新しくできた駿河屋本店ビルに行ってきた件③ 駿河屋とは?今更ながら駿河屋の基礎講座

前回は新しくできた駿河屋 本店を紹介しましたが、そもそもこの駿河屋を営んでいるのがどんな会社なのかご存じでしょうか?
駿河屋というのは店名で、運営会社は株式会社エーツーといいますが、県外はおろか、静岡県民ですら一般認知度が低い会社です。

駿河屋の元は小さな古書店
駿河屋の発祥は、1948年(昭和23年)に静岡市馬場町(浅間通り)で開業した古書店「太田書店」にさかのぼることができます。
町の古書店の一つに過ぎなかったこの太田書店は、1997年に有限会社太田書店となり、「エーツー」の名前で店舗を拡大していきます※1
そして2003年に、インターネット通販サイト「駿河屋.jp」の運営やゲームショップを展開していたベンチャー企業の株式会社ジーエックスが、この太田書店を株式交換※2によって完全子会社化します。
これを機に、太田書店は社名を「株式会社エーツー」へ変更しており、これが現在のエーツーというわけです。

ちなみに、エーツーの由来は、太田のローマ字表記「oota」を逆にした「a-Too」からとのことです。

昨年3月に袖師店が閉店したので、静岡市内ではエーツーの名を冠した店は、南瀬名店が残るのみとなってしまいました(静岡県外ではまだ数店舗が残っています)。

杉山綱重社長について
太田書店を子会社化したジーエックスの杉山綱重社長は、エーツーの現取締役社長です。
杉山氏は、太田書店の経営一家であった太田家と同級生繋がりがあったことから、ゲームの取り扱いについての助言を頼まれ、これをきっかけに太田書店及び太田家とのつき合いが生まれたのだそうです※3
この杉山綱重氏というのは、1990年代にゲームショップのアルバイト店員ながら、取扱い商材や仕入ルートを次々と拡大して※4、なんと日本で最初に通信買取り(インターネット上でのリサイクル事業)を始めた人物でした。
さらには通信販売も行うようになり、業績不振だったゲームショップを黒字化させた上、1998年には会社を立ち上げて運営会社から店舗を買い取って自社店舗「ゲームショップGX」を開店させ、インターネット通販サイト「駿河屋.jp」をオープンさせます。
さらに同年12月には支店であるGX池谷店をオープンさせていることからも、経営が好調で早くも拡大を始めた様子が伺えます。
前述の太田書店から同級生であった伝手でアプローチがあったのも、こうした杉山社長の手腕を聞きつけたためと思われ、経営コンサルティングを任されることになったわけです。
2000年に太田書店が株式会社太田書店に組織変更した際には、杉山綱重氏が取締役副社長に就任しており、翌2001年には、杉山氏の手腕が発揮されたものか、エーツーフランチャイズの募集が開始されました。
この杉山綱重氏がエーツーの社長に就任したのは翌2002年のことです。

店舗拡大と駿河屋リアル店舗という展開
2005年には、総合リサイクルチェーンの株式会社フォー・ユー※5から営業譲渡された中古書店ブックマーケット88店舗を、全てフランチャイズ化したことで一気に店舗が拡大。
これを機に、ジーエックスは子会社であるエーツーを存続会社として合併し、駿河屋というネットショップと中古販売店運営(直営店運営+フランチャイズ)という事業をメインに据えた一つの会社となります。
さらに、ファミコンショップ桃太郎の事業買収(2011年に株式会社ランシステムから直営店舗8店舗を事業譲渡)や、模型メーカー京商株式会社の完全子会社化(2021年)、鉄道模型メーカーの完全子会社化(2023年)など、リユース事業やホビー事業を営む国内企業の子会社化や合併、業務提携などを重ね、シャアや取り扱い商材、流通などを堅固なものにしていきました。

2015年には大阪府高槻市に駿河屋のリアル店舗「駿河屋 フィギュア・キャラクターグッズ館」をオープンします。
これが好評で各方面から出店の引き合いがあったことから、それまでのブランディングの結果として駿河屋のネームバリューが十分に高まったことの確かな手応えを得、全国主要都市に次々に駿河屋のリアル店舗を出店していくことになります。
2016年に秋葉原店、静岡本店、2018年に新宿店、池袋店、札幌店、2019年に日本橋オタロード乙女館(大阪府)、横浜店、2021年に大宮店と短期間に何件もの駿河屋リアル店舗を出店。
エーツーなどの個別の屋号で営業していた店舗も駿河屋にリニューアルしていった結果、「駿河屋」の屋号を冠した店舗は現在では68店舗にも増えています。
その他の店舗も、「ブックマーケット 函館美原店 Supported by 駿河屋・買取センター」、「ゲームステーション上大岡店 Supported by 駿河屋」といったように、店舗名や看板にもしっかり「駿河屋」の名前やロゴが入れられるようになりました。
これにより、駿河屋の知名度がますます上がり、ネットショップである「駿河屋.jp」のページビューも上がるという相乗効果が生まれていくわけです。

2024年1月現在、駿河屋の店舗は、直営店・フレンドリーショップ含めて全国に120店舗あります。
アニメイトは131店舗なので、これに迫る店舗数があるわけで、いずれアニメイト同様に47都道府県制覇を成し遂げるかもしれません。

ネットの方の展開も、2013年にスマホアプリ「駿河屋」をリリースし、2019年には海外向けネット通販サイト「駿河屋.COM」、誰もが「駿河屋.jp」に商品を出品できる「駿河屋マーケットプレイス」を開始しています。
2023年4月には、台湾へのリアル店舗出店が決定したことが報じられ、海外発進出にも意欲を見せています。

顧客優先主義
駿河屋を語る上で外せないのが、杉山綱重氏が起業時から掲げているコンセプト「顧客優先主義」です。
これは、顧客の「あったらいいな」を叶えるというもので、ゲームショップなのに同人誌を扱ったり、商材を増やしたり、ネットで売買ができるようにしたのも、こうした顧客ニーズを追求していった結果というわけです。
公式サイトの代表メッセージで杉山社長は、「お客様のご要望に応え続けることこそが、弊社の存在理由である」とまで宣言しています。

杉山綱重氏は2021年に行われた講演で、「お客様がどのような理由でどの商品を欲しいと思うかはわからない」、「突発的なことで価値が上がるようになる」という理由から、ある種類の商品を取り扱うなら、その種類の商品を一つ残らず全て登録するべきで、社員に「登録率は99.9%でなければダメだ」と指示しているとのことです。

この杉山氏による方針で、エーツーには2,000万件を超える圧倒的な商品マスタデータが蓄えられており、これがネット通販とリアル店舗の運営に活かされているといいます。

エーツーは、2019年に丸井グループとの資本業務提携の締結し、丸井グループが展開するマルイやモディといった大型商業施設への店舗出店、店頭受け取りサービス、ネット通販サイト「マルイウェブチャネル」への駿河屋出店、さらにはエポスカード(丸井グループ傘下の会社が発行する提携クレジットカード)との連携など協業策を進めています。
2022年には、日販グループの小売事業を担うNICリテールズ株式会社との協業で、駿河屋ブランドの店舗開発および店舗運営支援を行うフランチャイズ事業特化の合弁会社・株式会社駿河屋BASEを設立しました。

こした短期間に次々と新しい動きを見せるフットワークの軽さもエーツーという会社の特徴なのかもしれません。
それに加え、長年にわたる豊富なネット通販やリアル店舗出店の経験やノウハウ、膨大な商品マスタデータにも支えられ、駿河屋は今後もさらなる発展が見込まれます。
直営店+フランチャイズ店で800店舗以上を有するBOOK OFFなどでも、メイン商材を中古本からアパレルやブランドバッグ、トレーディングカードなどにシフトしつつあり、フィギュアや、キャラクター商品などを取り扱う店舗も増えてきていますが、ことホビージャンルにおいては駿河屋の圧倒的優位を覆すのはなかなかに難しいでしょう。

前回紹介した駿河屋 本店 駿河屋ビルなどは、もはやホビーのエンターテインメント施設のようで、驚安の殿堂ドン・キホーテやカプセルトイ専門店などのように訪れるだけで楽しい店となっています。
これがアニメファンやホビーファンのような一部の人たちだけでなく一般の方にまで広くその存在が知れ渡っていけば、そこにあるだけで集客効果のある店舗として、全国各地のイオンモールやPARCO、ルミネなど大型商業施設や百貨店などでの引き合いも増えていくことになるかもしれません。

筆者の出身地である静岡発祥ということもあって、個人的な思い入れもあるのですが、純粋に駿河屋の発展が、ホビー業界の活性化や地域振興にも繋がるものと期待して、今後も応援したいと思います。


※1太田書店曲金店を1995年に開店したのを皮切りに、同年に長野県佐久市のショッピングセンター内に店舗開店(移転後「エーツー佐久店」に改名)。
静岡県静岡市内にエーツー曲金店、エーツー馬渕店、エーツー唐瀬店、エーツー池ヶ谷店、エーツー袖師店、静岡県外にもエーツー佐久店(長野県)、エーツー鯖江店(福井県)の、さらにはフランチャイズ店が各地に展開していました。
ちなみに、発祥である静岡市馬場町(浅間通り)の太田書店は、現在は閉店して建物も取り壊されています。
筆者が子供の頃には、静岡浅間神社門前に600mほど続く浅間通り商店街には、太田書店を含めて古書店が4店程もあり、この辺りに来た際には必ず全店立ち寄っていたものでした。その内、あべの古書店、ブックスランドの2店は現在でも残っています。

※2 株式交換というのは、株式会社が、全株式を他の会社に取得させることで、その会社の完全子会社となることを言います。親会社となる会社は、株式取得の対価として、自社の株式を子会社化する会社の株主に交付することが一般的ですが、親会社のさらに親会社の株式を交付したり、現金等を交付することもあります。

※3 太田書店は当初は普通の書店でしたが、1995年に静岡市内に太田書店曲金店、長野県佐久市にも支店を開店し、店舗拡大と同時にゲームソフト・CDの取り扱いを始めたので、その際に相談があったものと推測されます。

※4 有限会社イケダ企画が運営していた「ファミコンショップ ぱる焼津店」でアルバイトをしていた杉山綱重氏は、同僚と共に同人誌即売会のコミックマーケットへ大手サークルの同人誌を大量に買い付けに行き、ゲームショップで販売していました。当時は同人誌も販売しているゲームショップなどはなく、かなり特殊な店となっていたようで、そうした独自過ぎる店舗運営のためか、ショップの経営者側とよく揉めていたそうです。
このぱる焼津店をイケダ企画から買い取り、ゲームショップGXを開店させ、その通販サイトが「駿河屋.jp」というわけです。
ちなみに杉山綱重氏は1972年10月生まれなので、20代半ばという年齢での話ということになります。

※5 株式会社フォー・ユーは、1988年に創業し、中古書店のブックマーケットをフランチャイズ展開していました(2005年時点でのフランチャイズ加盟店は177店舗)。
2001年に株式会社エイジェンスと共同出資(正確にはフォー・ユーの子会社である株式会社ジャンクション)で株式会社はなまるを設立して讃岐うどんチェーン事業(はなまるうどん)に参入するも、2002年に業務提携を解消。フォー・ユーは別の子会社で讃岐うどんの店を出店するも失敗し、うどん事業から完全撤退。このことで約3.6億円の損失を計上することになり、2004年6月期にはフォー・ユーの連結業績が損益約13.53億円の赤字に転落することになります。
この影響から、翌2005年にエーツーと資本提携し、中古書店のブックマーケット事業の商標権と本部機能へ売却し、直営店88店舗を営業譲渡、ブックマーケット事業からも完全撤退しました。