3月8日は月刊ニュータイプの創刊日
角川書店(現・KADOKAWA)が発行するアニメ雑誌「Newtype(月刊ニュータイプ)」が創刊されたのは、39年前の1985年3月8日でした。
現在では、学研の「月刊アニメディア」、徳間書店の「月刊アニメージュ」と並び、「三大アニメ誌」、あるいは「アニメ誌御三家」などと呼ばれるアニメ誌の一つで、アニメファンの間では知らぬ者がいない程の存在となっています。
「月刊ニュータイプ」創刊当時に発行されていたアニメ誌といえば、
「季刊ファントーシュ」ファントーシュ編集室→バルク 1975年10月創刊(1977年8月の7号で休刊)
「月刊OUT」みのり書房 1977年創刊(1995年5月号で休刊)
「アニメ―ジュ」徳間書店 1978年創刊
「Animec」ラポート 1978年12月創刊(1987年2月号で休刊)
「ジ・アニメ」近代映画社 1979年創刊(1987年1月号で休刊)
「マイアニメ」秋田書店 1981年創刊(1986年7月号で休刊)
「アニメディア」学研 1981年6月創刊
「アニメV」学研 1985年6月創刊
といったものがあり、角川書店はかなりの後発参入でした。
そのほとんどが1974年放送の『宇宙戦艦ヤマト』や1979年放送の『機動戦士ガンダム』(ファーストガンダム)が起こしたヤングアダルト世代のアニメブームを受けて創刊したものですが、角川書店はこのアニメブームをスルーしたわけです。
そんな角川書店が、この空前のアニメブームが一様の収束を見た1980年代中盤という周回遅れの時期にようやくアニメ誌を創刊させた背景には、1985年3月公開の角川春樹事務所製作によるアニメ映画『カムイの剣』※1の存在がありました。
当時は角川書店の2代目社長である角川春樹が映画製作に進出し、映画『時をかける少女』『探偵物語』『里見八犬伝』、アニメ映画『幻魔大戦』など、自社の出版する書籍を映画化するメディアミックス戦略を展開していた時代です。
角川社長には、編集側の意図とは別に、自身の製作した映画の援護射撃として、アニメ誌を創刊させる意図があったわけです。
当時、角川書店のテレビ雑誌『ザテレビジョン』では、何週にもわたって富野由悠季監督の『重戦機エルガイム』の特集が組まれていました。
その後、同編集部はこれらの取材を元に『重戦機エルガイム』のムック本を出版したところ、ヒットとなったため、2冊目の準備を進めている中、担当編集だった佐藤良悦氏が角川春樹から編集長に指名され、アニメ誌の創刊を命じられたのです。
創刊の中心人物の一人となったのは、ラポートで「Animec」の副編集長を務めていた井上伸一郎氏※2でした。
独立してフリーの編集ライターとして角川書店のテレビ雑誌『ザテレビジョン』のアニメ記事コーナーを担当していた実績を見込まれ、創刊号に副編集長として関わり、2年後には編集長に就任します。
井上氏はライター時代に富野由悠季監督へインタビューしたのをきっかけに、富野番となってサンライズに頻繁に出入りしており、『重戦機エルガイム』のメカデザイナーである永野護とも接点を持っていました。
そのため、富野監督や永野護らサンライズに集結していたクリエイターたちが、アニメブーム停滞期にあった1980年代中盤にあって、新たな時代を生み出そうとしている機運を感じ取り、その旗頭として制作準備中だった新しいガンダムのアニメとの連動を図ろうと考えたのは自然の流れだったわけです。
雑誌の名前もガンダムシリーズの最重要キーワードでもある「ニュータイプ」が採用され、そこには新たな時代を生み出そうというメッセージが込められていたのは言うまでもありません。
「月刊ニュータイプ」創刊号は、1985年3月に放送開始した『機動戦士Zガンダム』とのタイアップという形となっており、表紙は梅津泰臣の原画による『機動戦士Zガンダム』の主役機であるガンダムMk-II。
特集記事は放送を開始した『機動戦士Zガンダム』と最終回を迎えた『重戦機エルガイム』、さらには富野由悠季らのインタビュー記事、『機動戦士Zガンダム』の設定資料集、永野護のマンガ処女作である『FOOL for THE CITY』も連載開始(2年目からは『ファイブスター物語』の連載が開始)。
ちなみに、角川春樹から課された『カムイの剣』の援護射撃はどうなったのかというと、別冊付録という形で『カムイの剣』の小冊子が付けられていました。
アニメ誌では異例のテレビCMを創刊号から打っていたのにも驚かされました。
当時最も売れていた徳間書店の「アニメージュ」は、アイドル雑誌の「明星」や「平凡」を参考にして、アニメのキャラクターを芸能人のように取り扱い、美少女キャラのグラビアイラストやキャラ人気ランキング、読者投稿ページなどを展開。宮崎駿をはじめとする制作スタッフを紹介し、アニメ作品の魅力や見所を解説するといった試みも成功し、アニメファンに支持される雑誌となっていました。
「月刊ニュータイプ」はこの路線をさらに強化する形で、よりビジュアル性を高めた雑誌となっていました。
雑誌の大きさも、A4サイズの「アニメージュ」※3よりも幅広で、「anan」や「non-no」と同じA4ワイドサイズとなっていることからも、これらファッション誌を意識しているものと思われます。
まだ若干子供っぽさを残した「アニメージュ」と一線を画するように、洗練されたスタイリッシュでデザイン性の高い1ランク上の大人っぽくカッコいい雑誌と言う印象でした。
創刊号からの購読者である筆者は、このビジュアルに魅せられて、毎月発売日の10日を心待ちにする少年時代を送ったものです。
内容に関しても、「月刊ニュータイプ」では、アニメに限らず、海外のSFX映画・ドラマなどの特集も組まれることもあり、映像文化好きなオタク層に向け、旬な映像作品の情報発信を行う姿勢が特徴となっています。
このようなビジュアル路線や幅広い映像作品の情報発信などが支持されて、創刊後まもなく「アニメージュ」を抜いてアニメ誌のトップに君臨。
『新世紀エヴァンゲリオン』が牽引した平成時代(1990年代)のアニメブームの際には、アニメ誌としては異例の40万部という大記録を打ち立てました。
時代を経るとともに、これらのコンセプトも次第に変化し、他のアニメ誌もデザイン性を高めてきたこともあって、「三大アニメ誌」各誌間の差や特長も薄まってきている感はあります。
特定分野に特化した「メガミマガジン」や「PASH!」、「電撃G’s magazine」だったり、「声優グランプリ」をはじめとする声優雑誌などが登場し、アニメ雑誌の勢力図も創刊当時から随分変化していることもあって、現在の発行部数は3大アニメ雑誌ともに5万部を割るとも言われています。
来年はこの「月刊ニュータイプ」が40周年を迎える記念の年です。
その名の通り、新人類(ニュータイプ)を目指して始まったものの、すでに何十年という年月を経た現在、さらなる変化、あるいは進化を見せてくれるものか、期待を込めて見守りたいと思います。
〈了〉
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※1 『カムイの剣』は、1975年に角川書店から文庫版が全1巻で刊行された矢野徹作の冒険時代劇小説です。
角川春樹事務所により1985年にアニメ映画化され、監督はりんたろう、主役の声優を真田広之が担当し、主題歌を薬師丸ひろ子、原田知世と共に「角川三人娘」と呼ばれた渡辺典子が歌っていました。
※2 井上伸一郎氏は、ラポートで「Animec」の副編集長を務めるも退社。その後、角川書店の子会社である株式会社ザテレビジョンに入社し、『月刊ニュータイプ』の副編集長→編集長を務め、株式会社角川書店のアニメ・コミック事業部部長、取締役、常務、専務、社長を歴任。
角川グループホールディングスになってからも、グループ会社の社長を歴任し、株式会社KADOKAWA代表取締役副社長にまで出世し、2021年6月以降は、同社の上級顧問 エグゼクティブ・フェローに就任しています。
※3 「アニメージュ」は、創刊20周年の1998年7月号から、「月刊ニュータイプ」と同じA4ワイドサイズに変更されました。