静岡が盛り上がる方法を考えてみた件② 家康と駿府城 後編

駿府城天守が足りない

静岡市には、中心部に駿府城址を活用した駿府城公園があり、内堀と石垣が残されています。
1989年に巽櫓、1996年に東御門、2014年に坤櫓が復元されましたが、天守はいまだに再建されていません。

駿府城の再建については、2010年3月までに静岡市駿府城天守閣建設可能性検討委員会による検討会が複数回行われたものの、天守復元についての結論を得ることはできないとし、これ以降、検討会は行われていません。
大河ドラマ『どうする家康』で昭和時代以来の家康ブームが訪れている中、家康の城の代表格である駿府城天守がないことは、観光客誘致の面では大きなチャンスロスと言えるかもしれません。

静岡市では2023年1月に、駿府城公園に隣接した場所へと静岡市歴史博物館を作りました。
建設中に偶然発見された戦国時代末期の道と石垣の遺構をそのまま見せる常態展示がウリですが、その他は復元模造の甲冑や、東海道図屏風、徳川家康書状といったもので、華となる展示物がない印象です。
当時の静岡新聞でも、総事業費約62億円もかけた博物館で展示物の目玉がレプリカばかりであることを指摘する記事が載った程でした。

静岡市歴史博物館建設の検討の際にも、人文系・自然系の県立博物館が無いのは静岡県だけ※1ということが指摘されていましたが、驚くべきことに、これだけ家康だ、歴史がある町だとアピールしておきながら、全国で最も歴史文化の保護・発信に遅れていたのです。
とても、都道府県別のGDP、人口共に第10位で政令指定都市を目指している静岡県とは思えません。

静岡県浜松市にある浜松城址では昭和33年(1958年)に建てられた鉄筋コンクリート造の模擬天守※2があります。
愛知県岡崎市の岡崎城址にも、昭和34年(1959年)に建てられた鉄筋コンクリート造の再建天守があります。

太平洋戦争後の復興を遂げ、高度成長期にあった昭和30~40年代にかけて天守の再建ブームがあり、浜松城と岡崎城の天守もこの時に建てられたものです。
このブーム時には、他にも下記のような城が全国各地で次々に建てられました。

<外観復元天守(再建天守)>
広島城(広島県・昭和33年)
和歌山城(和歌山県・昭和33年)
名古屋城(愛知県・昭和34年)
大垣城(岐阜県・昭和34年)
熊本城(熊本県・昭和35年)
松前城(北海道・昭和36年)
会津若松城(福島県・昭和40年)
福山城(広島県・昭和41年)
岡山城(岡山県・昭和41年)
高島城(長野県・昭和45年)

<摸擬天守>
平戸城(長崎県・昭和37年)
中津城(大分県・昭和39年)
伏見城(京都府・昭和39年)
横手城(秋田県・昭和40年)
唐津城(佐賀県・昭和41年)

その後も各地で城が作られ続け、近年でも2018年に尼崎城の天守が再建されています。

先にも触れた静岡市駿府城天守閣建設可能性検討委員会での結論に至らない理由としては、史実に忠実に再建するための資料が足りない中、急いで建てる必要はないのでは、という結論の先延ばしのようなものでした。

現在の天守跡地では、天守台石垣の発掘調査後の状態がそのまま公開されています。

静岡が家康と縁が深い地であることは、歴史好きでなくともよく知っていると静岡出身の筆者は思い込んでいましたが、2022年に静岡県静岡市が発表した東京都民を対象とするイメージ調査結果では、徳川家康が静岡市ゆかりの武将であることを知らないと回答した人が66%もいました。
これは一重に、静岡のPR不足が露呈したものと言え、浜松や岡崎に家康ゆかりのイメージを持っていかれているとも考えられます。

この辺り、アニメやマンガの地元資産を持ちながらも活用できず、隣接する豊島区にお株を奪われている練馬区と似ていて、ある程度恵まれていて切迫した危機感を持っていない自治体共通の動きの鈍さを感じます。

博物館の建設費である60億円があったら摸擬天守くらいは作れたかもとも思いますし、せめて静岡市歴史博物館の建物を、駿府城をイメージさせるものにするとか、やりようがあったとも思われますが、それを言っても後の祭りです。
今から駿府城再建というのは現実味のないところでしょうが、駿府城のイメージを活用する方法はまだありそうです。

江戸城天守(寛永期)は石垣13.8m、天守44.8mで総高58.6mですが、発掘された天守台の大きさから、駿府城の天守は江戸城のものよりも大きいと言われています。
5重7階で50m近くあった天守の1/5となる10m程の摸擬天守を駿府城公園内に作るだけでも集客効果は大きいでしょう。
実際に、2015年の「駿府天下泰平まつり」では、駿府城公園内に発泡スチロールとベニヤで作られた約15mの天守閣モニュメントが展示されたこともありました。

熊本県庁前やJR東萩駅前に設置されている熊本城や萩城のミニチュアモニュメントを、駿府城公園や静岡駅前広場、商店街などに設置するのも良いかもしれません。

さらに、駿府城天守のビジュアルをデザインしたマンホール蓋を駿府城公園付近に設置したり、駿府城のプラモデルを発売したり(実は史料の少なさから実像が不明な駿府城は、童友社、フジミ模型、ウッディジョーといった城模型メーカーでも取り扱われておらず、ペーパークラフトくらいしか販売されていません)、駿府城のイメージが描かれたラッピング自販機やポストなどもいいでしょう。
駿府城天守の在りし日の姿をCGでリアルに再現して現実の空間との合成画像を作成し、カレンダーや写真集を作ってみたり、各種PRポスターやチラシ用の素材に活用したりするのも効果的かもしれません。

史実に忠実であることも重要ですが、それを言っていてはいつまで経っても何も進まず、集客や広報的な効果を見込めません。
恐竜の復元図と一緒で、間違った部分はアップデートしていけばいいので、外観不明のままで何十年も手をこまねいていないで、現状できる形でビジュアル化して露出していくことが必要ではないでしょうか。


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※1 文化庁の登録施設のうち、人文系・自然系の県立博物館が無いのは静岡県、愛知県、京都府のみで、愛知県には名古屋市立博物館、京都府には京都府京都文化博物館という県立に比肩する博物館があります。

※2摸擬天守」は、天守が元々ない城や天守の実在が不明な城に建てられた天守、もしくは天守は実在したものの、史実に基づかない場所や形状(別の城をモデルにしたもの)で建てられた天守。
外観復元天守(再建天守)」は、実在した天守を鉄筋コンクリート造で外観のみを再現する形で再建したものです。「外観復元天守」のうち、史料不足などによって規模や意匠、場所などが異なる形で再建されたものを「復興天守」と言いますが、厳密には近代建築の材料や工法が用いられたものも「復興天守」とする見解もあってその境界は曖昧です。
また、静岡県熱海市の熱海城のように、歴史的には実在せず、観光用に作られたオリジナルの天守を「天守閣風建築物」と言います。
ちなみに、江戸時代以前に建てられたものが現在も保存されている天守を「現存天守」と言いますが、現存するのは、弘前城、松本城、丸岡城、犬山城、彦根城、姫路城、松江城、備中松山城、丸亀城、松山城、宇和島城、高知城の12城の天守のみです。