アニメの解説書『電脳コイル』⑦ 聖地

電脳コイル』の舞台は、設定上は金沢に近い日本海側の架空の地方都市「大黒市」となっていますが、作画上のモデルとなっているのは、意外にも東京都の中野区なのです。

作中では、非正規品であるメガシ屋の電脳アイテムを使う主人公たちが、サッチー(ウイルス駆除ソフト)に追われて、神社に逃げ込むシーンが多く描かれています。
郵政局の管轄であるサッチーは、学校文化局管轄の病院、公園、神社などには入れない設定となっており、主人公たちはこれらに施設に逃げ込んでサッチーをやり過ごしていました。

それらの神社の一つは、打越天神北野神社(中野区中野5-8-1)をモデルにして描かれています。
作中では神社名が「丑子(うしね)神社」となっていましたね。
第2話で、サッチーに追われるフミコとヤサコが逃げ込んでいました。
第6話では、ヤサコとフミエがハラケンの正体を探るために、この神社内からサッチーの観察・研究をしていました。
第22話で、デンスケのカプセルを抱えて逃げる京子が、2.0から隠れていたのもこの神社でした。

神社の近くには、第2話でフミエがサッチーから逃げるために、メタタグを使って無理やり信号機を青に変えた交差点もそのまんま実在します。

『電脳コイル』が制作されていた当時のマッドハウスは、荻窪駅の東側にある藤澤ビルの9Fにありました。隣駅の中野の東側近くにある北野神社までは約5km程度の距離感ですから、地元と言えなくもありません。
ちなみに、マッドハウスは2010年に荻窪から中野(北野神社から約1.5km南にあるビルの2~4階)に移転しています。


(自社ビルではないので、看板以外に見るべきものはありませんが)

第13話は、ヤサコたちが、デンパが育てていた首長竜型イリーガルを助けようとするお話。
イリーガルが触れると消えてしまう陽の光を避け、深夜に救出作戦を実行するも、奮闘の末、タイムオーバーで夜が明けてしまいます。
川の対岸に建つ工場の煙突群を仲間と見間違えた首長が、朝陽が輝く川に飛び込んで行ってしまうラストシーンが印象的でした。
この煙突群のモデルが、足立区にあった千住火力発電所のおばけ煙突※1
現在は煙突を輪切りにした巨大なリング状のモニュメントが残るのみですが、隅田川越しの夜明けは素晴らしい景観ですので、今は亡き首長に想いを馳せながら訪れてみるのも一興です。

第25話では、ハラケンが、かつての親友マユミに会うために金沢市へ行ったヤサコを追いかけ、金沢に向かいます。
やって来た金沢でオバちゃんに見つかってしまうシーンで、金沢駅が出て来るのですが、再現度はあまり高くありません。
作中での中央コンコースは大理石の円柱がたくさん描かれていましたが、実際には四角柱です。2015年に行われた大規模リニューアル後は、柱が木材で装飾されたものになっており、雰囲気すら残っていません。

金沢はさすがに遠いなと思われている関東圏にお住まいの『電脳コイル』ファンにとっては、意外にも近場に聖地があるので、機会があれば訪れてみてはいかがでしょうか。


※1 昭和39年(1964年)に解体済。Wikipedia:千住火力発電所