1話切り対策で初回拡大放送が続いている件
2010年代からテレビアニメの年間放送数が200作品を超え、現在では、実質的に全てのアニメを視聴することが困難な時代となり、多くの視聴者は、第1話もしくは第3話くらいまで見て試聴を続けるかを判断するようになりました。
この「1話切り」「3話切り」などと呼ばれている視聴者行動は、アニメを製作する側にとっては脅威です。
これを回避する方法として、初回拡大放送というものが行われています。
テレビドラマではよく使用される方法ですが、アニメの場合は、使用例はあるものの主流ではなく、かなり珍しい試みとして時折見かける程度でした。
ところが最近では、この手法を実施する作品が相次いでいます。
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<初回1時間以上の拡大版で放送したテレビアニメ>
2000年以前
『超時空要塞マクロス』1982年10月3日(TBS)
2000年代
『銀魂』2006年4月4日(テレビ東京)
『ブラック・ジャック』2004年10月11日(日本テレビ)
2011年
『Fate/Zero』2011年10月1日(UHF)
2014年
『ガンダム Gのレコンギスタ』2014年10月3日(TBS)
『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』2014年10月4日(TOKYO MX)
『結城友奈は勇者である』2014年10月17日(TBS)
2015年
『アクエリオンロゴス』2015年7月2日(TOKYO MX)
『終物語』2015年10月3日(UHF)
『ポケットモンスター XY&Z』2015年10月29日(テレビ東京)
2016年
『昭和元禄落語心中』2016年1月8日(TBS)
『Re:ゼロから始める異世界生活』2016年4月2日(テレビ東京)
『Rewrite』2016年7月2日(TOKYO MX)
『響け!ユーフォニアム2』2016年10月5日(TOKYO MX)
『ポケットモンスター サン&ムーン』2016年11月17日(テレビ東京)
2017年
『亜人ちゃんは語りたい』2017年1月7日(TOKYO MX)
『CHAOS;CHILD』2017年1月11日(UHF)
『アリスと蔵六』2017年4月2日(TOKYO MX)
2018年
『アイドリッシュセブン』2018年1月1日(TOKYO MX)
『ウマ娘 プリティーダービー』2018年4月1日(TOKYO MX)
『イナズマイレブン アレスの天秤』2018年4月6日(テレビ東京)
『妖怪ウォッチ シャドウサイド』2018年4月13日(テレビ東京)
『ソードアート・オンライン アリシゼーション』2018年10月6日(TOKYO MX)
2019年
『ブギーポップは笑わない』2019年1月4日(TOKYO MX)
『盾の勇者の成り上がり』2019年1月9日(TOKYO MX)
『彼方のアストラ』2019年7月3日(TOKYO MX)
2020年
『ダーウィンズゲーム』2020年1月3日(TOKYO MX)
『戦翼のシグルドリーヴァ』2020年10月3日(TOKYO MX)
2021年
『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』2021年4月3日(TOKYO MX)
『ひぐらしのなく頃に卒』2021年7月1日(TOKYO MX)
『ぼくたちのリメイク』2021年7月3日(TOKYO MX)
『探偵はもう、死んでいる。』2021年7月4日(TOKYO MX)
『鬼滅の刃 遊郭編』2021年12月5日(フジテレビ)
2022年
『東京24区』2022年1月5日(TOKYO MX)
2023年
『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』2023年4月9日(フジテレビ)
『推しの子』2023年4月12日(TOKYO MX)※初回90分SP
『ポケットモンスター リコとロイの旅立ち』2023年4月14日(テレビ東京)
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』2023年6月29日(TOKYO MX)※初回3話一挙放送
『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』2023年7月1日(TOKYO MX)
『葬送のフリーレン』2023年9月29日(日本テレビ)※初回2時間SP
『ラグナクリムゾン』2023年10月1日(TOKYO MX)
『薬屋のひとりごと』2023年10月21日(日本テレビ)※初回3話一挙放送
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『Fate/Zero』、『結城友奈は勇者である』、『Re:ゼロから始める異世界生活』、『ウマ娘 プリティーダービー』、『盾の勇者の成り上がり』といったヒット作がいずれも初回1時間放送をしており、因果関係は明確ではないものの、この1時間放送には効果があるとの認識が広まったためか、その後、初回1時間放送をする作品が増えていきました。
当然ながら初回1時間放送をした作品が必ずヒットするというわけではなりませんが、話題性を提供して注目を集められ、且つ1話切りの回避を期待しての施策というわけです。
特に2023年はこの初回1時間放送をする作品が次々と出ており、さらには、4~6月に放送された『推しの子』では、初回90分拡大放送、9月放送開始の『葬送のフリーレン』は「金曜ロードショー」で2時間スペシャルとして放送、10月放送開始の『薬屋のひとりごと』は初回3話一挙放送と、1時間を超える初回拡大放送も行われるようになっていきています。
年4回の番組改編時に放送開始となる新作のテレビアニメは40作品以上もあり、現在はNetflixなどの配信サービスでもオリジナルアニメが放送されるようになりましたから、時間がいくらあっても足りません。
最近ではドラマなども倍速で視聴する人たちもいるくらいで、タイパ※が求められる時代ですから、ますます試聴の取捨選択や1話切りなどへの対策が求められるでしょう。
ただし、初回1時間放送の作品が増えて常態化すると、珍しさが失われ、その注目度や効果も薄れてしまうことが考えられます。
また、余裕のある制作体制やスケジュールの元で、初回放送時に1~2時間という拡大版が準備できるような制作会社は数えるほどしかなく、テレビ局の枠を抑えるのにもお金はかかるはずですから、どの作品でも真似ができるというものでもないしょう。
これらのことから、現在トレンドとなっている初回拡大放送の流れは一時的なもので、これ以上には拡大はせず、限られた作品の施策に留まっていくのではないかと考えられます。
とは言え、それでは問題は解決されないので、TikTokやSNSで切り抜きショート動画を公開するなど、また新たな1話切り対策が生み出されていくことになろうかと思われます。
※「タイパ」は「タイムパフォーマンス」の略で、倍速視聴などで時短をする視聴者も出てきていることから、海外の配信ドラマなどでは、倍速視聴に適応し、短期の試聴離脱を軽減させるような新たなドラマ作りの手法が取り入れられています。