声優変更で炎上?スラムダンクの新作劇場版『THE FIRST SLAM DUNK』

声優の解説書

2022年12月3日公開の劇場用アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』が現在炎上騒ぎとなっていますが、これは11月4日にYouTubeで公開した新情報解禁特番の中で発表された声優変更に端を発するものでした。

アニメのリメイク作品における声優交代は珍しいことではありませんが、人気作品である程、前作を良い思い出として記憶に留めているファンが多く、その記憶のままで再現して欲しいという心情も当然のこと。
昨年20年ぶりにリメイクされた『SHAMAN KING』では、主人公・麻倉葉役が旧作の佐藤ゆうこから日笠陽子に変更された以外は、主要キャラクターのほとんどが旧作のままのキャスティングだったことが旧作ファンの支持を得てヒット作となりました。

『ドラえもん』の声優交代からすでに17年も経っているというのに、ドラえもんの声が大山のぶ代でなくなったことに、いまだに文句を言っている特殊な方々もいますが、おそらくは現在の『ドラえもん』を視聴しておらず、自分が子供の頃に見た旧作の記憶だけを持ち続けてしまっているのでしょう。
(すでにほとんどの視聴者が水田わさびのドラえもんを受け入れていますし、メインターゲットである子供たちは、むしろ大山のぶ代のドラえもんを知りません。このような少数派の方々は、いずれ姿を消えていくはずです。)

一方先月最終回を迎えた『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』では、一部のキャラクターを除いてほとんどのキャスティングが変更されていましたが、炎上などせず、新旧ファンの支持を得て、こちらもヒット作となっています。
この他にも、『美少女戦士セーラームーン』『魔法陣グルグル』『フルーツバスケット』『ヤッターマン』といった作品でキャスティングが変更されてのリメイクが行われていますが、いずれも炎上騒ぎになどなっていません。

また、今期放送中の『うる星やつら』も同じくキャスティング変更されたリメイク作品ですが、声優発表時から放送が開始された現在に至るまで、批判するような声はほとんど聞かれませんでした。

確かに旧作のままの声でいて欲しいという願望があることは否定できませんが、アニメファンたちは長年にわたってキャスティング変更を受け入れてきました。
批判する場合は、作品を見た上で、変更した声優の声がキャラクターに合っていないとか、演技力の足りない新人を採用したことで作品自体が前作に比べて見劣りするものになってしまったといったような実質的な作品批評であって、変更されたこと自体に対しての批判ではないことが多いようです。
アニメにおいて声優が変更されることなんてことは、ごくごく当たり前のことで、それ自体を批判するのは、アニメファンとしての研鑽が足りない方々と言わざるを得ません。

では、『THE FIRST SLAM DUNK』はなぜ炎上したのでしょう。
それは、発表のタイミングが悪かったためです。
約2年前に行われた制作発表から、なぜか声優情報は一切出さず、特典付きの前売券を販売した後、ようやく劇場公開の1ヶ月前になって発表したものだから、一部のファンたちは、作品のプロデューサーや製作委員会の幹部たちが、声優を交代したら売上が下がる可能性があるから、前売券を売ってから発表しようという、騙し討ちのようないやらしい作戦でこのような発表タイミングを行ったのでは、と勘ぐったわけです。
確かにそう言われると、それ以外に声優発表をこんな公開直前にする合理的な説明がつかず、実際それが真実なのかもしれないと思わせる説得力があり、ファンの心情に寄り添うことよりも、自分たちの商売を優先させるその企業姿勢が、ファンたちの不支持を買ってしまったというところなのでしょう。

もしかしたら、『うる星やつら』での声優発表のように、かなり早い時期から、徐々に声優発表を行っていたら、新しい声優たちが演じる湘北チームはどうなるんだろうという期待の方が、旧作を懐かしむ心情を抑え、今とは真逆な結果になった可能性もあり得ます。

単に声優が変更されたことだけが批判されるとしたら、それは、湘北メンバーの声優に、声優経験や演技経験の薄い人気アイドルやタレントなどをプロモーション目的だけで起用したりした場合で、『THE FIRST SLAM DUNK』でキャスティングされているのは、いずれも経験豊かな声優たち揃いなので、これには該当しません。

ネットの記事タイトルだけを見ると、声優変更自体が炎上騒ぎの原因のように書かれているものが多く、中には本文でも声優が変更されたことに批判が高まっているとする記事すら見かけます。
筆者は、今回の炎上の本質は、声優変更自体ではなく、声優発表のタイミングに透けて見える、アニメファンを騙すかのようなプロデューサーや製作委員会などの運営姿勢への批判(それが真実かどうかはわかりませんが、一部の人たちにそう解釈されたこと)ではないかと見ていますが、みなさんはいかが思われますでしょうか。