打切アニメ列伝⑪ 人類滅亡の衝撃的ラスト『宇宙戦士バルディオス』前編

アニメの解説書

『宇宙戦士バルディオス』
1980年6月30日~1981年1月25日/東京12チャンネル/全31話
原作:酒井あきよし、葦プロダクション/監督:広川和之/製作:第一放映、葦プロダクション、国際映画社

当時は『機動戦士ガンダム』ブームの真っ只中で、アニメのターゲットが低年齢層からヤングアダルト層に変わっていく過渡期にあって、ハードな人間ドラマを描いた意欲作でしたが、メインスポンサーである野村トーイ※の経営悪化により、39話予定を31話に短縮する形で打ち切りとなってしまいました。

ストーリーは、
「西暦2100年、人類は太陽系全域に開発の手を伸ばし繁栄を謳歌していましたが、銀河の外れにあるS-1星では、放射能汚染による絶滅の危機に瀕しており、放射能濾過循環システムを開発して星を救うことを提案する科学者代表のレイガン博士に反対し、別の惑星を侵略して移民することを提案する軍部総司令官のガットラーが、皇帝を暗殺して総統の座に就き、権力を掌握してしまいます。
軍部は研究所を襲撃してレイガン博士を殺害し、民衆を乗せた移民船にて新天地を求める2万光年の旅に出発。
マリンは、父の残した亜空間戦闘機パルサバーンに乗ってガットラーを追うも、移民船のワープによって生じた次元嵐に巻き込まれ、太陽系に飛ばされてしまいます。
マリンが地球人に発見されていた頃、地球を発見したガットラーは侵略を開始。
S-1星人の科学力は地球よりも進んでおり、地球の世界連盟は劣勢を強いられるも、地球人科学者クインシュタイン博士は、これに対抗すべく、地球製の戦闘機バルディ・プライズ、キャタレンジャーと合体して巨大ロボ・バルディオスになれるようにパルサバーンを改造。マリンは、地球人の仲間と協力してS-1星人による地球侵略を阻止すべく戦う」
というもので、異星人でありながら、一人地球側について戦う主人公が、地球人からの疑惑と反発にさらされながらも、戦いの中で信頼を勝ち取っていき、仲間たちとの友情を育みながら戦う姿が描かれていました。

敵味方入り乱れた友情や策謀、争いの虚しさなど、『機動戦士ガンダム』が打ち立てたリアルロボット系のハードな人間ドラマを描く一方、戦闘シーンに関しては、科学力が劣るはずの地球で改造されたバルディオスは、圧倒的な強さを誇る無敵状態で、敵をサーベルの一刀両断で倒してしまうスーパーロボット系となっています。

『宇宙戦士バルディオス』と言えば、まず真っ先に話題に上るのが、バッドエンドでの衝撃的な最終回です。
最終話前の第30話「地球不毛の日」は、S-1星人の食糧地帯絶滅作戦(化学薬品散布による農地の壊滅)により世界的な食糧危機が発生するも、人工栄養を開発したことで解決する話でした。
その翌週は、太陽系に接近するアルデタイト星(亜空間エネルギーの原料で出来た星)の争奪戦が描かれた第31話「失われた惑星」が放送されるはずでしたが、どういう判断なのか、1話繰り上げて第32話が最終回として放送されました。
最終回時点で、第39話(最終回)までの脚本は完成しており※、3話分(本来の第31話と第33~34話)の完成済み未放送フィルムが残っていたそうですが、これらは全てお蔵入りとなってしまいます。

最終回として放送された第32話「破滅への序曲(前篇)」は、移民船のエネルギー不足問題が浮上して後がなくなったガットラー総統が、人工太陽により南極と北極の氷を溶かす地球人抹殺作戦を遂行する話でした。
30億人が被害に遭うと試算されるも、世界連盟は、もう何をしても間に合わない上、二次被害が出れば次の戦いに差し支えると出撃を許可せず、マリンたちは呆然とするのみ。エンディング曲と共に約100秒間にわたって世界各地が洪水に襲われる様子が描き出され、最後は真っ赤な画面に大きな「完」の白文字が出て終了。
いわゆる主人公側の完全敗北で、地球人全滅という救いのないラストとなっていることから、視聴者はもちろん、業界内外にも驚きを与えました。

葦プロダクション代表取締役の佐藤俊彦氏によると、広告代理店の好意で1か月間延長してもらえたとのことなので、苦し紛れに無茶な最終回を流してしまったというよりは、意図的な最終回と考えた方が良さそうです。
さらに、第32話(最終回)の演出を担当した西村純二によると、最終回として放映するにあたり、セリフなどを変更することはなく、ラストシーンのBGMを追加したくらいだとのことなので、手直しして最終回としての体裁を整えるくらいの余裕はあったにもかかわらず、敢えてそれをせずに第32話をそのまま放送したのだから、確信犯だと言えるでしょう。
作品に問題があっての打ち切りではありませんから、制作側にも悔しい思いがあったはずで、何か傷跡を残そうとか、今風に言えば炎上商法的などでかい花火を打ち上げてやろうといった思いから、悲劇的ラストの第32話を最終回にしたことが想像されますが、その結果、意図通りの効果が充分に発揮されて現在でも語り草になる程、アニメ史に傷跡を残しました。

放送終了直後からテレビ局へ問い合わせが殺到した上、その後も「MARINE」などのファンクラブ主催の集会や自主上映会、完全版の放送を求める署名運動などが行われたそうです。
『機動戦士ガンダム』や『宇宙戦艦ヤマト』、『伝説巨神イデオン』などの記事に押され、放送中はあまり目立たなかった『宇宙戦士バルディオス』の記事ですが、放送終了後は積極的にアニメ誌への情報・画像提供が行われ、衝撃的な最終回が話題になったこともあって、各誌こぞって記事を掲載しました。
さらに、葦プロダクションでは1981年4月に自社出版で、未公開になった3話分(本来の第31話と第33~34話)と未制作の第39話までを含む全ストーリー紹介や、設定資料などを収録した作品の豪華本まで発売しており、「転んでもタダでは起きないぞ」、「このままで終われるか」といった制作サイドの作品へかける思いが伝わってきます。

打切アニメ列伝⑪ 人類滅亡の衝撃的ラスト『宇宙戦士バルディオス』中編へ続く


※野村トーイは、1992年にアメリカの玩具メーカーのハズブロ(Hasbro, Inc.)に買収され、ハズブロの日本法人となりますが、業績が回復せず、1998年に解散しています。

※広川和之(廣川集一)監督によると、打ち切り決定時点では、第39話までの脚本は完成済みで、絵コンテまでは進んでおらず、近代映画社のアニメ誌「ジ・アニメ」1981年3月号の特集記事の申し入れがあった際に、放送されないことは承知の上で未制作だったコンテを仕上げたとのこと。