカーのイメージで、巨大ロボットの中で家族が生活しながら宝探しの旅をする展開となっています。
国際映画社の制作で、日本テレビの水曜19:00~19:30枠でスタートするも、2クール以降、監督が交代し、作画スタッフの多くが国際映画社から東映動画へ変わり、放送時間も金曜17:00~17:30枠に変更されました。
夏木よしのり名義で監督を務めている四辻たかおとシリーズ構成の山本優は、『銀河旋風ブライガー』(1981年10月~1982年6月)、『おちゃめ神物語コロコロポロン』(1982年5月~1983年3月)と並行して監督、シリーズ構成を務めています。
『銀河旋風ブライガー』のヒットから、期待を込めての人事だったろうと思われますが、さすがに3作品平行での担当は負担が大き過ぎる気がします。
国際映画社は制作会社というよりは企画会社に近く、それまでも実制作を東映動画(現・東映アニメーション)などに委託する形でアニメを制作していましたが、取り扱う作品数が増えたことから、自社制作の拠点を設けようと1981年10月に自社スタジオを開設しました。
そのため、自社スタジオ開設前から制作がスタートしている『銀河旋風ブライガー』は東映動画制作ですが、『魔境伝説アクロバンチ』と『おちゃめ神物語コロコロポロン』は、自社スタジオを拠点に、国際映画社の自社制作と部分的に外注という体制でスタートします。
新設スタジオでいきなり2作同時制作はハードルが高そうにも感じますが、『魔境伝説アクロバンチ』が放送されていた水曜19:00~19:30枠は、フジテレビで東映動画制作の『Dr.スランプ アラレちゃん』が放送していたことから、裏番組の制作を請け負うことができなかったという事情もあるようです。金曜17:00~17:30枠への番組枠変更と同時に東映動画へと制作が移行したのも、そうした事情からなのでしょう。
そうしたわけで、体制盤石な東映動画の協力が得られない状態で、新設したばかりの自社スタジオを拠点に、2作品を同時にスタートさせなければならなくなった国際映画社は、スケジュールの逼迫などで現場はかなり混乱していたようです。
第1クールでは、オープニングとエンディングは未完成のまま放送され、止め絵が多用されていたものが、話数が進むにつれてだんだん修正されて完成形になっていったり、エンディング曲のタイトル「渚にひとり」が「猪にひとり」と誤植されていたのも話題になりました。
各話の担当スタッフによってクオリティの高低差があるのも特徴で、キャラクターデザインを担当したいのまたむつみが作画監督を務めた第5話「大密林コンゴの秘宝」と第14話「幻nバビロン」、越智一裕※1(「南波一」「おちかずひろ」名義)が演出・絵コンテ・作画監督を担当した第11話「悲恋のサバ王宮」などはファンの間でも評価が高い回となっています。
核兵器による最終戦争を回避した人類が、その科学技術を再資源開発に向けて繁栄の時を向かえていた21世紀後半、アマチュア考古学者の蘭堂タツヤは5人の息子や娘たちを連れて、幻の大秘宝クワスチカを探して世界各地の古代遺跡を巡る旅に出るが、クワスチカの力を手に入れて地底人・ゴブリン結社との激しい争奪戦が繰り広げられるといった内容になっています。
当時『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年12月公開)が日本でもヒットしていたことから、遺跡探検や秘宝というキーワードがウケるという狙いがあったものと想像されます。
巨大ロボ・アクロバンチは、蘭堂ファミリーがそれぞれに乗り込むメカへと分離合体が自由に行なえる仕組みになっていて、その合体変形シーンは、珍しいモノクロのワイヤーフレーム調の映像になっています※。
ロボットアニメでは、通常時や出撃時は子機状態で、敵との戦闘前に合体変形して巨大ロボになるのが定番パターンで、毎回変形合体シーンが見せ場※にもなるのですが、アクロバンチには居住空間があって蘭堂ファミリーの家にもなっていることから(人工重力でロボットの姿勢に影響を受けない仕組みになっています)、巨大ロボットの状態で旅をしています。そのため、合体状態から戦闘が始まることが多く、ロボットアニメの定番である合体シーンが毎回必ず出てくるわけではない珍しい作品となっています。
最終回は、遂に出現したクワスチカの中で、アクロバンチとゴブリンの首領デーロスが対決するも、「全ての生きとし生けるものの源」と称する存在が現れ、自らが人類やゴブリン一族の創造主であることを明かし、地球に蔓延る悪しき波長のせいで太陽系は滅亡してしまうこと、良き魂を集めて次なる宇宙へ向かうために現れたことを告げ、その予言通り地球は崩壊。彗星の接近でバラバラになる地球の様子や別の宇宙へと繋がっていると思われるトンネル状の空間が描かれた後、蘭堂ファミリーや恋人たち、タツヤの亡き妻ローラまでもが魂となって現れ、新たな宇宙の地球にそっくりな惑星へと向かうところで終了。
良き魂だけが新たな宇宙に行くことができ、そこで新たな命を宿し、輪廻転生を繰り返していくというものらしいのですが、創造主の言葉をちゃんと聞いていないとこのラストはなかなか理解できないかもしれず、ネット上でもいまだによくわからない最終回だったという感想が見られます※2。
打切アニメと言えば、必ずと言っていい程名前が挙げられるこの『魔境伝説アクロバンチ』ですが、実は打ち切りではなかったのでは、との見解もあります。
すでに国際映画社が倒産してしまっているために、なかなか当時の証言は出てこないことから、真偽を明確に判断するには材料が足りません。
しかし、賛否はどうあれ、物語は破綻せずにちゃんと完結しているのも事実です。
また、元々何話を予定していたという話もなく、視聴率にしても野球中継で頻繁に放送中止になる放送枠であることを考慮すれば、多少低くても仕方がなく、打ち切りの明確な理由とまでは言えなさそうです。
野球中継による放送中止が重なり、8か月という放送期間なのに24話しか放送されていませんが、制作側にとっては、制作スケジュールに余裕ができて助かったという声もあったようです。
4~10月までの同時間帯はプロ野球巨人戦の中継枠ともなっていて、頻繁に放送中止が発生するであろうことは最初から想定できることなので、国際映画社や日本テレビにとってはそれを織り込み済みでの番組編成だったはずです。
このことから、元々20~30話程度で終わらせる想定で制作されて、最終的に24話で完結となったとも考えられるわけです。
であるとすれば、想定通りの全24話に過ぎず、イデエンド※3とも呼ばれる難解なラストを見たファンたちが、これを打ち切りのために強引な幕引きを行った結果だとして噂したものが独り歩きした結果、定説になってしまったのではとも想像されます。
※1 越智一裕
16歳にして『宇宙魔神ダイケンゴー』の動画でアニメーターデビューを果たし、翌年天才アニメーター金田伊功に師事し、『魔境伝説アクロバンチ』では弱冠20歳で演出・絵コンテ・作画監督を担当して業界でも話題になりました。OVAの監督や、ゲームの原作・キャラクターデザイン、マンガの執筆など幅広く活動しています。
近年では、東映ビデオやバンダイビジュアルから発売された1970年代のスーパーロボットアニメやSFアニメ作品のDVD/BDでジャケットイラストを担当していることでも知られ、それらを含む数々のイラストを収録した『スーパーロボット&ヒーローARTWORKS 越智一裕画集』が発売されています。
※2 ロボットアニメにおける合体変形シーンは、魔法少女アニメの変身シーンと同様に、作品の見せ場であると同時に、同じシーンを毎回使いまわすことができることから、制作作業を短縮する手段ともなっています。
そのため、国際映画社が制作を担当した第1クールでは合体変形シーンが線画で描かれている上、なぜか毎回合体変形シーンが登場しないこと、制作が東映動画に変わった第16話でフルカラーの合体変形シーンが登場すると第19話まで4話連続で登場していることなどから(第20~24話では物語を急いで終結させるために合体シーンを入れる余裕がなかったのではとも考えられています)、実は、線画は意図した演出ではなく、単に彩色が間に合わず、未完成のまま使われたのではないかとも言われています。
※3 『伝説巨神イデオン』(1980年5月~1981年1月)、『THE IDEON 発動篇 THE IDEON; Be INVOKED』(1982年7月)のラストシーンと酷似していることから、共に「イデエンド」と呼ばれています。