アニメの解説書『電脳コイル』② 磯光雄監督

アニメの解説書

『電脳コイル』の監督は、本作品が初監督となった磯光雄です。
この方、一般認知度はほぼ皆無に等しいのですが、アニメ業界では天才アニメーターとして、知らない者はいないという程の超有名人です。

『機動戦士Zガンダム』で動画、『機動戦士ガンダムZZ』で原画、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では作画監督を担当
1990~1992年に所属していたスタジオジブリでは、『おもひでぽろぽろ』、『紅の豚』、『海がきこえる』で原画を担当
1995年の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』では銃器デザインと原画を担当
同年の『新世紀エヴァンゲリオン』では作画の他に、第拾参話「使徒、侵入」の脚本を担当
2001年の『COWBOY BEBOP 天国の扉』、2003年の『ラーゼフォン 多元変奏曲』ではデジタルワークスを担当
といった具合で、経歴だけ並べてみても、その作品名の大きさに驚かされますが、ただ凄い作品に参加しているというだけではありません(抜擢されるという時点でもすでに凄いのですが)。
上記の作品を見た人に印象に残っているシーンを上げてもらったら、その中に、必ず磯光雄が担当しているシーンが入っているはず、というくらい彼の担当シーンは圧倒的に作品の中で輝いています。

たとえば、『新世紀エヴァンゲリオン』第19話で、覚醒した初号機が四つん這いで歩き、第14使徒ゼルエルを捕食するシーン。

『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の弐号機と量産型エヴァの戦闘シーン。

『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』では、『マトリックス』に影響を与えたと言われている、大理石の柱がマシンガンで砕け散るシーンが印象的な終盤の草薙素子と多脚戦車との戦闘でシーン。

かつて庵野秀明が担当した『風の谷のナウシカ』の巨神兵シーンが今でも語り草になっているように、磯光雄が担当した数々のシーンは、同じようにアニメファンの間では今でも語り草になっています。

1966年生まれでジブリ在籍時にはまだ20代ですから、天才と呼ばれるのも納得ですよね。
磯光雄のアニメーターとしての特徴は、何と言っても理詰めで追及していく絵や動きのリアリティで、人や物の動作について、物理的、心理的な面での影響がどのように作用して、どんな見え方になるのか、動きはどうなるのか、ということを理屈で考え抜いて描き出すところにあります。
もっと言えば、磯光雄の凄さというのは、現実の観察と再現によって実現できるリアル思考や再現能力が高いという範疇で語られるものではなく、空想上の物や動きを、理詰めで突き詰めるだけ追及して脳内で創作し、それをアニメの作画上で再現する、現実を超えた「超現実」「超リアル」とでも言うべき、見るものを圧倒する作画力にあると言えます。

そういう理詰めの作画スタイルが、設定や脚本にも反映されており、『電脳コイル』では、そうして創られた緻密な世界観に思わず惹き込まれてしまうのです。

ちなみに、磯光雄が初脚本を担当した『新世紀エヴァンゲリオン』第拾参話「使徒、侵入」では、主人公が所属する特務機関NERVの基地に侵入したナノマシン型の使徒が、コンピューターウィルスへと進化してNERVのメインコンピュータであるMAGIシステムをクラッキングして自爆コマンドを実行しようとする話が描かれており、『電脳コイル』を彷彿とさせる内容となっています。
こちらは『電脳コイル』ファンで未試聴の方がいらしたら、是非とも観ていただきたいところです。