いまだ異世界モノが途絶えない件

アニメの解説書

前シーズンでやや作品数が減り始めたかに見えた異世界モノですが、今シーズン(2023年の冬アニメ)では、再び作品数が増え、アニメ業界において、まだ異世界モノ作品のアニメ化企画が通りやすいという状況は依然として変わらないようです。

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2022年夏:6作品
『異世界おじさん』
『異世界薬局』
『異世界迷宮でハーレムを』
『オーバーロードIV』
『黒の召喚士』
『転生賢者の異世界ライフ』
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2022年秋:4作品+1
『異世界おじさん』(継続)
『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』
『陰の実力者になりたくて!』
『転生したら剣でした』
※(異世界ファンタジー)『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』
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2023年冬:9作品
『異世界おじさん』(継続)
『異世界のんびり農家』
『神達に拾われた男2』
『最強陰陽師の異世界転生記』
『真・進化の実~知らないうちに勝ち組人生~』(第2期)
『転生王女と天才令嬢の魔法革命』
『とんでもスキルで異世界放浪メシ』
『便利屋斎藤さん、異世界に行く』
『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』
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異世界モノというと、転生か召喚かで異世界に行くパターンから始まり、そのパターンを崩そうとして様々な種類のものが出てきて、現在ではその定義もやや曖昧になってきています。

ゲームのような世界に転生するという設定から生まれた、ゲームのステータス画面が出現させられるゲーム的な世界観が定番化した結果、転生か召喚とかではない普通のファンタジー物語なのに、ステータス画面が出てきたりする作品もあります。
しかし異世界モノ自体が、ツッコミ上等の無茶苦茶でご都合主義的な世界観を前提とする作品であったために、視聴者も慣れ切ってしまい、ひどくおかしな世界観であっても受け入れ、違和感を覚えなくなってしまっているのです。

現実世界から転生や召喚によって異世界に行くというものではない、架空の世界を舞台にしたもの(現実世界が出て来ず、架空世界だけで完結する作品)でも、異世界モノと似通った世界観が描かれた作品には「異世界ファンタジー」というジャンル名がつけられることもあり、異世界モノとそうでないものとの境界をはっきりとは区分けできない様相となってしまっています。

パターン的にも、転生か召喚された際にチート能力を与えられて異世界で無双したりハーレムを作ったりといった初期パターンから、現在では、飲食店を営んだり(『異世界食堂』『異世界居酒屋「のぶ」』)、本を作ったり(『本好きの下剋上』)、薬局を開業したり(『異世界薬局』)、農業をしたり(『異世界のんびり農家』)と、異世界に行ったのに魔王を倒したり世界を救ったりというクエスト系ではない生き方や行動を描く作品が主流になってきているようです。

異世界美少女受肉おじさんと』や『賢者の弟子を名乗る賢者』のように異世界で性別が変わってしまうパターンや、『転生したらスライムだった件』、『蜘蛛ですが、なにか?』、『転生したら剣でした』のように、人外のものに転生するパターンも増えています。

さらに、召喚された異世界から現実世界に戻って来た男が17年間の異世界生活を語る『異世界おじさん』や、異世界と現実世界を自由に行き来できる『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』といった変わったパターンも出てきています。いわゆるパターン崩しというものですね。

また、これも異世界モノというジャンルに入れるべきか難しいところですが、現実世界から異世界に転生するのではなく、異世界から異世界に転生するという新たなパターンも出て来ています。
異世界を舞台に、魔王が2000年後の世界に転生する『魔王学院の不適合者』や、寿命を終えた異世界の英雄王が、別の異世界に女の子として転生して武人として生きる『英雄王、武を極めるため転生す』といった具合に、現実世界からではないものの、異世界転生モノではあるというわけです。

異世界モノに近しい作品で、ファンタジー世界を舞台にしたフルダイブ型のゲーム(VRMMO)のプレイがメインに描かれる『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』や、ゲーム世界の人と交信ができて、ゲーム内の登場人物と交信ができるようになった主人公2人が、神として登場人物たちの行動を導く『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』といった作品もあり、これらも含めるのならば、今期の異世界モノ系の作品数はさらに増えます。

異世界モノではない普通のファンタジー作品である
『アルスの巨獣』
『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』
『シュガーアップル・フェアリーテイル』
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ』
『人間不信の冒険者たちが世界を救うようです』
『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』
『冰剣の魔術師が世界を統べる』
『魔術士オーフェンはぐれ旅』
『齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定』
といった作品もあり、これらを加えると、今シーズンはファンタジーものだらけといった印象です。
どちらかというと『指輪物語』や『ロードス島戦記』の系譜であるハイファンタジー作品よりも、ゆるい世界観の「異世界ファンタジー」や「なろう系」などと呼ばれる作品が多いのも特徴です。

需要と供給のバランスが合致しているかは見解の分かれるところかもしれませんが、大ヒットとはならなくとも、国内外の配信も含めて一定の人気(視聴数)を得やすいジャンルであることや、『転生したらスライムだった件』や『無職転生 ~異世界行ったら本気だす』、『オーバーロード』といった異世界モノの人気作品の続編も控えていることなどから、今後も数年間はこの異世界モノが姿を消すことはないものと思われます。