国立アートリサーチセンター設立とメディア芸術データベースの件
日本におけるアート振興の新たな推進拠点として、独立行政法人国立美術館が「国立アートリサーチセンター(NCAR)」を3月28日に設立しました。
独立行政法人国立美術館に属する7つの国立施設(東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館)を連携させ、内情報を集約して海外発信の窓口になるなど多様な役割が期待される組織とのことです。
注目すべき点は、文化庁の「メディア芸術データベース」を、このセンターが運営することになったことです。
「メディア芸術データベース」というのは、マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアート※の4分野を検索できるデータベースで、2019年11月からベータ版がネットで一般公開されています。
サイトで確認できるデータ件数は以下の通りです。
全データ:772,145
マンガ:538,173
アニメーション:169,953
ゲーム:49,684
メディアアート:14,335
神籬ではアニメや声優のデータベースを作成しているので、「アニメーション」のジャンルのみを確認しただけですが、数字だけ見ると17万件弱のデータがあり、膨大なデータが蓄積されているように見えます。
しかし、この数字は、作品数ではなく、1話=1件という数え方なので、国民的アニメで1000話を超えるような作品はそれだけでデータ数が1000件以上となってしまう仕組みです。
それもなぜか全部は登録されておらず、『ドラえもん』は841話から、『名探偵コナン』は171話からしかデータがないようです。
サイト記載の情報によると、2017年までのデータは、作品年鑑のような資料の調査とリスト制作委員会によるデータ提供・作品映像の調査・協力から、2016年10月から2019年12月までのデータは、株式会社エム・データ社による関東広域圏の地上波テレビ番組に関する提供データから作成・登録されたものとのことです(2020年1月以降のデータについては記載なし)。
データの中身を見てみると、例えば、『鬼滅の刃』の第1期の第1話のデータはこんな感じです。
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「鬼滅の刃」竈門炭治郎立志編 「残酷」 #1
発行者名:TOKYO MX1
公開年月日:2021-10-04
レーティング:G
放送開始時刻:19:00:00
放送枠時間:
枠タイトル:
音響:
色彩:カラー
字幕情報の有無:
型番:
商品識別コード:
版表示:
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このデータでは、どんな作品なのか(ジャンルや原作の有無など)、どんなストーリーなのか、何分間の放送なのか、どの制作会社が作ったのか、監督は誰なのか、竈門炭治郎役の声優は誰なのか、炭治郎の妹の名前は何だったか、主題歌のタイトルは何だったか、といったようなことは何もわかりません。
一般のアニメファンが作品のことを知りたいと思ったら、「メディア芸術データベース」で得られる情報は極めて少なく、Wikipediaを使うことでしょう。
データの網羅性についても、最新のデータも2022年12月31日放送分までしかなく、当然ながら今話題の『ちいかわ』や『推しの子』などの情報は登録されていません。
過去作品にしても先に触れた国民的アニメの情報の状況の通り、全てが登録されているわけではないようです。
日本のアニメ制作会社が出している年鑑などから情報を取得しているためか、1987年放送のディズニーアニメ『ガミー・ベアの冒険』や、2018年から第3シリーズまで現在も放送中のフランス・韓国・日本の合作アニメ『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』のようなアニメも登録されていません。
一般ユーザー向けの使用を考慮していない、もしくは考慮したけど、結果的に一般ユーザーが使用するようなものにはならなかったのかはわかりませんが、活用イメージがちょっと湧きにくいデータベースという印象です。
作品が全網羅的に登録されておらず、各作品のデータが完全ではない(未入力項目がある)という状態ですから、統計等にも使い難い現状があるようです。
自分たちでも活用イメージのないまま作ってしまったものなのか、3回にもわたりコンテストでデータベースの活用方法を広く公募するなんてこともしていました。
現状はベータ版とのことでもあり、コンテストで選出された活用案も、そのほとんどが現状のデータのままでは実現できないものなので、今はまだ活用方法や方向性を定めようとしている段階なのかもしれません。
話を「国立アートリサーチセンター」に戻しましょう。
このデータベースが国立アートリサーチセンターの運営に移管されるとのことで、今後、拡張され、コンテストで選ばれた活用案の実現に向かうのか、あるいは全く別の方向性に活用されていくのか、逆に縮小されるものか、現状では情報がなく全くわかりません。
アニメに着目すると、これまではメディア芸術の4分野の1つという立ち位置であったものが、メディア芸術自体がアート(美術)の中の1分野に収められることを考えると、肩身がより狭くなるのではとも思われ、少し心配にもなります。
神籬では、「メディア芸術データベース」の今後の動向について、期待と不安をもって見守りたいと思います。
網羅性やデータの内容も含め、神籬で制作しているアニメの作品データベースの情報量の方が多く、要請があればデータ提供をさせていただくのですが、関係者の方でご興味があれば、問い合わせフォームからご連絡下さい。
→データサンプルはこちらから
※「メディアアート」というのは聞き慣れない単語ですが、登録されているものを見ると、映像系のアート作品やインスタレーションの展示会のカタログや記事が掲載された『美術手帖』のような美術専門誌などが登録されています。
「京都国際映像展」のようなわかりやすいものの他、「現代の造形〈京都野外彫刻展〉」という映像とは関係のなさそうなものまで含まれており、登録基準はよくわからない印象です。